ローザの力尽く
騎士の詰め所にて、俺と、五人の魔装姫は事情説明をさせられていた。別に隠すこともないので、今までの事を全部話す。
「君、良く生きてるね…」
「え、なんで?」
「「(ギロッ)」」
「……あ」
ローザ達に睨まれてようやく理解した。よく考えたら、この子ら騎士からは最凶とか言われてるんだっけ…?どの辺が凶なだろうか。どっちかというと吉な気がする。…可愛いし。
「で、さっきの魔装姫--いや、魔装と言うべきか。 本当に君たちの仲間ではないんだね?」
「………うん。 少なくとも私達は知らない人だった」
それは魔装姫達の総意であった。勿論俺も知らない。なにせ、こっちの世界に来てからまだそれほど経ってないし。
「ならば、アレは一体…」
「狙いは俺っぽかったけどな」
「………ハジメに、魔装を使わせようとしてた」
「確かに、そんな感じの事は言っていたが…」
使いこなせるのは貴方だけ、とか言ってたけどそんな事は無い気がする。慣れれば誰にだって使いこなせるだろう。
…使われる可能性の方が高いが。
「うーん…。 まぁ、見かけたら要注意、としか言えないな…」
「だよなぁ…」
他に良い案も無い様なので、これからは銀髪緑眼の少女に注意して行く事にした。結局、それが一番良い手だと思うし。
話しが纏まったあたりでローザがコートの裾をクイクイと引っ張る。
「………お腹空いた。 帰ろ?」
「…そうだな。 取り敢えず、一旦帰ろうか」
全員が頷いて、帰る用意を始める。ちなみに、買ったものを入れた鞄はローザが戻った時に持って行ってくれていた。
「………ハジメだけ、手ぶら。 ずるい」
「んなこと言われても、魔装もったら駄目なんだろ?」
「でも確かに手ぶらはずるいわね」
「どうしろってんだ…」
「誰かおんぶするとか?」
「止めて--」
くれ、と言いたかったが、どうやらもう決まったらしく、誰がおんぶして貰うとかの話になってる。
『私が!』とか『私だって結構がんばったし!』とか『………ハジメに背負って貰うのは、私』とか言い合いをしている。
………あ、そうだ。この隙に帰ればいいんだ。
そろり、と出入り口に向かう。ナーザはあえて目を逸らしてくれていた。
後一歩で扉に手が届く、と言う所で背後から五人分の手が伸びてきてガッシリと掴まれる。
恐る恐る振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべた五人がいて--。
「ハッ!」
目が覚めたら自室にいた。安心と信頼のローザの馬乗りを受けながら目を覚ます。
だが、いつもと違うのはローザが包丁を持っている事だろうか。…包丁?
「………ハジメ」
「は、はいっ!?」
「どうして、逃げようとしたの?」
そのセリフは予想していたが、喉元に包丁を突き付けながら言う事で無い事は確かだ。
「いやだってあのままじゃ面倒--」
「………あ、手が滑--」
「ごめんなさい! 謝るからそれだけは勘弁!」
逆手に持った包丁を振り上げながらそんなこと言っても意図的にやってる様にしか見えない。
「………兎に角、これからは、逃げようとしない事」
「はい…」
「………次、逃げたら、気絶じゃ済ませない」
「はい…」
「………一緒にお風呂入る」
「は--いや、それはおかしいだろ!?」
「………残念、引っかからない」
あ、危なかった。危うく自分から一緒にお風呂入る事を肯定しかけた…。
ローザ、なんて策士…!
