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3-9 side 阿賀稚日菜②

 深夜、神殿の人間の眼を盗んで『陽天』の結界の外周までたどり着くのはそれほど難しくはなかった。


深夜ともなれば中央神殿の扉は閉ざされ、人の出入りも無くなる。

それに『陽天』の近くまでは通常の参拝客でも行くことが出来るのだ。

特に障害も何もなかった。


けれど、そこからが問題だった。


『陽天』を包む円柱状の結界。これを抜けることが第一の関門。

そして、台座の宝石を入れ替える第二の関門が立ち塞がっていたからだ。


ただし第一の関門に関しては大きな問題にはならなかった。

これは第7席が追加で渡してきたポーションの様な薬液で対応出来た。


実際は半信半疑だったが、薬液をかけたとたん結界に丸く穴が開いた以上、その薬液の効果は疑いようがなかった。

第7席のスキルにより生成したものらしいが、詳細は教えてもらえなかった。

本当に胡散臭いやつ。


このように結界は案外あっさりと突破できたのだが、問題は第二の関門だった。


第7席によると神剣は資格なき者が近づくと攻撃をしてくるという。

それは悪しき者や力なき者を拒む、神剣の意志の様なもの。

円柱状の結界は資格なき者が誤って神剣に近付きすぎないようにする壁、という役割もあるというのだ。


つまり、運よく結界内に潜り込めたとしても、台座の宝石を交換する間『陽天』の攻撃にさらされる可能性が高いということ。

それがどんな攻撃なのかは私には分からないが、生半可な攻撃ではないことは想像に難くない。


「大丈夫、日菜は私が護るよ」


結界解除直前、そう言って海未は私に笑いかけてくれた。


海未はその頃には神気レベル4に到達しており、神気の特性として『守護』、スキルとして『慈愛の盾』というものを獲得していた。

実際は私も一緒のタイミングで神気レベル4になったのだけれど、神気の特性が不明だったのもあって、今回の作戦は海未がスキルを展開している間に私が宝石を交換するというものに決まった。


私は海未の笑顔に、強張っていた頬の緊張がほぐれたのを覚えている。

でも、それが、海未の笑顔を見た最後だったかもしれない‥‥‥


「じゃあ、行こう」


それはどちらが発した言葉だっただろうか。

私達は、結界に第7席から与えられた小瓶を投げつけた。


小瓶が結界に衝突して弾けた。

その瞬間、ジュワっと何かが焼けるような音がしたと思ったら結界に人一人が入れるような穴が開いていた。

そして、その奥には『陽天』とその台座。


数歩歩けば手が届くところにそれらがあった。

思わず私の喉がごくりと鳴る。


そして、


「『全ての苦難、全ての悲しみ、その全てから貴方を護る』」


海未が誓句を紡ぐ。そして立ち昇る青白い神気の輝き。


「スキル発動、慈愛の盾(ホワイトブレス)!」


『陽天』と私達を隔てる様に展開された、海未のスキル。


「走るよ!!」


そうして海未の号令と共に私達は走り出した。


だけど、そこから先は、地獄だった。


結界内に一歩踏み込んだそこは、世界が違ったのだ。

まるで灼熱の砂漠のような高温と熱波。

およそ生物が立ち入ることの出来ないほどの凶悪な環境。


息が苦しい、肺が焼ける。

『陽天』の神気に当てられた肌がチリチリと焦げ、徐々に黒く炭化していく。


ああ、これは死ぬな。

そう思った。

けれど、


「大丈夫、日菜は私が護るんだから!!」


海未が一歩踏み出す。それだけで熱気が幾分か和らいだのを感じた。

そうだ、ここで諦めるわけにはいかない。私は海未と生きるんだから!!


そう思い、必死に台座までたどり着き、焼ける肌を無視して宝石を外し、第7席に渡されたものへと付け替える。

永遠とも思える数秒を乗り越え、何とか交換が完了する。


やった、出来た!!


もうすでに声も出せないぐらい疲弊し、体の至る所が火傷による痛みに悲鳴を上げていたけれど、私は台座の宝石の付け替えに成功したのだ。

そうして、同じく全身火傷だらけの海未に合流しようとして、


ドンッ


海未に思い切り弾き飛ばされた。


刹那――――


ドウゥッ!!


それはまるで罪を犯した罪人を裁くがごとく、私が元居た場所に『陽天』から光の神気が放たれ――――

それが、海未の胸を、貫いた――――


「ぁ―――――――――――!!!」


焼け焦げた喉からかすれた音のみが絞り出される。

結界の外まではじき出された私は、はじき出された格好のまま内部を見やる。


ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン


その間にも『陽天』からは容赦のない神気の帯が次々と放たれ、床に投げ出された海未の身体を何度も貫く。

それは『陽天』が苛立ちをぶつけているかの様にも、罪人に鞭打っているようにも見える光景。

その神気に貫かれるたびに海未の身体が地面を跳ねる。


私は必死に手を伸ばす。けれど、『陽天』からの攻撃は止まない。


やだ、お願い、やめて!!


そう叫びたかったけれど、相変わらず焦げた喉からはまともな声が出ない。

いや、声が出たとしても『陽天』を止めることなどできなかっただろうけど。


だから私は、結界の内部に戻った。例え殺されてもいいから、せめて海未のそばへ。

穴を抜け、凶悪な熱波を踏み越え、海未の元へ!!


ズドォン!!!


