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3-7 朧桜-白麗-

まったく昨日はひどい目に合った。今は白亜の自室を訪れた翌日。

おかげで今日も絶賛寝不足中である。


授業中も何度も船を漕いでしまい、その度にジャンヌ先生からヒマワリの種攻撃を受けて大変だった。

最後の方は、神気まで込めた攻撃が飛んできていたからな。

俺の顔のパーツが全てヒマワリの種に置き換わるところだったよ、ほんと。


そんなこんながありつつ、放課後。

約束通り、俺と白亜は人気が無い荒野、正確に言えば以前マザーギリタブリルが住処にしていた廃教会を訪れていた。


ではなぜそんな場所に来たのか?

それにはもちろん理由がある。


昨日の白亜からの説明で朧桜に『神鋼』を吸収させる方法は理解したが、実は存在進化の際にはもう一つ条件があるからだ。


それは神気が満ちる場所で神気収束の魔方陣を描き、その上で存在進化を行うというものだ。

元々ここは『神鋼』が安置されていた教会。

神気の蓄積は大量だ。集められる神気も膨大なものになるだろう。


そんな廃教会にある剣神像の御前。朽ちてなお神聖な雰囲気が漂うそこで。


「さて、じゃあ素材をだしてもらおうか」


「はい、こちらを」


白亜はおもむろにメイド服のスカートの端をつまみ上げると、その細くしなやかな脚を晒す。

その中から取り出されるのは、先日ゲットした『神鋼』とマザーギリタブリルの素材たち。

それが白亜の脚元に落ちる。


ボトリ


「‥‥‥」


けれど俺は、それに手を伸ばすことが出来ない。

スカートの奥に隠れていたロングソックスとガーターベルトから目が離せなくなってしまったからだ。


「さあ、ご主人様お取りください」


俺が素材を取るか、白亜の脚を見つめ続けるかの懊悩を繰り返している間にも、白亜はその綺麗な脚を晒し続けている。


「こんなにも長い時間、私に恥ずかしい格好をさせるなんて。

ご主人様、そんなに私を恥ずかしめて、嬉しいのですか?

もう、本当に変態ですね。

ああ、ダメ、誰かに見られてしまいます。

お願いです、お早く、お取りください」


「っく!!」


白亜は恥ずかしそうに斜め下を向きながら頬を赤らめているが、その眼だけは態度とは裏腹に、とても楽しそうな色を帯びている。


分かってる。

白亜が俺をからかって楽しんでいることは分かっている。

しかし、俺はどうすればいい!?


ここで手を伸ばしていいものか。

あの素材を取りに行くということは、それすなわち白亜の脚を間近で見るということに他ならない。

俺にそれが耐えられるのだろうか?


それだ、もし、万が一動揺のあまり体勢を崩し、俺があの脚に触れてしまったら?

うん、たぶんそのまま俺の意識は白亜のスカートの中に消えるだろう。


ならばどうする?


とそこで俺は妙案を思いつく。

そうだ!!目に見えるから動揺するんだ!

目隠しをして、気配を探りながら取りに行けば、いけるはず!!


こんなこともあろうかと、俺はポケットに入れてあった手拭いを取り出して顔に巻く。

いや、本当はこんなことなんて想定はしていなかったけれど、今は良い。


俺は手早く視界を塞ぎ、視界に入る煩悩の塊を強制的にカットする。


え、本当に見えなくしていいのか?

見えないほうがTOラブルーになる可能性が高いんじゃないかって?


はは、馬鹿言っちゃいけねーよ。

俺がどれだけの戦場を駆け巡ったと思っていやがる?

相手の気配を探るなんてわけねぇよ!!

常在戦場、ここは戦場。であれば、動揺している暇なんてありはしない!!


俺は瞬歩を発動し、白亜の至近まで迫る。



シュッツ!!!



過去最速の瞬歩。間違いなくそう確信できる一歩。

にもかかわらず、白亜が俺の進路上に足を出す!


早い!? だが!!


俺は瞬時にそれを見切り小さくジャンプをする!

そしてそのまま疾風の速度で空中を回転しながら、神速の抜き手をもって『神鋼』とマザーギリタブリルの素材たちをつかみ取る!!


完璧だ!!


もちろん、手拭いをずらすなんて馬鹿な真似はしない!!

それをした途端、大事故になるのが目に見えているからな!!


そうして俺は白亜の脇を通り抜けると、少し離れた位置でズザザと靴で床を擦り静止する。

そして手拭いを外し、その手に掴んだ成果に喜びの声を上げる!


「よし取れた!!」


歓喜の叫びを上げる俺の後方では、白亜がこちらを振り返り呆れた顔でスカートを直している。


「まったく、本当にご主人様は」


「へっ、残念だったな。今回は俺の勝ちだ!!

