~依頼~
一応、第二部のはじまりというカタチになります。
店を閉じる。これはもう変わらないこと。
普通に生活をするには困ることはないであろう所持金。だから店が新しく出来るまではのんびりどこかで暮らしても大丈夫だ。
でも、どこで過ごせば良いだろう。普通に宿屋。という考えが浮かび上がる。
確かに素直に宿屋に泊まれば良いだろう。だが、それで良いのだろうか? いくらあぶく銭とはいえ元は他人の金。だが、そんな金を俺は手放したくはない。今は俺の金なのだから。
それにまだ、三日ほどしか経っていないが、シリルに挨拶をしに行くのも良いかもしれない。往復で一月以上掛かってしまうが、それまでに店は完成するだろうし。
でも、まずは大工を探さなくてはならない。この街には良い大工はいるのだろうか?
一度家を潰してから新しい店を建てる。それならば今までも良いモノを作ってもらいたい。そう思うのは普通だろう。
では、街に大工を探しに行くとしよう。その前に市場に向かってミハエルさん達に状況を教えておいた方が良いだろう。
なので、俺達はミハエルさん達に会うために市場に行くとした。
* * *
「急なのですが、しばらく店を閉めようと思います」
「確かに急だが、仕方ないことさ。それに五体満足。それで何よりじゃないか。」
なぜか一緒にいた二人。まぁ2回説明する手間が省けたので良しとしよう。
「それで。店を建てるときはどうするんだ?」
「とりあえず、少しの間はこの街で過ごそうかと思います。ほかの酒場の偵察。というわけではないですけど、どんな商品が出てくるのかをリサーチしようかと」
ただ、ココのオヤジさんのメニューを提供しているだけでは、俺はただの料理人でしかない。俺は店の経営者になるんだ。
でも、その前にまずは店がなければいけないのだが。
「そうか。勉強も必要だよな。食材のことだったら俺達に言ってくれ。出来る限りのことは教えてやるぞ」
市場の商人から食材の知識を教えてもらえるというのはこの上なく嬉しい。良い食材を良く扱うことが出来るのは料理人としては当たり前のように行いたいこと。その方法を取得するんだから嬉しい。
「ありがとう。しばらくは材料の仕入れはないから今度会うときは。店が完成してからだと思う」
「そうだな。まぁ小口での買い物も大丈夫だからお使い程度でも大丈夫だから、いつでも顔を出し来いよ」
そして俺達は二人に見送られながら市場を後にして、街にいるであろう大工を探しに行く。
* * *
お目当ての大工を探してはや一時間。探していて気づいたのだが、この街はかなり大きい街ということ。
一時間も歩いてようやく城壁の内周を回りきれた。それほどに大きい街。
改めてこの街を歩いて、街というのは馬鹿みたいにでかいショッピングモールだということ。
酒場や宿屋はひとつのエリアでまとまっている。ほかも同じような店のくくりで一まとめにされている。だから買い物をするときはいちいち街の端から端まで歩く必要は無い。という点は便利だ。
だが、店を経営する側としては少しばかり迷惑なつくりである。同じような店が近くにあるということは、他店との差別化を図らなければいけないということである。そうでなければ小さな店はすぐに潰れてしまうだろう。
でも、色々と工夫をして生き残るのが世の中の摂理。その結果仕事が出来る人はどんどん上に行き、仕事が出来ない人は社会の底辺に居座るのだろう。
俺も、親父さんのレシピの上で胡坐をかき続けるのではなく、自分で色々とすごいレシピを作り続けていかなくてはならない。
「雅彦様。ここがお目当ての店ではないでしょうか?」
ココの声で考え事をやめる。大工の店を見つけたのだろうか?
顔を上げてその店を見る。確かに大工の店だろう。いや、これが大工の店ではなかったら何の店だろうという建物。
屋根には大工の持ち物として一番最初に思い浮かぶ金槌が取り付けられている。人間3人分ぐらいの大きさのだ。
そして、大樹のようにいくつも枝分かれしている形。どうみても住みにくそうだ。というよりあんな枝分かれしていて部屋に入れるのだろうか?
色も奇抜で、ピンク一色という客引きのためにやっているようにしか思えない。
「とりあえず、店の中に入ってみるか。一応営業中のボードがぶら下がっているみたいだし」
本当に営業しているのか、疑わしいものだが入ってみるとしよう。やっていなかったら他の店を探せば良いのだから。
そして、俺達は不思議な館に足を踏み入れる。
外見も十分不思議だったが、内装も不思議だ。
外見では「ウチは大工です!」ということを強く主張しているのだが、民家なのだ。普通の民家。
金槌はおろか、設計図らしきものも見当たらない。もしかしてここは大工の店ではないのだろうか?
「はいは~い。お客さん。今日は一体どんな用なんですか~?」
すると、家の置くから青いつなぎを来た女性が現れる。受付の人なのだろうか? それだとつなぎを着ている必要は無いのだが。
「え~っと。今日は家を新しく建ててもらいたいと思って来たんですけど、棟梁さんはいらっしゃいますか?」
「いらっしゃるもなにも、基本の従業員は私だけだが?」
従業員が彼女だけ。店を変えたほうが良いかもしれない。家を建てるのだけで1年以上かかってしまいそうだ。
それにしても従業員が彼女だけということは彼女が棟梁なのだろうか?