「………ま、私もう入った後なんだけどね」
「髪濡れてるから解ってたけどさ…」
「………ハジメも、早く、入ってくる」
「へいへい」
ローザに促されるままお風呂に行く…前に、しっかりと時計を確認しておく。
適当に汗を流し、頭を洗ってから湯船につかる。
「…ん? なんか上で大きな物音が…」
確か、この上の部屋は…俺の、部屋、だ。ローザが何かやらかしているのだろうか。
逆上せないように、さっさとお風呂を上がり、身体を拭いて着替えて部屋に戻る。
「………」
部屋の前で止まってしまう。何故か?いや、凄い音聞こえるんだもん。スパッ、ドスンって聞こえるんだもん。
覚悟を決めて、部屋の扉を開く。するとそこには--。
「な、なにをしてるんだ…?」
「………何って、ベッドを一つにしてるだけ」
「一つにしてどうするんだ…?」
「………? 一緒に寝る」
駄目だこの子。早くなんとかしないと。
「ま、まぁ落ち着け。 なんでまた急に?」
「………逃げた、罰」
「ベッド斬り崩したら、これから先も一緒って事じゃねぇか!」
「………永久の罰」
「くっ。 まだ、まだ間に合うはずだ…!」
バラバラになった俺のベッド--だった物--を集める。が、集めている間にも、ほかの部位を木っ端微塵にされる。
「どうして、こんな事を…!」
「………ハジメの、質問。 『欲しいものはどうやって手に入れる?』って聞かれて、私は『力尽く』って答えた、よね?」
「………」
「………ハジメに嘘は吐きたくない。 だから、力尽くででも、貴方と寝る」
「お、落ち着け。 そのロープはなんだ…?」
「力尽く…!」
「う、うわあああっ!?」
一体どこから取り出したのだろうか。相変わらず魔装姫は不思議な存在だと思う。なんて思ってる間に、瞬く間に拘束されてしまう。
「………ん。 眠い。 寝る」
「お、俺を抱き枕にするなっ!」
「すぅ…」
「寝るの早っ!」
「うるさいぃ…」
「むぐぅ!?」
またしても何処から取り出したのか、テープで俺の口を塞ぐローザ。完全にホールドされて逃げる事が出来ない。魔装姫の力はやはり強かった。
言うまでも無いが、朝になってラーズが起こしに来た時に見つかってローザが所々可笑しな説明をしたせいでその日一日説教された。ラーズの部屋で拘束されたまま。その後、なんとか弁明をしつつ謝り倒して解放して貰った。
「次やったら、私特製の毒漬にするからね」
と言われた。
…冗談だよな?
今は夜。一人で森林で月光浴をしている。…相変わらず、月かどうかも解らないが、少なくとも見た目はそのまんま月だ。
「あー…。 落ち着く」
心身ともに安らいで、ぼーっとする。そのぼーっとしたままの頭で考え事する。
六個目の魔装。あれは何だったのだろうか。
まず、この世界に双剣という概念は存在しないようだった。ローザがラーズに聞いて見よう見まねでやったのは死にかけた時に見たけど、少なくとも騎士は剣を二本持って戦うという事はしないそうだ。
なら、あれはどうして存在するんだ?存在しない概念の魔装が、どうして存在しているんだ?
急に思考が冴えてくる。目も覚めてくる。微かに感じた違和感を逃さないように、意識を覚醒させる。
まず、どうして彼女は『私を使いこなせるのは貴方だけ』と言ったのか。これは考えれば解る。双剣を使える者は俺しかいないんだから、当たり前だ。
問題は、何故それが存在するのかなのだが、さっぱり解らない。これが違和感の正体だと思うのだが…。
その時、背後から何かが身体に当たり、そのまま体を抜けて行く感覚が走る。
「え…?」
それは、見覚えのある剣だった。
振り向く。やはり、そこにはあの銀髪緑眼の少女が立っていた。その剣が、背後から俺の身体を貫通している。
「あはは。 一人で出歩いたのが仇になったね、ハジメお兄さん?」
「ぐっ…あ…!」
もう一本も突き刺される。その剣が黒い霧を纏っているのは、暗闇の中でも良く解った。
「いま、私の事を考えていたんだろうけど、それなら思い出すべきだったね」
「思い、出す…?」
「私は、ハジメお兄さん達の前から消えたよね。 なら、現れる事も出来るって、考えるべきだったね」
そういう、事か…!
「でも、今更気付いても遅いよ。 もう、私の毒は貴方の中にどんどん入っているもの…」
それは解っている。だんだんと冷静に物事を考えられなくなって行くのが解る。このままでは、俺もローザ達と変わらなくなってしまう。
「あはっ。 幾らあがいても無駄」
「くそ…」
だんだんと思考に霧がかかってくる。先ほどの、黒い霧が。
…だから、なんだ?
単純思考になったのか、思考に霧がかかってもそれがどうした?いつも通り考えれば良いだろう、と思う。
「あははっ。 さぁ、これで六人目の魔装使いが--っ!?」
「ふざけてんじゃ、ねーぞ…!」
自分から前に進み出て、刺さる二本の剣から逃れる。
「そ、そんな…!? 毒は、確かに入ったはずなのに…!」
「毒? それがなんだ」
そこで一拍置き、俺は告げる。
「んなもん、逆に利用してやる!」
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