~帰宅~
すいませ~ん。遅くなりました~
換金を終え、ホクホク顔でココが寝ている部屋に戻ると、ココは寝ていないで黒い猫と戯れていた。
「……どうしたんだ? その猫は」
「雅彦さんのかばんの中に入っていたんですけど、飼い猫じゃないんですか?」
黒猫を膝の上に置いて僕の方を向く。でも右手で猫の首をくすぐっている。
俺のかばんの中だと? そんな記憶なんてないし、それに僕はこの世界で猫を見たことは一度もない。
「いや、違うけど。まぁ何かの縁だ。俺達で飼ってみようか」
ココのそばまで寄り添って座る。すると、その黒猫は俺の太ももの上に移動して気持ち良さそうに体を丸める。
「やっぱり雅彦さんの猫じゃないですか。私の時は少し嫌そうな感じでしたもん」
頬をふくらまして拗ねるココはより一層子供っぽく見える。
「そうなのか。とりあえず名前をどうするかだよな~」
猫を右手で撫で続けると、ごろごろと鳴く。
「……そういえばアイツもこんな真っ黒い髪だったんだよな~」
「誰ですか。アイツって?」
俺の独り言が聞こえたようで、ココはシリルの事を聞こうとしているようで俺の目をじっくりと見ている。
「うーん。まぁ俺の嫁だよ。俺がやりたいことを許してくれてるんだけどね」
「雅彦さんって既婚者だったんですね。その指輪がお二人の証なんですか?」
やはり、ココ達人間にはわからないことなのだろう。人差し指に指輪をはめるなんてことにあんな大切な意味が込められれているなんてことを。
「まぁ、今こんな感じだ。一度帰っても良いかなと思っているんだが、ココも来るか? というか行こうか」
こんな状況でしか顔を見せに行けないのだから、見せれるときに会いに行った方が良いだろう。
「良いんですか? 私なんかが一緒に行って」
「もちろんだよ。それじゃまずは色々と身支度をしよう。でもその前にコイツの名前を決めてしまわないと」
丸くなっていた猫はいつの間にか寝息を立てている。猫は寝息をたてるのだろうかと思ってしまうが、そこは触れないでおこう。
ただ、寝ている猫を起こすのは気が引けるので、起こさないようにゆっくりと絨毯の上で寝かせる。
そして名前だ。こいつの名前になにをあてがうべきか。そもそもこの猫はどこからやってきたのだろうか? ココ曰く、俺のかばんの中にいたというのだが、俺は猫はおろか自分のバッグに動物を入れたことは一回もない。
でも、ここまで懐かれるとポイ。っと捨てるのも心苦しいのでこの猫もシリルのところに連れて行こう。名前は安直だが『クロ』にでもしておこうか。
「じゃあ今日からお前はクロだ」
黒猫もといクロは特に興味を示さず、大きく欠伸をする。本当に猫の仕種だ。
「でも、ここから雅彦さんの奥さんにはどうやって会いに行くんですか?」
「ん~。馬車かな。かなりの時間台車に揺られるんだが」
ここに来た時みたいにミランダの背中に乗せてもらうのは、まず彼女が居なくてはいけないので、時間をかけて進むしかない。
「馬車ですか。私この町から一回も出たことが無いので、楽しみです!」
これから彼女に待ちうけている楽しみを想像しているのか、目を閉じている。
「荷物も纏めたようだし部屋から出て食糧を買いに行こう」
俺達は部屋から出て、クロは俺の右肩に乗って部屋を出て商店街へと向かう。
そこで干し肉や小麦パンを大量に購入して大きな袋を抱えながら馬車屋に立ち寄る。
その馬車屋は客がたくさんいてガヤガヤとしている。こんなにも客が居るということはそれなりに繁盛しているんだろう
「すいません。今から俺達を運んで行って欲しいんですけど」
「あぁお客さん。どこまで行くんだい?」
「ちょっと魔界の方まで行きたいんだけど、どれくらいかかる?」
魔界まで。と俺が言うと声をかけた男は目を見開いて、言うのを少しだけためらった後に口を開いた。
「魔界はちょっと無理なんだよね。この前、事故っちゃってさ」
そして口を閉ざして彼は逃げるように俺から離れて別の客と話をしだした。
事故がどのくらいなのかはわからないが、電車や車というものが成立していない時代だ。そうそう簡単に事故が起きた道を整備なんかは出来ないだろう。
「なんか事故が起きていけないみたいだ。どうしようかね?」
「ところで魔界って聞こえたんですけど、魔界に住んでいるんですか?」
ふと、俺は当たり前のように魔界に行こうとしているのだがここに住まう人間達は魔界の事をどう思っているのだろうか? 一応悪魔達も人間達も戦争はしていないといえ、昔は戦争なんてたくさんあったに決まっているし、戦争で殺された人の子孫が今を生きている人なわけだから何かしら思うところはあるのかもしれない。
「あぁ。ひとまず外に出よう。ここにいつまでもいると営業の邪魔になるからね」
外に出てこれからの事を決めたいが、どうやって魔界に行こう?
