~換金~
陽の光で目が覚める。どうやら二日酔いにはなっていないようだ。まぁそれもそのはずで、夜中に何回か起きては吐いていたのだから。
俺は地球の方で、こうやって夜中に何度も吐き続ければ、目を覚まして二日酔いの状態。ということは無かった。今回のぶどう酒でもこの二日酔い対策は効いたようだ。
「お、おはよう、ございます」
隣のベッドで寝ていたココは具合悪そうに起き上がる。やはり二日酔いになっている。
「頭が痛くて気持ち悪いのか? とりあえずこのハチミツ水でも飲んで落ち着きなさい」
ハチミツ水が入っているビンからグラスに注ぎ、手渡す。グラスを受け取るという行為も今の彼女には厳しいのか、動きが緩慢だ。なにか新しいことに挑戦していて安全だということをゆっくりと確認しているようにも見える。
そのハチミツ水を彼女は飲み干して、空いたグラスを俺に返す。
「とりあえず、今日は一日休んでな。頭痛い状態で外を出歩くなんて得策じゃないからね」
こんな状態のココを外に連れ出せるほど俺は鬼畜でもなんでもないので、今日は俺一人でぶらぶらと街を練り歩くとする。
「わかりました。くれぐれも街の端にあるスラム街には近づかないでくださいね」
スラム街。つまりはガブリオンファミリーのアジトがあったところなのかな? 確かにあそこらへんはかなり嫌な感じがした。常に誰かに見られているような感覚だったし、空気もどこはかとなく陰湿だったような気がする。右も左もわからない俺が近寄って良い場所ではないことは確かだ。
「了解。とりあえず、今日は延べ棒を換金できる場所を探さなくちゃだし」
今の所持金だけでは生活するだけで厳しい。それにもし換金ができたとしても、延べ棒にどれくらいの価値があるのか、まだ未知数だから万が一のこと考えると怖い。
まず、この世界でも金属類の相場。金属類に関わらず、色々な相場を俺はまだ知らない。
とりあえずだが、日本での相場だが、金1gで大体5000円。銀1gで大体80円である。食材も林檎が極端に高いことを除けば、大体は地球と同じ位の相場なのだろう。
ひとまず、俺はココを残して、延べ棒や財布などが入っている大き目の麻袋を持ち出して、宿屋から出る。出る際、女将さんに部屋にまだ人がいる旨を伝えてから出る。
街に出てみるが、やはり大きすぎる。迷子確定じゃないか。一体どこで換金してくれるというのだろうか。パチンコ屋などの娯楽施設の近くに換金所はあるのだが、この世界にそういう娯楽は無いのだろうか? もっと原始的な丁半。それかトランプを使った賭博か。いずれにしてもそれらしき建物はない。
そういえば、この街には沢山の種族なのだろう。外見が様々な人が集まっている。
地球。いや、日本でも、ヨーロッパなどの白人。アフリカなどの黒人。そしてアジアの黄色人。その色合いも人の遺伝の組み合わせで異なり、いくつもの外見を生み出している。
だが、その日本で見かける外見をはるかに上回る異なる外見の多さ。なんていうか、もう圧倒される。数の多さに。
まず、エルフとかはよくゲームなどで耳の先が尖っている設定になっているが、そんなことは無い。極稀に尖っている人を見ることはできるたが、ほとんどの人が俺達、人間と一緒で丸まっている。これは、人間とエルフのハーフとかクォーターなのだろうか?
そうなってくれば、どんな種族のハーフがいたものかわからない。ほとんどが雑種。なんだか犬みたいだ。チワワとゴールデンレトリバーの子供。なんてそんなこともありえるのかもしれない。
まぁ、どんな人がいようともこの街はそれを受け止めてくれる。そういうことなのだろう。俺も気を取り直して換金所を探すとしよう。
都合よくそんな場所が目の前にあるという事はなかったが、換金できそうな場所は目の前にあった。質屋だ。
銀行なんてものはこの世に存在しているかどうか怪しいものだし、ここで延べ棒の価値を知っておいたほうが良いだろう。
質屋で大体の値段を把握しておけば、より利益になるほうで換金したら良いのだ。今の窮屈になりそうな生活の救世主である延べ棒。
ひとまず質屋に入ろう。そうしよう。というわけで質屋に入る。
そこは部屋の隅には沢山のくもの糸ができている。とても経営をしているようには思えない。
だが、部屋の奥にはひっそりと座布団の上に座る老人。この店の店主なのだろうか?
