波跡(なみあと)
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エイル君の中身はこちらのオッサンのコピーで、
女神クララベル様はこのチャンネルのマスコットキャラクターの見た目を使った。という設定にしています。
AIは日本語としておかしくないか、誤字脱字がないかの校正作業で使用しております。
レイゼル文明開化のため、アルヴェイン国王への協力をお願いしたシグルたち。
すっかり置物状態だったおれは、次の日の工房組合の方たちとの話し合いの場にも引きずり出されていた。
王宮の応接室へ集まった工房組合の方々。なかなか頑固そうなオヤジたちが並んでいる。
果たしてシグルの熱意はこのオヤジたちへ届くのだろうか……
カチャカチャ
美人エルフメイドのメルシアさんと、ラウリエル王宮メイド服を着たマリナは、集まった皆さんにお茶を出してくれていた。
マリナさん、メルシアさんにやたら気に入られてるね?
「妖精様への配慮の件は解決したと聞きやした。」
「しかし、あっしらの先代が、苦労に……苦労を重ね……ようやく完成した技術なんじゃ。」
「伝承しただけのあっしらが、簡単に決めていいことじゃないんでさ……」
レイゼル文明開化のための、シグルの熱意は工房の方々には伝わった。
しかし、工房の先代たちから受け継いだ技術をほかの国に出す。
もしかして自分たちの判断が、先代に顔向け出来ないようなことになるのではないか?
工房組合の人たちはそれを心配していた。
要は、お前らは信用出来るかどうかまだ分からん、っちゅうことやな……
おれもリュミエルには最初、信用されてなかったしな……
――今では朝チュンする仲ですけどね〜♪
わたしら一蓮托生ですよね?頼みますよ?
しかしこう言われたらシグルはどうしようもないな……
話し合いは完全に暗礁へ乗り上げ、重い沈黙が続いた。
「……伝承……エルドランさん……」
お茶をついでいたマリナがポツリと呟いた。
「お嬢ちゃん、エルドラン様がどうかしましたかな?」
マリナのつぶやきを聞いた工房のオヤジがマリナに聞いてきた。
「あ……いえ…… エルドランさんの伝承を、レイゼルのお城で聞いたことがあって……」
伝承は伝承でもちょっと違うんでないかい?マリナさんよ。
「ほう、エルドラン様の。 聞かせてもらえるかい?お嬢ちゃん。」
オヤジさん、食いついたわ……
マリナはチラッとシグルをみると、シグルも『うん』と頷いた。
「厄災で混乱する城に……不思議な神々しさを身に纏うエルフ族の青年が現れたそうです……」
マリナは遠慮がちに語り始めた。
「青年は王の前に立ち、こう告げました。」
ん?なんか芝居がかってきたような……
「『この地を捨て、高き地へ民を導くのです――継世のために』と。」
ユリウスさんの語りと動きやろこれ?
「この者を信じよ!民を高き地へ移せ!」ビシッ!
なんやこれ、歌劇か!?
こないだ見に行ってた歌劇の影響やろこれ!
「『継世の英雄、賢者エルドラン』は、二千年を経た今も我が国の伝承に語り継がれているのです……」
シーン……
工房の人たちは、考え込んでいた。
そんな中、シグルが立ち上がった。
「……嬢ちゃん。そこから先は俺が話す……」
工房組合の人々にシグルは告げた。
「これから話すことは、この場限りにしていただきたい。」
「俺たち使節団も、墓場まで持っていくと約束しています。」
シグルはエルドランに、『英雄は死んだことのままにしておいて欲しい。』と頼まれたことを伝えた。
「俺らは、あの方が二千年前に繋いでくれた命の先に生きちゅう……」
「その恩を忘れたことはない。」
「……そうか。」
一人のオヤジが、ぽつりと呟いた。
「受け継いだものを守ることばかり考えとったが……」
「次へ繋ぐこともまた、受け継いだ者の役目なのかもしれんのう……」
「二千年前、エルドラン様が人族へ繋いだものは、今もこうして残っておる……」
工房組合のオヤジたちは、互いに顔を見合わせた。
「わしは見てみたいのう……」
「レイゼルの『文明開化』ってやつをの……」
「わしらは伝承を守ることだけを気にし、臆病になりすぎとったんじゃな……」
