~偵察~
俺はミラにロープでぐるぐる巻きにされて、ひとつの酒場まで連れてこられた。
「ミラ。なんで簀巻きにして連れて行くんだ! 普通に歩いて行かせてくれよ」
「良いじゃないか。良いじゃないか。それよりも偵察するなら最初は一番評価が高い所からだよな?」
俺を簀巻きにしたことをサラッと流して、自分が言いたい事を話し出す。これで人の上に立つ立場にいるのだから困る。
それにしても評価が高い店とはどういうことなのだろうか? 白いタイヤマンがマスコットの会社みたいなとこがやっているものなのだろうか?
「まぁ評価が高い店だったらそれなりのモノを出しているんだろ? 評価は誰がしているのかわからないが」
てか酒場に評価ってのもいまいちピンとこない。この世界では酒場=レストランなのだろうか?
「誰がしてるの? ってアンタ、馬車会社の創始者。チェリル兄弟を知らないのかい?」
兄弟。こっちも兄弟なのか。てか、会社も似たようなものだなぁ。馬車と自動車と。
「チェリル兄弟が馬車での旅行者のために作ったガイドに乗ってるのがこの店なのか?」
「なんだ。知っているんじゃないか。それでこの店は2つ星を貰っているんだ。この街で星を貰っているのはこの店だけなんだ」
そんなすごい店に予約なしで入れるのだろうか? それに服装もいつも通りなのだが入れてもらえるのか?
日本で普段着でそういう店に入るとなると、その人は勇者扱いか馬鹿扱い。それに店に入れてもらえない場合もある。基本はフォーマルな格好だ。俺の今の格好はスーツだが。
「よし。今日は雅彦のおごりな~。散々暴れて飲むぞ~!」
ミラの掛け声に続いたわけではないが、みんなは店の中へを入っていく。俺も仕方ないので店に入る。
店を入るとそこは普通の酒場。小洒落た場所なんかではなく、皆がワイワイ楽しく騒げるような酒場だった。すでに騒いでいる人もいるようだし。
「とりあえず、ぶどう酒を5つ。それと軽くつまめるものをよろしくな」
勝手に席についてウェイトレスが着たので注文をするミラ。それよりも勝手に席に着いたことに関してはなにも言われないのか? どこかに案内するということはムダなのだろうか? どうも、そこらへんの文化の違いがまだ理解できていない。
「ココはぶどう酒を飲んでも平気なのか?」
「はい。法律で18歳から飲めることになっているので。でも飲む機会が無かったので今日初めて飲みます」
ここら辺の法律も色々と勉強をしておかないといけない。それにしてもココって18歳だったんだな。初めて知ったわ。
それからすぐにぶどう酒はやってきた。俺もこの世界のぶどう酒というものを飲んだことが無いので良くわからないのだが、ワインなのだろうか? それだったら少し厳しい。俺はワインが苦手だ。
「それじゃ、とりあえず乾杯だな。かんぱ~い!」
特に挨拶もあるわけではないので、そのまま乾杯。いっせいにぶどう酒に口付ける。
俺はおそるおそる口をつけて飲む。
すると、口の中に広がるぶどうの豊満な香り。色は赤ワインに似ているのだけれど、味わいは白ワインと似ている。ワインの渋みがかなりかなり抜けているので俺にとっては飲みやすい。
アルコールが抜けてしまえばもうほとんどブドウジュースといっても過言ではないだろう。これのおかげでまたメニュー開発が進むだろう。
「雅彦さん。ぶどう酒ってこんなに美味しいんですね。これなら何杯もいけそうです!」
そんなに力強く言わんでも。でも、体感的なのだが、このぶどう酒はアルコール度数でいえば6度ぐらいはありそうなので何杯もいかれるのは困る。初めて酒を飲むのだからペース配分なんて知らないだろうし。
そして軽くつまめるものとして来たのだろうか。いや、来たのだ。豚の丸焼きが。大きさ的には子豚であるが。
これのどこが「軽く」なのだろうか? 十分に重いものだ。
ひとまず、ナイフで肉を削ぎ落とす。表面は直火で焼いたのだろうか? ナイフで切ろうとすると、パリパリと音を立てて肉汁を出して反抗してくる。
その肉片を一口。すると、表面のパリパリ感とは別に中の肉が噛みごたえのある食感で2度楽しいものとなっている。
肉そのものの匂いとは別に香辛料の香りもする。
普通に美味しい。やはり高評価の店は伊達ではないというところか。
「うまいな。それで酒が進む進む」
「ちょっと姉さん。ペース配分考えて飲めよな。いつも俺が連れて帰ってるんだから」
うわばみなのだろうか、ミラはかなり早いペースでぶどう酒を飲んでいる。帰りの状態が気になるが、ナルシスに押し付ければ良いだろう。いつもそうしているのであれば。
「確かに美味しいですね。こんどウチでもこんなものを出してみるのも良いかもしれませんね」
ココもココで豚肉を食しているようで、これをウチでも出そうと考えているようだが、無理です。こんなものを出すならまだビーフシチューとかを作って出します。まず、丸焼きにする機材がありません。あ、機材は店を作り直すから新調できるか。