場所が移動できるような魔法を覚えていれば良いが、俺はただの人間。いくら魔力の塊の不思議な石を持っているとしても、魔法なんか使えないだろう。
だが、それでも試してみたくなるのが男の性というか。以前、日本からシリルのいるところまで移動できたように今回も願ってみよう。
今回は荷物もあるし、ココもいる。まぁ無理だろう。
しかし、俺の目論見は大きく外れ、俺は白い光に包まれる。荷物を見てみるとそれも白く光る。ココも俺や荷物と同じように白く光って、突然の出来事で驚いているようだ。
驚いているのはココだけではなく、周りにいる人達も驚いている。それもそうだと、心の中で苦笑しながら目を閉じる。
そしてそこで意識は途切れることはなく、目を開いたら俺の嫁でいて魔王様が目の前にいた。
「ま、雅彦っ!!」
「あぁ。シリル。ただいま。少しの間ここで寝泊りをさせてくれ」
無事に帰ってこれたようで、目を大きく見開いて何度かまばたきをして俺が目の前に居ることを確認したのか、頬をつねってくる。
「ゆ、夢じゃないんだな? 本当に雅彦なんだな?」
夢かどうかを確かめるためにどうして人の頬をつねるのだろうか。普通は自分の帆hおをつねるのだが。
「あぁ。本当だ。それより、紹介したい人がいるんだ」
俺はつねられた頬を抑えながらココを俺の前に誘導する。おっかなびっくりに達舞う姿は幼い少女のようだ。
「えっと、ココと言います。雅彦さんに命を助けていただいたのでその恩返しといいますか、一緒にお店を経営しています。お店はなくなっちゃいましたけど」
ココの話を聞くと、シリルは『後から詳しいことをじっくりと聴かせてもらうからな』と。いう怨念が込められた目で俺の事を睨む。なにも悪いことはしていないのだからここは穏便に済ませてもらいたいものだ。
「私はシリル。この雅彦の嫁だ。ひとまず、ここに居続けるのもあれだ。部屋を用意させるからそこでゆっくりするが良い。ミリー!」
と、彼女が名前を呼ぶと、少女が現れる。
「客間にこの少女を案内してくれ」
手短にそれだけ言うと、ミリーと呼ばれた少女はココを案内する。
ココは俺の方を見て一礼した後にミリーの後ろを歩いて行った。
「さて雅彦。色々と説明してもらおうじゃないか。この短い間であんな場所を手籠めにした手腕を」
まぁ確かにここを出てまだ4日しか経っていないが、かなりの密度で過ごしたと思う。
店を経営して、戦って、大金持ちになって。店を壊して、新しい店を作って。
そんなことを詳しく色々とシリルに話した。彼女はちゃんと相槌をしてちゃんと聞いてくれた
「そんなことがあったのか。色々と面白いことをしていたんだな。あの娘も雅彦が買ったと聞いて驚いたよ」
確かに俺だって今でも思いきったことをしたと思っている。シリルから借りた金でココを買ったんだから。
「まぁ話は分かったから店が出来るまではこの城での生活を約束しよう。……で、だ」
シリルは話を切る。
「雅彦はここへどうやって来たんだ? ちゃんと説明してもらおうか」
「どうやって。てか、あの移動魔法見たいな感じだ。シリルと会ったすぐに俺が消えたことがあって8日後の戻ってきた。その時に使った移動方法と一緒だ」
使い方や、使うための呪文。など色々と知らないことはあるが使えることは確かだ。
「移動魔法なんて聞いたことが無いぞ。魔道書とかはあるのか?」
頭の中の引き出しを漁っているのかシリルは顔はこっちを向いているが、目は俺の方は見ずにどこかを見ている。
「そんな魔道書とかがあれば俺が見たいぐらいだ。まず魔法すら使えない俺なんだから」
「ふむ。では雅彦が異世界人とやらだからなのだろうか? もともとこの世界にあるかどうかわからない魔法なんだから、この世界ではない世界から来た雅彦が使えたとしてもなにもおかしいことはない。のかもしれない。たぶん」
色々と考えているようで俺はソファーの上で横になる。魔法が使えたらこれからは色々と便利になるのだと思う。氷系の魔法が使えれば冷蔵庫や冷凍庫を持たなくても済む。火の魔法だったら一回一回火を起こさなくても済む。魔法は便利な道具いなる。
「なぁシリル。人間でも魔法は使えるものなのか?」
「もちろん使えるが、人によって得手不得手はある。私は色々な特性の血を受け継いでいるから得意なものはあるが、苦手のものはない」
かなり便利な種族だこと。じゃあ俺はなにが得意でなにが苦手なのだろうか? コップの上に葉っぱを乗せて診断する水見式とかなのだろうか? 甘くなったり水の量が増えたりと。
「そうか。とりあえず片っ端から試してみるさ」
「あぁそうするが良い。でも今日一日ぐらいはゆっくりとすれば良い。むしろゆっくりしろ」
有無を言わさないシリルの迫力に俺は頷くしかない。
「よろしい。ただ、あれだ。その、今日は一緒のベッドで寝てくれ」
もじもじと恥ずかしがる姿はやはり可愛い。もっと素直に生きていければ楽だと思うが、彼女の立場がそうせさてはくれないのだろう。
「あぁ。仰せのとおりに」
「その対応はやめろ」と言わんばかりにシリルは俺の頬をつねった後に笑って午後の時間を過ごした。