そして、私は殺された。

結界内に入って来た私に『陽天』は先ほどよりも、なお苛烈な神気の光を浴びせかけてきたのだ。

胸に、腹に、四肢に、そして頭に。

抵抗する暇なんて微塵も無かった。

でもそれでも良かった。海未の傍で死ねるならと。

けれど、私の神気がそれを許しはしなかった。


『‥‥‥また明日、貴方と一緒に笑いたい‥‥‥』


焼けた喉で、知らず口ずさんだ誓句。

目覚めたのだ、私の特性、そしてスキル、『また明日(See you)会いましょう(tomorrow)』が。

それは、一日のうち一度だけ、どんな傷も癒す奇跡。

例え致命にいたる傷だったとしても、一瞬で完治させる、そんなスキルが。

それはきっと私の生き汚い心が生んだスキル。


だけど、それが明暗を分けた。

一瞬で全快になった私は、そのまま海未を抱え、結界をとび出したのだ。


「大丈夫、海未!?!?!」


私はすぐさま海未の状態を確認した。

そして絶望した。

海未は本当にひどい状態だったのだ。

スキルや神気特性のおかげか辛うじて息はある様だったが、全身には重度の火傷。

もちろん意識なんかなく、気管も焼きただれているのか、ヒューヒューと呼吸すらもおぼつかない。


「ダメ、死なないで海未。貴方が居ない世界なんか、私には、あうぁああああああ」


その時の私には泣き叫ぶことしか出来なかった。

重症の海未を前にどうしたらいいか、分からなかった。


だけど、ふと海未の手が、焼けただれて正常な皮膚なんかほとんどないような海未の手がそっと私の手の上に重ねられたのだ。

それはまるで、『大丈夫だよ』とそう言っているようで‥‥‥


だから私は涙で濡れた顔はそのままに、立ち上がり海未を抱えて走り出した。


このまま本当にしなければ海未が死んでしまう。それだけは絶対に嫌だ!

その想いだけを胸に!


そうして邪神教団の拠点の一つに駆け込んだのだ。


その頃には海未の呼吸は止まりかけていたが、幸いそこは医療施設が整った場所だった。

私は必死に懇願した。


どうか、どうか海未を救ってくださいと。


そして、その願いは成就した。

海未は『陽天』に接触した貴重な個体ということで、全力の治療行為が開始されそして生き延びることが出来たのだ。


けれど、全身の傷は生きているのが不思議なほどの重傷。

治療系の神気と最新の医療を組み合わせた治療を施しても、意識だけは最後まで戻らなかった。


それから数年。

海未は未だ目を覚まさない。

治療用ポッドに入ったまま、点滴によってその命を繋いでいる。


私は私で、第7席の言った通り邪神教団幹部の地位を手に入れ、様々な任務に従事した。


時には後味の悪い任務もあったけれど、邪神教団幹部の権力は大したもので、その地位に居ることで海未に十分な治療を施すことが出来ていた。


だから私はその地位にしがみ付くために率先して仕事をこなしたのだ。


そして現在、私は白筑学園に侵入している。

それはとある対象の監視のため。


数年前より邪神教団の監視対象となっていたその者は今年学園に入学するらしい。

そこで邪神教団は私を送り込んだのだ。


だから私は情報収集のため、多くのクラスメイト、教員。そういった者達にネットワークを広げ、噂や監視対象の動向が集まりやすいようにした。


本当にだたそれだけ、任務のためだけのはず、そのはずだったのに‥‥‥


実際、学園生活はそれほど悪くなかった。

いや、正直に言うと、とても充実したものだった。


同級生とのたわいない会話、皆で過ごす昼食の穏やかな時間、こちらを気にかけてくれる教員たちの優しさ、そのどれもが経験が無かったことだったから。


そのあまりに幸せな時間に私は何度も泣きそうになった。

実際、自室に戻った後は、罪悪感のあまり何度も嗚咽した。


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。


けれど、それでも‥‥‥

私にはやらなければいけないことがある!

だって海未は生きているから!!


今度は私が海未を護る。

ずっと私を護ってくれた海未を護る。

だから私は任務を遂行する。


例え学園で出来た友人たちを犠牲にすることになったとしても。

例えその罪を一生背負って生きていくことになったとしても。


だって、海未には私しかいないんだから‥‥‥


そうして私は荒野実習襲撃への準備を進めるのだった。


リアクション頂きました!ありがとうございます!!




システムさん:ヤバいっすね、『陽天』半端ないっす


主人公:確かに。いたいけな女の子二人にあの仕打ちはヤバいな


システムさん:でしょ?アレ絶対Sですよ!!鞭でビシバシやって喜んじゃうタイプの奴。きっと特殊プレイしか受け付けなくて恋人出来ないタイプですよ!


主人公:え、そうゆー話?


システムさん:そうですよ!まったく許せないやつですね!!あ、でも刀祢さんなら普段から慣れてらっしゃるから平気ですか?


主人公:いや、俺だってそんな展開慣れてなんて、慣れてなんて?あれ?


システムさん:普段から似たような目に合ってますよね?白亜様に縛られ、月夜さんにビームを放たれ、ノエルさん鋏で脅され、瑚兎ちゃんに切りかかられる。終いには邪神にも呪いの鞭でビシバシされてたじゃないですか?


主人公:‥‥‥あれ?じゃあ、『陽天』も俺のストライクゾーン?あの攻撃もご褒美に変わる?


システムさん:そう、あなたはだんだんストレイクゾーンが広がって来る、広がってく~るぅ~~


主人公:あれ?あれれ?


システムさん:‥‥‥(ニヤリ)

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