3.崩れた均衡。陽茉梨、必死の作戦。
完全版とこちらは同じ内容になります。
次回は、ちゃんと夢愛と翔平が出てきます。
夢愛と亮が別れるきっかけは、陽茉梨が作りました
亮と敬一の顔は似ていない。
なぜなら、敬一は父親にそっくりだからだ。
従兄弟だが、亮の母方の叔母…つまり、華やかな亮の顔立ちはそちらの一族から受け継いだ。
そして、陽茉梨は亮に似ている。
それが、ことさらに恋愛対象外にしてきた理由だった。
亮は陽茉梨を妹みたいに見てきた。
恋愛など、まるで考えなかった。
対峙して睨む敬一に、亮は負けじと睨み返す。
「…ああそうだよ、敬一。俺は、陽茉梨のこと、女として見てなかった…いや、見ないようにしてたんだよ」
「…ずるいよね」
妹に手を出した従兄弟に、敬一はさらに鋭く刺す。
「陽茉梨の気持ち、わかってたのに。ずっと無視してたの知ってたよ」
「気持ちに応えられるわけがねぇだろ!」
「なんで」
「じゃあ、逆に聞くぞ!?お前は、家族の一人を女として見れんのか!?」
家族という言葉を使うと、亮はますます陽茉梨を女として見ることに罪悪感しか感じなかったのだ。
年の離れた、近所に住む従姉妹
陽茉梨。
当たり前のように家族ぐるみで交流し、育ってきた。
いや、亮は陽茉梨より10も年上だ。
育ててきたのだ。
生まれたばかりの陽茉梨を、その手に抱いた日を今でもおぼえている。
小さくて、触れるだけでどこか壊れてしまいそうなほど繊細で、柔らかくて。
命が生まれるということに、子どもながらに感動して、腕の中で震えた。
「そんなの、亮ちゃんの言い訳だよ」
敬一は一歩も引かずに言う。
「女とか家族とか以前に、陽茉梨に向き合え」
「……!」
「亮ちゃんも気持ちに嘘をついてるのが、俺は嫌だ」
※
気づいてはいた。
陽茉梨の目が、高校に入った頃ぐらいから自分を熱の帯びた目で見つめてくることには。
(…大人の男に憧れなんて一時的なもんだろ)
亮は、はじめの頃は陽茉梨の視線に少し戸惑いつつ、そんなふうに思った。
だが、視線は変わらない。
常に追ってくる。
いや、年を増すごとに熱の純度が高くなっていくのが分かった。
冷たかったかもしれない。
きつく突っぱねた時もあった。
ふざけるなという気持ちもあった。
だから、陽茉梨も限界になった。
『…20歳の夜、亮ちゃんと初めてのお酒、一緒に呑みたい。もうそれで、諦めるから』
それで、最後。
そう言って、医師として働く亮が住む街へ来た。
高校を卒業し、家業の酒屋を手伝っていた陽茉梨が、急に看護師になるためこの街へ来た。
『1年後に…亮ちゃんのお家で一緒に呑んでいい?』
1年後
家に来るなり、陽茉梨の様子は普通ではなかった。
『諦めてあげる』
煽るように酒を口にして一杯を飲み干すと、抱きついてくる。
『…陽茉…』
亮は息を呑み、声がでなくなった。
陽茉梨は、着ていた厚手のセーターをいきなり捲し上げて脱いだ。
そして、肌着一枚になって亮の体に全てを預けてのしかかった。
熟れた女の身体とは裏腹に、顔はまだ幼い子供みたいに泣いている。
『亮ちゃん…っ亮ちゃん…っ好き…っ』
悲鳴みたいな声をだして、肌着もまくる。
陽茉梨の涙が目から止めどなく落ちてくる。
『好き…!お願い…っ全部、私のこともらって』
『…やめろ』
『やだ!!』
『やめろ。後悔する』
『やだぁ…!!亮ちゃんしか、欲しくない!!私のこと、ちゃんと見て…!!』
いつもは感情をあらわにしない、すんとした陽茉梨の顔が崩れた。
泣いてすがり、こじ開けるように陽茉梨の口が亮の唇を覆った。
『…っーーーやめろ!』
顔を背けて瞬時にそれを振りほどいた。
睨みつけたつもりはなかった。
だが、ひどい顔をしていたのだろう。
叫んだ亮を見つめ、陽茉梨が呆けたように固まる。
大きな目が見開き、止まらない涙と共に唇が青くなったまま震えていた。




