逢いたいの意味
ノクターンの完全版は、もうちょっと妄想がえちえちです
(逢いたかった……え、「逢う」って……!?)
ただの「会う」よりも、どこか特別な響きを持つ「逢う」という漢字に、翔平は半ばパニックになり、瞬時に顔を赤くした。
スマホを握っている手が、かたかたと震え始める。
「うわ。あざとくね?」
隣にいた陽太が、いつの間にか画面をのぞき込み、冷静なひと言を放った。
だが、翔平は恋に盲目である。
たちまち、都合のいい妄想に頭を支配された。
――翔平の妄想――
夢愛と夜に食事へ行くことになった。
「翔平くん……」
待ち合わせ場所に現れた、大人の女性となった夢愛が微笑む。
艶のある黒髪は背中まで伸び、少し甘い雰囲気のワンピースに、柔らかなカーディガンを羽織っていた。
「ひ……久しぶり」
「うん。お店、予約してくれてありがとう」
(か、可愛い……! 昔とちっとも変わってない!)
食事をしながら昔話に花を咲かせ、少しだけ酒を飲んだあと。
「あ……翔平くん、好き」
「お、俺も……!」
気づけば、なぜか夢愛をベッドへ押し倒していた。
※妄想なので、そこへ至るまでの過程は大幅に省略されています。
夢愛は恥ずかしそうに目を伏せ、翔平の服を小さく掴んだ。
「初めてなの。大切にして……くれる?」
「っ……大切にするよ。俺が、ゆっくり教えてあげる」
「きゃ……!?」
「身体に力を入れなくていいから。優しくするね?」
「うん……」
涙目で緊張しながら、それでも翔平を信じて、するりと服を脱ぐ夢愛までが一連の妄想だった。
「おーい。兄ちゃん?」
はっと我に返ると、陽太が呆れた顔で、翔平の目の前に手を振っていた。
自分がどこまで妄想していたのか悟り、急激に恥ずかしくなる。
「いや!? あり得ない! あざとくなんかない!!」
「いやいや。『逢いたかった』とは書いてるけど、具体的なことは何も書いてないじゃん」
「恥ずかしがり屋だから、書けないだけなんじゃないか!?」
「じゃあ、誘ってみなよ。絶対に脈なしだよ」
「……夢愛ちゃん、デートに誘おうかな」
妄想を現実にしたいあまり、相手が弟であることも忘れ、ぽつりと本音を漏らしてしまった。
初恋の女の子と付き合えて、そのうえ身体まで重ねられたなら、幸せすぎる。
溺愛する未来しか考えられない。
(あくまでも自然に。下心だけじゃなくて……俺は、やっぱり夢愛ちゃんのことが好きだから。このままDMだけの関係では駄目だ)
「逢いたかった」と書いてくれた夢愛に対して、翔平はもう一歩だけ踏み込むことにした。
『俺も逢いたい。変な意味じゃなくて、直接会って話したい。都合のいい日、ないかな?』
心臓が痛い。
妄想の中で夢愛を抱いた時よりも緊張しながら、翔平はメッセージを送信した。
送った途端、深いため息が漏れる。
スマホを握る手の震えは、いつまで経っても止まらなかった。
しかし、残酷なことに。
それを最後に、夢愛からの返信が途絶えることを、翔平はまだ知らない。