工房組合のオヤジたちは技術指導を承諾した。
さらに、レイゼルでの説明に使うため、手動発電機と電球を数個譲ってくれることとなった。
シグルたちは使い方の説明を受け、話し合いの場はお開きとなった。
「これで道筋はできた。 あとは国の親父たちを、これで説得するだけじゃ……」
「レイゼルに帰ったら忙しくなるわね。」
ラウリエル側の問題はなんとか解決することができた。
あの夜シグルたちが見たラウリエルの夜景のような、レイゼルの夜景まではまだまだ遠い。
しかし確実に、一歩を踏み出した。
それから帰国までの数日、シグルたちは慌ただしく王都を駆け回った。
工房組合とは、技術者を受け入れる際の条件や、持ち帰る機材について細かな話を詰めていく。
フィオナさんは、話し合いの内容を整理し、持ち帰るための書類にまとめていた。
使節団の技術者たちは再び工房へ足を運び、発電機や電球について質問攻め。
シグルもアルヴェイン国王と何度か話をしたらしい。
ちなみにおれは、ほぼ置物だった。
そんな慌ただしい日々も、過ぎてしまえばあっという間だった。
そして――
使節団がレイゼルへ帰る日がやってきた。
シグルたちはアルヴェイン国王たちに深い感謝の言葉を伝えた。
「エイル……また来てね……」
「うん。また来るわ!」
「……絶対?」
「絶対来る!」
リュミエルは少しだけ安心したように笑った。
最初に会ったころなら、こんな顔をおれに見せるなんて想像もできんかったな……
おれたちは王都を離れ、ラウリエル港でシグルはレイゼリア号へ乗り替えた。
「シグル、おれたちは北東の方角へ向かう。」
「なんでや!? 一緒にレイゼルへ来てはくれんのか!?」
突然のことにシグルはびっくりした。
「……おれは、」
「クララベル様が、」
「おれに加護を与えた意味を探して旅をしてるんよ。」
まあ、ないんやけどな。
「エルドラン爺さんのように、きっとやらなければならないことが……あると思うんよ。」
神託は受け取らんけどな。
シグルは何か言いかけて――やめた。
たぶん、『一緒に帰ろう』と言いたかったんやろな……
けれど、自分たちの国を救ってくれた『継世の英雄』を思い出し……
シグルは引き留めることができなかった。
「……そうか。」
それ以上、シグルは引き留めなかった。
「エイル……あの日おんしを偶然見かけたのは、もしかしたらクララベル様のお導きやったのかのう。」
「おんしがまたレイゼルへ来てくれた時にはびっくりさせたる!」
「元気でな……」
おれたちは固く握手をし、それぞれの船に乗り込んだ。
沖合へ出ると、二隻の船はゆっくりと進路を分けた。
シグルたちのレイゼリア号は南西へ。
おれたちの筏は北東へ。
小さくなっていくレイゼリア号を、おれはしばらく甲板から眺めていた。
レイゼリア号からは――
シグルとフィオナがおれたちの筏を見つめていた。
「もう小さくなっちゃったわね……」
「俺らの国は、たくさんの恩を受けたのう……」
「継世の英雄からの恩、」
「エイルに親父を助けてもらった恩、」
「妖精様と引き合わせてくれた恩、」
「嬢ちゃん……マリナが工房と絆いでくれた恩。」
「ほんま……たくさんの恩でできちょる……」
シグルたちは、筏が水平線に消えてもしばらく動こうとはしなかった。
思えば――
クララベル様にこの世界へ放り込まれ、たった一人、筏の上から始まった旅やった。
それが今では、マリナと出会い、ドワーフたちと出会い、伝承の妖精ノルと出会った。
ノルとの出会いから、コアシップのノアとも縁ができた。
そしてシグルと出会い、その縁を辿ってリュミエルとも出会った。
気づけば、いろんな人たちと、いろんな種族と出会ってきた。
そして一つの出会いが、また次の出会いへと繋がっていった。
……これも全部、クララベル様のお導きなんかな。
まあ、本人に聞いたら適当なこと言いそうやけど。
おれは遠ざかるレイゼリア号をもう一度だけ見つめた。
「……元気でな、シグル。」
もう声の届かない船へ、小さく呟く。
そして――前を向いた。
次は、どんな人たちと出会うんやろな。
おれたちの筏は、新たな海へ向かって進んでいった。
――第一部 完――