「すいません。質に入れたいものがあって来たんですけど、よろしいでしょうか?」
ひとまず、声をかけてみるが、反応が一切返ってこない。やっぱり帰ってしまおうか。他の場所で換金ぐらいできるだろうし。
「……なんじゃい。この店は確かに質屋だが。お前さんはいったいどんなモノを持ってきたんだ?」
俺が帰ろうと扉の取っ手を触ろうとすると後ろから声が聞こえた。俺はすぐに振り向くと、座布団の上に座っていた老人が動いていた。
「えっと、これなんですけどどれくらいになりますかね?」
俺は麻袋の中に入っている延べ棒を一本取り出して手渡す。しっかりと。老人がうっかり落としてしまわないように、握り締めさせた。
「……なんじゃいこれは。ずっしりと重いが。どれどれ。……これは金かのぅ。このずっしりとした重みはそうなのだろうな。ちゃんと重みを量るとするかの」
おじいさんは体を動かしてなにかを探しているようだ。すごく緩慢な動きで腕を動かしている。
目当てのモノは天秤だった。少し古ぼけたような感じはするが、ちゃんと機能するのだろうか?
天秤の皿に延べ棒を置く。すると、延べ棒の重みによってその皿は沈む。
もう一方の皿に金属製の錘を乗せるが、延べ棒が乗っている皿はそう簡単には浮き上がらない。
錘がどのくらいの重量なのかはわからない。でもすでに爪ぐらいの大きさの錘が10個乗っている。
「……ふむ。やはり200gではないか。だとすると、500gかのう。とりあえず、500gの錘でも乗せてみるかのう」
ぶつぶつと老人の声が聞こえるが、うまくは聞き取れない。ただ、かなりの重量があるみたいだ。皿に乗せていた錘をすべて片付けて、新たに握りこぶしほどの大きさの錘を乗せる。
すると、天秤の中心にある針は両方の重さが一緒であることを示す。重量がわかったみたいだ。いったいどれくらいの重量なのだろうか?
「……さてさて。金が500gだとすると、金貨が31枚と銀貨が25枚になるが良いかのう?」
金貨が31枚で銀貨が25枚? つまり延べ棒は8本あるわけだから金貨が250枚。ずいぶんと金持ちになれるじゃないか。
……ナイスな展開。ではあるのだが、いかさかこれは恐怖心を覚えるほどだ。
こんな大金を持ち歩くなんて自殺行為も当然なわけだ。本当にさっさと安全な場所を探さなくてはならない。
「……それで。交換するのかね? あいにくだがもしほかにも延べ棒を持っているならば、悪いが2本まで換金してやろう。ワシの手元にある金だとそれが限界なんじゃ。わかってくれ」
つまり、金貨62枚の銀貨50枚というわけか。まぁ今のところ、そんなに所持していても仕方がないので1本だけを交換してもらおう。
「いえ。今はそれしかないので大丈夫ですよ。では換金させてもらえますか?」
そう言うとおじいさんは部屋の奥に行ってしまう。金を取りに行ったのだろうか?
おじいさんが戻るまで、俺は店内の様子を探ることにした。
やはり、客は滅多にこないのだろう。部屋中くもの巣だらけで、掃除がされていないことが如実に証明されている。
ここはちゃんと質屋を経営しているようで、骨董品やら様々なものが雑多におかれている。俺が住んでいたところでは見ることが少なくなった編み笠をかぶっている狸の置物だったり、クッションのついた座椅子など。
あまりめぼしいものはなく、俺は飽きた。だが、店主が来るまでの時間はどうやって潰そうか。
そうこうしているうちに店主は手のひらにのる大きさの麻袋を握り締めて戻ってきた。
「……金貨と銀貨の枚数を確認してくれ」
麻袋を受け取り中身を取り出して確認する。確かに金貨31枚。銀貨25枚入っている。
「あぁ。大丈夫だ。ちゃんと入っている。そんじゃ、ありがとな」
俺は店から出る。店を出て一度振り返るが、どうみても普通の民家です。本当にありがとうございました。
金貨も沢山補充できたし、なによりも延べ棒の価値を知ったということがデカイと思う。
さて。とりあえずはココのところに戻るとしよう。
年内の更新はおしまいかもしれません。
もし更新したときはツイッターにて報告いたしますので。ので




