初恋の君
翔平と夢愛の本編始まります。
完全版と内容はあまり変わりありません
翔平は夢を見た。
幼い頃…まだ小学生になったばかりの頃の、夢。
教室の黒板に書かれた「母の日のプレゼント」という言葉。
その日、国語の授業では母へ贈る作文の作成。その後の図工では、母に贈る絵の作成。
幼いながらに、俺はそんなスケジュールにうんざりしていた。
作文はもちろん書けない。
母へ贈るイラストも描けない。
俺は口をとがらせ、ムスッとしてクレヨンを机の端から端へ転がす。
それで時間をつぶし、終わらせた。
(お母さんは…ぼくのことなんて、どうでもいいんだ)
真っ白な画用紙をそのまま提出しようとすると、案の定先生に「どうしたの?」と言われる。
『描きたくない』
すっかりひねくれた俺は、画用紙をそのまま黒く塗りつぶしたくなるような気持ちだった。
母は俺を見ようともせず、持病を持ち入院を繰り返す弟を抱きかかえてあやしている。
そんな、いつも見る姿が脳裏をかすめていた。
ムスッとする俺に、先生も困ったように見つめている。
再び少しでもいいから描いてみてはどうかと促され、机にもどされる。
席に戻るなり、4人のグループ席の向かいに座った女の子がじっと見てくる。
その女の子の顔を見て、大人の俺の意識は夢のなかで大きく心臓が脈打った。
(夢愛ちゃん…だ)
久々に見た初恋の君。
優しい目元が印象的な可愛らしい女の子は、真っ白な画用紙の俺とは対照的だ。
低学年とは思えないほどの細密で美しい母の絵。
夢愛ちゃんは、学年でもずば抜けて絵が上手い女の子だった。
でも、そんな才能をひけらかすような傲慢さもない。
ただ、何も描けない俺を心配してくれた。
『翔平くん。どうしたの?』
いわゆる幼馴染という関係だった。
幼稚園から同じクラスで、小学校もそのまま同じクラスになれた数人の中の一人。
この時の俺は、夢愛ちゃんのことを特に意識もしていない友達の一人として接しているから…
優しくされても、自分の母への嫌な感情に押しつぶされて「べつに」としか言えない。
『おかあさん。ぼくのこと、どうでもいいから』
俺の辛辣で拗ねた言葉。
他の子が次々に絵を提出する中、夢愛ちゃんはそれでも俺を気にして何度も様子を見に来る。
優しい君のそんな行動や視線に、段々と俺は、寄りかかるような気持ちになっていく。
君に、気にしてほしいと思うようになる。
『…翔平くん』
クラスの全員が絵を提出し、ぽつんと1人教室に取り残された俺。
君がまだそれでもそばに来る時には…
俺は、目に涙を溜めて君が来てくれるのを待っていたくらいだった。
『一緒に描こう?手伝ってもいい?』
夢はそこで終わった。
目が覚めた後ーーー
なんて残酷なものを見させられたんだろうと思って…
俺は、ため息をこぼすしかなかった。
君に会いたい。
君のことが、今もこんなに好きだ。
大人になって、様々な恋愛も経験した。
肉体的にも、女の子を知っている。
でも…
夢愛ちゃんのように自分の孤独に寄り添ってくれた甘い痛みは…
二度と感じられない。