いつまでもいいようにされると思うなよ!!」


昨日の意趣返しも含めて俺がどや顔をしていると、


「残念。もう少し楽しみたかったのですが。

ですが、ご主人様の初心な表情も楽しめましたし良しとしましょう」


白亜は悪びれもせずに、こちらに歩み寄って来る。

その様子に若干負けた気分になるが、それはそれ。

今回荒野に来たのは目的があるのだ!

このような些事にいつまでもかかずらっている訳にはいかない。


「まったく、いつまでもこんなことに時間をかけてはいられないんだよ。

今日は朧桜を存在進化させるために来たんだからな」


俺は右手に持った朧桜を水平に掲げる。


「ええ、そうでしたね。

ご主人様とのデートが楽しくて少し調子に乗ってしまいました」


そんな俺に対し、白亜はふわりと幸せそうな笑顔を浮かべる。

その顔は正に、エンディングで流れるような綺麗な笑顔。

まるで周囲に光が舞っているようだ。


くっ、ずるいぞそんな顔。

ぜひ、脳内スチルに取っておきたくなるではないか。

そういうのはこのタイミングじゃなくて、ラスボスを倒した後とかにしなさい!


まあ、白亜の場合はその辺も理解の上で俺を動揺させるためにこんな笑顔をしているのだろうが。

それでも、さっきまでのギャップに俺の心はざわめいてしまう。

本当にうちのメイドは本当に恐ろしい。


「っつ。

まあいい。それじゃあ存在進化を開始するぞ」


動揺する胸を押さえつけ、俺は先ほどゲットした『神鋼』を左手に朧桜を右手に持つ。


集中だ、集中。

ここからは失敗できない。


足元には既に完成した魔方陣。

これは周囲の神気を収束させる魔方陣。

これと『神鋼』。そして俺の願いをもって朧桜を存在進化させる!!


俺は朧桜に『神鋼』を重ね、集中するように目を閉じる。


同時、足元の魔方陣が輝きだし、足元から青白い神気が渦を巻いて立ち上がって来る。


その間も俺は朧桜への集中を深くする。

すると、手の中の朧桜がドクンと震えた。


魔方陣がいっそう輝きを増し、周囲に風の渦が広がる。

それは朧桜の存在進化を祝うかのような風の声。


その中で白亜の凛とした声が響く。


「そうですご主人様。

そのまま神気を込めながら想像してください!

貴方はどんな武器を求めるのか、貴方は何を願う何を成すのか!

朧桜はきっとそれに応えてくれます!!」


俺の望み、俺の願い。

それはエロゲの様に美少女達とイチャイチャを‥‥‥


っといけない、雑念が混じった!

それも悪くないが、違うだろ?


俺の脳裏に月夜が、瑚兎が、ノエルが、ティアマトが、他のたくさんのヒロインが、そして、白亜の笑顔がよぎる。


そう、そうだ、


俺の、


俺の願いは――――


「推しの平和を護ること!!推しの笑顔を護ること!!そして、推しの幸せを護ることだ!!!」


俺はカッと目を見開く。

周囲は既に神気の渦に包まれている。


俺は願う。その切なる願いを。

俺は祈る。その熱い思いを。


願う、願う、願う、願う、願う、願う、願う、願う

祈る、祈る、祈る、祈る、祈る、祈る、祈る、祈る


それに応えるかのように俺の手の中の朧桜が小刻みに震え、周囲の神気を取り込み始める。

その神気の流れが幻想的な音を響かせる。

歓喜、それは愉悦、それは新たな存在へと変わる産声!!


「スゥ―――――――――」


俺はその神気の流れと朧桜に集中する。

意識は冷静に、けれど心は熱く。


周囲からの神気に合わせ、俺も今できる全力の神気を朧桜に注ぐ。

空間に満ちる神気と俺の神気が混ざり合い、朧桜に吸い込まれていく。


同時、朧桜と『神鋼』も共鳴するように光を放ち、その輪郭がゆっくりと溶け合っていく。


「ッ―――――――――!!!」


そうして朧桜はその輝きを極限まで強くすると。


ドウゥッ!!!


瞬間、光が弾け同心円状に凄まじい衝撃が伝播する!!

周囲で見守っていた白亜が、思わず顔を腕で覆っている。


だが、俺はそれでも光を放つ朧桜から目が離せず――――


その光が弾けた中央。

光が収まったそこに、それはあった。


柄から刀身まで、その全てを純白色に染めた美しい神樹の刀。


そう、存在進化した朧桜が、ゆっくりと、俺の手の中に、降りて来る。


「で、出来た‥‥‥」


呟きと共に、朧桜がポスンと俺の両手の平に納まる。

確かな重み、以前よりもさらに手に馴染むような、まるで俺と一体になったかのような感触。


それを確かに感じながら、俺は朧桜を握りしめる。


「やりましたねご主人様、大成功です!!」


傍に寄って来た白亜が、歓喜の声を上げる。


「そうか、やった。やったんだな!!

