私、亮ちゃんが思うよりモテるからね?by陽茉梨
これは…
10個下の従妹に手を出し、結婚までいくと誓ったエリート医師の話である。
「亮ちゃん」
「あー?トイレならそこ玄関から右手のドアな?」
松倉綾菜という女子の最上位クラスにいるようなグラドルと別れた亮。
陽茉梨とつきあい、自宅デートをしていたのだが…。
亮はだらけた感じでソファーに腰掛け、たまりに溜まったメールチェックをしている。
同じ部屋の中にいても、陽茉梨を見ずに会話していた。
「先に言っとくね?
ーー私、亮ちゃんが思うよりモテるよ」
亮はまとめてメール50通をゴミ箱に捨てていたが、ちょっとだけ止まる。
「へー?俺も、モテる」
「知ってる」
「まぁ、学生の頃はファンクラブとかあったしな」
同じ一族同士、2人の顔はとても似ている。
亮はいわゆる、王子様系の顔面を持つイケメンである。
29歳の医者には見えない若い端正な顔。センターパート分けの髪形を完ぺきにセットし、顔にかかる前髪や襟足までミリ単位で計算してカットを頼んでもいる。
「俺、鬼ほどモテるから」
亮は己の容姿に自信があり、悪びれることなく事実だけを伝えたが…
「私だって、サブちゃんに鏡餅とかもらってアプローチされてるし」
「まて。いろいろやばいアプローチな?名前もダサっ」
「ヤキモチ?」
「は?どこにそんな要素あった?鏡餅くれるサブちゃんとか、笑い話だわ」
余裕綽々で笑い飛ばしてやったのだが…
付き合った以上、陽茉梨は俺のもの。という以前とは違う独占欲はある。
内心、穏やかではなかった。
「サブ?佐武慎之介のこと?」
次の休日。
亮はわざわざ敬一に、噂のサブが誰なのか聞きに行っていた。
サブ…
佐武を訓読みで読んだあだ名のようだ。
敬一は配達の帰りで空になったビール箱をいくつも重ね、軽トラから店へ入れている。
「へえ。なんか、陽茉梨の幼なじみって聞いたけど?」
「幼なじみ?亮ちゃんだってそうだよね?」
「いや、知らんわ」
「サブは、斜め右の二軒目の米屋の跡取り(三代目)だから。昔よく、河川敷で亮ちゃんとも鬼ごっことかしてたよ」
「米屋!?」
アーケードの商店街には所狭しと、多くの店が並んでいるが…
言われたとおりに店をみるとそこには
『サブ 佐武米店』と看板があった。
「俺と遊んでた…?え?そんな奴いた?」
「サブは俺より一つ下で、亮ちゃんとは5つ違いだから…年離れてて気づかなかったかもね」
「……ふーーーん。陽茉梨とも5つ違いか。ロリコンじゃね?」
「亮ちゃんよりは年近いけど」
「うるせぇ。気に入らねぇ」
こういうのは、感情論である。
どんな男か一目見てやり、一言なんか言ってやらないと気がすまないというのがある。
いかり肩になって大股で店へ行き「おう!いるか!?三代目ぇ!」と年季の入ったガラス張りの引き戸を開けた。
「あ。こんにちは」
「っぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!?」
サブは悲鳴を上げた亮に笑顔のまま、首を傾げた。
両手に米袋30キロを4袋持ち、グラグラと揺れる中こちらへ向かってくる。
「お久しぶりです!いやぁ、すみません、今手が離せなくて…」
米袋のせいで顔は確認できないが、明るくよく通る声は爽やかである。
怯えて端へ逃げた亮は、そのままのしのしと外へ出たサブを見守る。
「よいしょっ」
ーーーーーードオオオン!!!
軽トラの荷台へ軽快な掛け声とは裏腹に、雷みたいな音を出して米袋が積まれた。
振り返ったサブは、俳優の◯郷◯多そっくりの爽やかな容姿と華奢な身体、そして身長も決して高くはない。
一見すると25には見えない少年のような華奢で儚げな美男子である。
「すいません。これあと10袋は積まないといけなくて」
微笑まれてゾッとした。
見えないけど、禍々しい強者のオーラを感じたのだ。
※
「改めて、サブ…こと佐武慎之助だ」
と、敬一が紹介。
「お久しぶりです。いやぁ、覚えてないですか?昔よく遊んでもらったんですけど」
「………いたような、いなかったような」
「亮ちゃんだ」
と、敬一。
「お前の仲人みたいな立ち位置なんなの!?」
淡々と両者を対面させ、敬一は「喧嘩しないように」と距離を取らせている。
(喧嘩…!?そんなもんしねぇよ。なんで、俺が…年下の米屋と喧嘩なんてするんだよ。ただ、どんな男が陽茉梨にちょっかい出してこようとしたのか、観察しに来ただけだ!!)