「お前、もしかして私が棟梁というだけで店を変えようと思ってるな? だとしたらやめておけ。私より良い腕を持った大工なんかこの街には誰一人としていない、いるとしたらもう天国にいる私の親分だけだ」
天国って。でもこれほど言うのならば彼女は相当の実力の持ち主か、ただの馬鹿なのだろう。昔から言う、「馬鹿と天才は紙一重」
彼女が持つセンスはこの建物が表している。俺にはただの馬鹿だと思っているが。
「そうですか。とりあえず、あなたがこの店の棟梁でそれなりの実力を持っているということはわかりました。でも一人で家を作るとなるとどれくらいの時間がかかるんですか?」
「そうだね。一年ぐらいかな? それよりも早く完成させても8ヶ月ぐらいになる。それでも大丈夫かい?」
一人で一年って。ちゃんとした家が出来るのだろうか? 地球で一軒家を建てるのにどのくらいの期間がかかるのかわからないが、あれはかなりの人数がいるからであって、一人で出来るなんて人間の許容を超えているんじゃないだろうか?
でも、一年でちゃんとしたものが完成するんだ。それに乗らない手はないだろう。
「わかった。それで建物を作るのに金はどれくらい必要なんだ?」
「それは土地の大きさとかで色々変わるんだ。だからその土地を見せてもらいたい。そこで決める」
相談するつもりで来たのだが、もう引き返せないところまで来てしまっているようだ。まぁいいか。
俺達は血塗れの店へと向かう。店の惨状を見せると、「これはひどい。木が傷みすぎている。ちょうど良い時に事件があって良かったな」とのこと。
血だまりの跡などには目もくれずにそう言う。普通だったらまず食いつくところなのだが、これも天才だからなのだろうか?
「そうだね。で、この土地を使ってどんな風に建てたいんだい?」
「まず、1階は酒場。2階は宿屋。3階は俺達の居住スペースとしたい」
この際、宿屋を運営してみるのも良いと思う。酒場で酔いつぶれたり、宿を確保できなかった人のため。小金を稼ぐ程度でやってみてしまおう。
「それはわかった。じゃあ宿屋は何部屋? 私の寸法で言うとだね、一人が寝れる部屋だとせいぜい6部屋ぐらい。多くても7部屋が限度。酒場の方はどんな感じにするんだい? 今ある形式にするのかい?
6部屋。まぁそれくらいが妥当なのだろう。店は現状維持の場合だと、カウンター席が12席。テーブル席で4人掛けで10席。お一人様でも入れるような感じである。
今のつくりで文句は無いのだが、もっと良い配置があるのではないのだろうかと思ってしまう。でも、これ以上はどうしようもなさそうなのでこのままにしておこう。
「あぁ。宿屋は6部屋。酒場は現状維持のつくりにしてくれ。3階の居住スペースは宿屋の部屋と同じくらいの広さの部屋を3つ。後は棟梁のおまかせで頼む」
俺がそう注文すると、彼女は色々と部屋のつくりを目算しているのだろう。頭を傾けて考えている仕草をする。
「そうだね。そんな感じだと金貨100枚といった感じかな。普通、家を建てるとなるともっとするんだからね」
800万。家を建てるとなると、日本換算でだいたい1000万以上かかるのだが安い方なのか?
「じゃあどれくらいかかるんだ? 教えてくれ」
「そうだね。150枚から200枚の間かな。アレぐらいの土地に3階建てなんだ。それくらいが妥当な値段。でも私は一人でやっているから人件費を抑えているから金貨100枚って値段に出来る」
では、もうここでお願いしてしまおうか。値段も安いみたいだし、実力もあるそうなんだ。
「わかった。それじゃあお願いする。金は前金か?」
「どっちでも良いけど、私としては前金が良いかな。この前の仕事から2年ほど経って、木材を買う金が手持ちに無くてね」
2年間働かなくても食っていけるほどの仕事をしたのだろうか? だとしたら本当に実力のある大工なんだろう。
「それじゃあ金貨100枚。良い店を作ってください。お願いします」
金貨の入った麻袋を手渡して俺は深々と彼女にお願いをする。
「はい。わかりました。ミレーユ・オーミンが全身全霊をもってこの店を変えさせていただきます」
彼女。ミレーユも受け取った袋を片手に頭を下げた。二つに結ったみどりの髪が揺れる。
「それじゃ、早速工事に取り掛かりますので。貴重品などがありましたら今のうちに取り出しておいてください。家具などは私の店に置いておいてかまいませんので」
そうだ。家具はまだ使えるからちゃんと出しておかなければいけない。でも俺とココだけで運ぶとなるとかなりの重労働になるだろう。
「やぁ店主よ。ついにこの店が取り壊されるんだな」
と、ここで都合良くミラとナルシスが姿を現した。
「ちょうど良かった。二人とも手は空いているか? 空いているんだったら家具を運ぶのを手伝ってもらいたいんだが」
「それは、店主の誠意次第だなぁ。今日と明日の夕食を奢ってくれるなら引き受けても構わんが?」
……必要経費として受け入れるしかないだろう。
結局、店からミレーユの倉庫までを6往復して家具を運んだ。
そして、ミラとナルシス。なぜかミレーユも交えての夕食会が始まった。