大工のミレーユは黙々と食べている。時々、なにか考え込むような仕草をしているが、すぐにナイフとフォークを動かし始める。
豚をたべおわるころには、また新しい料理が運び込まれ、次々と各々の消化器系臓器にモノを詰め込んでいく。まるでソーセージである。……食事中でこんな表現は良い表現とはいえないが、そこは仕方がない。本当にそんなものなのだから。
豚の後には魚の煮物や魚のから揚げ。などなど色々と美味しいものを食べさせていただいた。かなり満足した。腹も舌も。
これは俺の癖なのか、それとも料理人の定めなのか、出された料理よりも美味しく作るにはどうしたら良いのかと考えてしまう。
今日だって、少なくとも5品ほど改良点が見つかったのだ。例えば、肉団子を甘酢あんを絡めたものが出てきたのだが、酢の量を小さじ1/2ほど少なくしたほうが、酸味が抑えられて、酸味が強いものを食べたくないと言う人でも食べられると思ったぐらいだ。
料理人。基本的に味覚がバラバラな万人に食べてもらって、一定基準の『おいしさ』の料理を出す人のことをいうのだ。だから少しの味付けが『おいしい』の境目でもあるのだ。この境目を見極められて一流の料理人となれるのだ。
こうやって色々と御託を並べている俺だが、そんなに偉そうなことは言えない。俺もその境目を見極められていない料理人なのだから。
宴もたけなわ。みんな酒に酔ってちゃんと帰れるか不安だが、そろそろ帰らなくてはいけない時間になった。
「さぁ。そろそろ帰るぞ」
俺がそういうが、返事が返ってくるのはナルシスとミレーユだけ。ココはテーブルに体を預けてぐっすりと寝ている。ミラはもう言わずもがなである。彼女だけでぶどう酒を二桁おかわりしている。
「それじゃ解散」
ミレーユはちゃんとした足取りで店から出て行く。彼女もそこそこ飲んでいたと思うのだが、アルコール分解が早いのだろうか。
ナルシスはミラをしっかりと抱えて店から出て行く。いつものことで慣れているのだろう。一連の動きに無駄がなかった。
今、ここでちゃんとお金を払えるのは俺だけだし、たぶんだが。たぶんだと思いたいが、ミラは最初から俺にたかる気だったのだろう。なので俺が払うしかない。
そこで俺は戦慄した。請求額がどういうことなのだろう。銀貨50枚。40000円。5人で40000円とは食いすぎだろう。どう考えたって一回で使う金額ではない。
俺の持ち金がどんどん減っていく。延べ棒をどうやって換金して良いのかわからないので、どうしようもない。残りは金貨6枚と銀貨10枚だ。
この店は酒場と一緒に宿屋も経営しているようで、1泊から部屋を貸してくれるようだ。銀貨10枚で1泊。まぁ妥当な値段なのだろう。8000円だもん。鶯谷とかそこらへんのホテルでもそこらへんの値段だ。
ひとまず、部屋に通してもらってココをベッドに寝かせる。この部屋はシングルサイズのベッドが二つ。あとは小さなクローゼット。などなど小さいながらも基本的な家具が取り揃えられている。こんな部屋が冒険者達には良いのだろうか?
まぁとりあえずは店が完成してからではないと何もできない。
これからどうするべきなのだろう。このまま宿屋で店ができるまで泊まり続けるべきなのだろうか? そうすると、3週間といったっけ? 18日×銀貨10枚=銀貨180枚。14万4千円。かなりの金額だ。
やはり、シリルの城に一度顔を見せに行こうか。ココのことも紹介しておきたいことだし。
でも、馬車を手配しなきゃいけないし、片道でどれくらいかかるのだろうか? 片道7万2千円で行ってくれるのだろうか?
……明日調べるしかないか。もうやることが沢山すぎてどれから手をつければ良いのかが混乱して決められない。
とりあえずは寝てしまおう。だが、寝る前にひとまずやらなくてはいけないことがある。なので酒場に立ち寄りハチミツを頂戴する。
ハチミツが二日酔いに良いということは論文として証明されているのだ。
ハチミツをそのまま摂取するのは色々と厳しいと思うので水に溶かしたハチミツ水として飲む。ココのレモネードを砂糖少なめで作ってハチミツを入れてやれば良いかもしれない。こういう風に考えてしまう俺は根っからの料理人なのだろうか?
レモネードはないのでハチミツ水をコップ一杯飲み、水差しにもその水を用意しておく。ココが起きてからなのだが、たぶん二日酔いになっているだろう。彼女もかなりのぶどう酒を飲み続けていたのだ。
まるで比較的に飲みやすいスクリュードライバーを飲みすぎて、いつの間にかウォッカの摂取量が多すぎて二日酔いという感じに陥っている可能性も無きにしも非ず。念を入れて洗面器も用意しておいたほうが良いかもしれない。
色々と準備をしてようやく寝ることができる。
こっちの世界に来て色々とあったが、騒ぎながら飲み食いしたのは初めてだなぁと思いながら俺は目を閉じる。