ありがとう白亜!」


白亜の称賛に、俺の中にもやっと実感が湧いてくる。


そうか、朧桜は無事に存在進化出来たのか。

俺の胸を充実感が満たす。

この気持ち何と表せばいいんだろう。

歓喜、期待、興奮、それらすべてが入りまぎったこの感情を。


俺はそんな気持ちに急かされつつ、一刻も早くとステータスペーパーを起動する。


「ステータスオープン」


すると、手に持った羊皮紙に徐々に文字が浮かび上がって来る。

今はその眼すら惜しいと、ステータスペーパーをじっと睨みつける。

そして――――


『個体名:神代刀祢

武技:剣術レベル12、槍術レベル6、拳闘術レベル9、弓術レベル3、

混神:レベル2

特殊スキル:ラッキースケベ、巻き込まれた体質、致命の選択、■■の加護、邪神の加護

称号:千人斬り、剣鬼、桜華天元流開祖、天下無双、世捨て人、鈍感師匠、限界突破童貞、エロゲインストーラー、邪神に認められし者、ビーストテイマー、性欲の剣鬼、スーパーエロリスト刀祢


装備:朧桜-白麗-」


そこには、あった。

今までとは違う表記の朧桜の銘が。


興奮が胸を満たす、期待に指先が震える、歓喜で叫び出したくなる。


それらを何とか制御し、俺はステータスの朧桜-白麗-の欄をタップする。


『朧桜-白麗-。それは神鋼を付与され存在進化を果たした朧桜の新たな姿。主と共に進化を続ける無限の可能性を持った神刀。その刃は主の道を切り開くためにあり、その心は主の望みを叶えるためにある』


その説明に胸の奥が熱くなる。


「朧桜-白麗-」


思わずその銘が口から洩れる。

呟いたその銘に心が震えるのを感じる。

この朧桜-白麗-と一緒なら、運命を切り開いて行ける、そんな予感が胸を満たす。


「朧桜-白麗-ですか‥‥‥

私とご主人様の子供にぴったりの名前ですね」


白亜も俺の後ろで何やら呟いているが、今はそんなことは気にしない。

それよりも


「俺、この朧桜-白麗-の力を試してみたい。

思おうままに剣を振るってみたい!!」


傍に居る白亜に告げる。

ああ、ダメだ、このまま家に帰るなんて、そんなことは出来ねー。


俺はその衝動に突き動かされるままに、荒野を見やる。


溢れ出す衝動にブルリと身が震え、背筋を興奮が駆け上がる。

そして口をついて出る言葉。


「よし、ちょっくら試し切りをしてくる!!」


これは誰がなんと言おうと止められない。

だって、男の子だからなぁ!!


そして俺は白亜の返事も聞かず、荒野へと身を躍らせるのだった。


「今日はごちそうを用意して待っていますので、夕飯までには戻ってきてくださいね」


そんな、白亜の声を背に聞きながら。


◇◇


後日談というか当日談―――


そうして一通り朧桜-白麗-の試運転を済ませた俺は、夕飯までに自宅に戻った。

そして、夕飯時、荒野に出ている最中に思い浮かんだ疑問を白亜にぶつけてみることにしたのだ。


「そういえば疑問なんだが、この朧桜は『陽天』の傍に生えていた桜の樹から作られたんだよな?」


「そうですよ」


「じゃあさ、何でそんなものを白亜が持っていたんだ」


「う~ん、そうですね。それは‥‥‥」


「それは?」


「乙女の秘密です」


「は?」


「ですから乙女の秘密です」


「いや、すげー気になるんだけど」


「これに関しては今の段階でご主人様にお話しすることは出来ません。

ですがそうですね、時期が来ましたらお話させて頂こうと思います。

なのでそれまでは、私の秘密を想像しながらお過ごしくださいね」


そうして、白亜は人差し指を口に当てると、悪戯好きの猫の様な表情を浮かべてウインクしてきた。

その表情に、俺はそれ以上の詮索は出来ず‥‥‥


そうして結局俺は、昨日に引き続き眠れない夜を過ごすのであった。


システムさん:ついに、ついに生まれてしまったんですね。刀祢さんと白亜様のお子様が!!これは喜ばしいことです。出産祝いです、いえ、その前に結婚祝いですか?ああ、忙しい忙しい!!


主人公:いや待て、俺まだ白亜と結婚してないから!朧桜も別に白亜の子供じゃないから!


システムさん:なんと!?ここまで来てまだ認知されないと!?このヘタレ!無責任ボーイ!人でなし!!


主人公:いや、朧桜は存在進化しただけだから!白亜関係ないから!!


システムさん:え、でも、もう白亜様から出産の報告と結婚式の招待状届いてますよ?


主人公:‥‥‥


システムさん:ポン(主人公の肩に手を置く音)

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