それを、世間一般では嫉妬であり、喧嘩を売りに来た溺愛彼氏というのだ。
「相変わらずかっこいいなぁ、亮さん。お医者様になられたってヒマちゃんから聞きました」
「へ、へぇー…」
「すごいですね。でも、昔から亮さんは家柄もいいし、頭も良かったから驚きませんでした」
「別に、普通の家だよ。放任主義だし…」
「お父様はパイロットで、お母様はキャビンアテンダントでしたっけ?すごいなぁ」
褒められてるが、なんだかだんだん褒め殺しみたいに感じだした。
亮は腕を組み、警戒心を解かず構えていたところ…
「そんな亮さんが、何でヒマちゃんと付き合ってるのかなぁって思ってます」
と、笑顔のまま先鋒を繰り出した。
「10歳年下の従妹ですよね?背徳感ヤバくないですか?」
言葉は刃となり、思い切り亮の胸を突き刺して致命傷を負わせた。
「……今のは、効いたな」
敬一は淡々と瀕死の亮を確認する。
「サブは思ったことを言う奴なんだ」
「めちゃくちゃ痛い!!一番痛いところ初対面なのに刺されたから!!」
「刺したつもりはないんですけど。この前も、ヒマちゃんに聞いたんですよ」
「笑顔が怖ええよ!!喧嘩売ってんの!?いきなり!?」
ははは。と、サブは笑顔を張り付かせて追撃する。
「ヒマちゃん。もう、亮さんのスカイツリーには登ったの?って」
ヒュッと変な音を立てて冷たい息を呑んだ亮は、青ざめた顔のまま笑顔のサブから体を引く。
「亮さん。ヒマちゃんの宝物には手を付けたんですか?」
「下ネタが微妙にオヤジ臭くて怖い!!!」
「下ネタはお手軽に場を和ませますからね」
「凍らせてんだよ!!」
叫ぶがサブは全く動じない。
「サブは顔に似合わず下ネタが好きだよな」
「よく顔と中身のギャップがあるねって言われます」
「亮ちゃん下ネタ苦手なの意外だね」
「淡々としてるお前のブレなささもなんか嫌…」
爽やかさかとオヤジが同居いるサブと、何事も動じない敬一。
「変な蕁麻疹みたいなの立ってきた…下ネタ終わりにして」
「ところで、何のご用ですか?」
「かき乱したお前が話の軌道修整するの!?」
「いやぁ、なんかいきり立って入ってこられたので。ヒマちゃんの件で言いたいことでもあるのかと」
笑顔のままだったが、鋭いサブ。
底しれない強者のオーラを放っているのは、変わらない。
「鏡餅あげたことを怒ってます?」
しばしの間の後、亮は青ざめた顔で返した。
「怒っているというかお前の正月限定のアプローチが、凄い」
「ああ、あれは鏡開きならぬ姫始めをヒマちゃんにしたいってことで…」
「それ言ったのか!?付き合ってもねえのにすげぇな!?」
「いつも、そんな感じだよ?サブは」
「兄としてそこは止めろ!!妹にいきなり姫始め持ちかけるやつを容認するな!!」
でもサブだからなぁ。と、敬一は淡々と言って「なぁ?」「いつもこんな感じでしたからね」と阿吽の呼吸で落ち着いている。
「ヒマちゃんも『鏡餅いらない。姫始めしない』と言って簡単に振りますからね」
「お前ももうちょっと捻りがないと、陽茉梨も飽きてきてないか?」
「鏡餅は会心の一撃と思ったのですが…」
「彼氏を前にした会話じゃねぇよな?俺がいるのわかってるか?」
近所の井戸端会議的な雰囲気になってきた。
※
「ヒマちゃんモテるんですよ。この辺一帯をそれはもう、フラグ立てすぎてて…あそこの八百屋も、こっちの魚屋も、花屋にいたるまで…」
「亮ちゃん。陽茉梨は、商店街を束ねるスーパーでも作りそうな勢いで思われてるよ?」
「へぇー…大型スーパー開店☆…って、上手くまとめてんじゃねぇよ!!!」
叫ぶと、話を聞きつけてわらわらとそれぞれの店主の次世代店主が「あれが、陽茉梨の彼氏?」と集まってきた。
一列に並んだ。
【魚屋 五代目 】
20代前半
重度のゲーマーで社会不適合者。
顔半分髪で隠してて、オフの日は一日スマホゲームしている。
店に出ると「へい!らっしゃい!」と人格変わってなんでもさばくし声も大きくなる。
時折好奇心でマンボウを仕入れて道行く人を集めて悲鳴も上がる。
【八百屋 四代目】
敬一と同い年。眼鏡の優男。
大学院まで行った植物学者。
八百屋もやるけど、畑もやったり野山を駆けて植物採集を楽しむ自由人。
陽茉梨と登山仲間。
【花屋 二代目】
亮と同い年の元ヤンキー。金髪ロン毛のお団子で、眉毛がない。
華道の段持ちで、花のセンスは超一流。
10年以上前は、地元では
『ブラック○ングダム』という名の暴走の元総長。
その他にも…
「茶屋です」
「金物屋です」
「布団屋です」
亮、全員を見回して
「………………」
あ。無理…ーーーー✩
亮は遠い目をして微笑み、めまいを起こした。
陽茉梨を慕う親衛隊みたいな商店街の男どもは濃すぎていた。
空が今日も高く、青かった…。
※アーケードでみえないけどね☆




