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3-6 朧桜

 さて、皆様は女の子の部屋に入ったことはあるだろうか?


俺はある!!


というか、今現在、絶賛その女の子の部屋で胡坐をかいているのである。

目の前にはガラス張りのおしゃれなローテーブル。


「どうぞ、ご主人様、紅茶です」


そう言って差し出されたのは、店舗特典でついてきた美少女キャラクターが描かれたマグカップだ。

俺はその美少女と目があい、思わず微笑みかける。


え、それはないって?

ばっきゃろう!!

それぐらいしないと冷静な思考回路が保てないんだよ!!


だって、女の子の部屋だぞ!!

前世と合わせて数十年踏み入ったことがない、未知の領域なんだぞ!?

俺にとっては宇宙よりも遠い場所なんだ!!


混乱している俺をよそに、その様子を可笑しそうに眺めて隣に座るネグリジェ姿の白亜さん。

その眼は先ほどのまでの眠そうなものとは違い、今は悪戯好きの猫の様に細められている。


「さて、では朧桜について、ですね」


そんな白亜さんだが、俺が訪ねてきた理由はしっかり覚えてくれていたらしい。

膝を寄せると、俺の耳元でそう囁いてくる。


「!?!?!?」


いや、何で耳元で囁くの!?

それ必要なくないですか!?

あふん、ダメ、話に集中できない‥‥‥


そうして白亜は一通り俺の反応を愉しむと、ニヤニヤ笑いのまま顔を離して続きを話し始めた。

くそぅ、いつかギャフンと言わせてやる!


「ご主人様は朧桜の何が知りたいのでしょうか。

ちなみにご主人様に渡す前の朧桜の保管場所は私のスカートの中でした」


「ぎゃふん‥‥‥」


思わず心の声が出た。

俺の眼は速攻で隣に座る白亜の脚へ吸い込まれてしまう。


ネグリジェに隠されたそれは、けれどそこはかとない色気を漂わせていて、その奥には神秘の‥‥‥

って違う!!そこも気になってはいたけれど、俺が聞きたいのはそんなことじゃない!!


俺はなけなしの童貞力を振り絞りネグリジェから目を引きはがすと、白亜に向かって向き直る。


「いやそうじゃなくてな。俺は朧桜の来歴や能力に関して知りたいんだ!」


そう言って、出来るだけ真剣な目を白亜に向ける。

だって、下に視線を移したら二つの御山とか、魅惑の太ももとかに目が奪われてしまうんだもん!!


「そうですか、朧桜の能力に関してでしたか。

それは残念です‥‥‥」


白亜はそれに対して少し寂しそうな表情を浮かべ、こちらを上目遣いで見て来るではないか。

だがな、俺には分かる。

こいつ完全に楽しんでやがる。


だって、上目遣いをしながら少し胸元が開くようにしてきているし、何よりその瞳の奥には俺をからかって楽しんでいる気配がちらちらと見えているのだから。


「くっ、そんな顔したって駄目だからな。

今日は朧桜の能力についてだ。

今日は流されないぞ!

それにずっと前から聞こうと思っていたんだが、そもそも、この朧桜、木刀にしては強度が異常すぎるんだよ。

先日の戦いでもそうだったが、神気で強化された武器ともまともに打ち合えるうえに欠損すらもしていない。

白亜はこれをくれた時、『とある桜の古樹から削り出しました』って言ってたけど、本当にそんな強度の桜が存在するのか?」


そんな俺の疑問に、白亜は一度目を伏せる。


「そうですね。ご主人様の仰る通り、この朧桜はとある桜の古樹から削り出しました。

ですがもちろん普通の桜ではありませんよ」


そして一つため息をつくと、先ほどのからかうような雰囲気なぞ霧散させた真剣な顔で


「それはこの都市の中央。中央神殿のさらに中心。

朧桜はそこに生えていた桜より削り出しました」


そんな特大の爆弾を投下してきたのだった。


一瞬、時が止まる。

言葉は理解できるのに、理性がそれを否定する。


だってそうだろう、そこにある物の心当たりなんて一つしかない。


「中央神殿のさらに中央‥‥‥

それはまさか」


「ええ、そうです。

この朧桜は神剣『陽天』の傍らに生えていた桜の気から掘り出したのです」


思わず朧桜を握る手に力が入る。

冗談だろ?

そう言いたくなるが、深いマリンブルーの瞳に宿る真剣な光がその言葉を許さない。


なら、本当に‥‥‥


それが事実なら朧桜はただの木刀なんかじゃない。

『陽天』の神気を間近で浴びていた桜の樹なんていう、唯一無二の存在の片割れだ。


だがそこで、俺の脳裏に『陽天』の姿と否定の言葉が浮かぶ。


「いや、有りえない。

だって中央神殿に桜なんて――――」


そう、見覚えが無い。

少なくとも俺が中央神殿に訪れる様になってからは、そんなものは一度として見たことがない。

しかしそれに対して白亜は、


「ですから『生えていた』を言いました。

この朧桜の元となった枝垂桜は、古き時代。それこそ邪神戦争直後から『陽天』の傍らに控え続けた古樹なのです。

それが数年前、予兆も無く折れました。それも根元から引き裂かれたように」


その話に頭の奥底がズキリと痛む。

何か、そうとても大切な何かを忘れているような。

けれどそんな思考も白亜の説明に霧散していく。


「ですが、その桜は長年『陽天』と共にあった古き樹。

故に大量の神気を内包しておりました。当然、それから削り出した朧桜にも。

ですから、朧桜の本質は非常に『神鋼』に近いものなのです。

それが鉱物なのか、有機物なのかの違いはありますが」


白亜はそう言って、俺の膝の上にある朧桜を見つめる。

だが、そうか。

そんな来歴がある朧桜だからこそ、数々の戦いに耐えられたのだ。

つまりは―――――


「『神鋼』もとい『神樹』といったところか」


その響きに、俺の手の中の朧桜がドクンと跳ねた気がした。

それはまるで自身の来歴を俺に知ってもらって喜んでいるかのようで。


「言い得て妙かと。

朧桜の驚異的な強度もそのような由来から来ているのかと考えます」


俺は知らず膝の上の朧桜を左手で撫でる。

本当にお前には助けられた、そんな思いを乗せながら。


そうしているうちに、俺はふと本日白亜の元を訪れた本題を思い出した。


「じゃあ、武器の存在進化に関してはどう思う?」


そう、本題はこれだった。

朧桜に関する謎は解けた。ではその上で、存在進化が可能かどうか、今の俺にはそれが重要だ。


「武器の存在進化。それは古の英雄達が成し遂げた武器の強化の話ですね」


「そうだ。

今、朧桜は存在進化が可能な状態になっている。

そのためには素材との融合が必要だが、木刀である以上溶かすわけにもいかない。

であれば、どうやって存在進化させればいいと思う」


俺のその質問に、けれど白亜は事も無げに答える。


「それに関しては深く考える必要はありません。

今でこそ木刀の形をとっていますが、朧桜は元々桜の樹なのです。

であれば簡単。その根本に素材を吸収させればいいのです」


「吸収?」


白亜が答えたその方法に、俺は頭の中で疑問符を浮かべる。

だってそうだろう?

吸収させるって言っても、柄に押し付けただけで朧桜がもぐもぐ素材を食べるのだろうか?

それがどうにも想像できない。


「素材を吸収させるって言ったってそんなこと――――」


だが、白亜は今度もあっさりと答える。


「出来ますよ。

朧桜の来歴を知った今のご主人様なら可能です」


それは、俺が朧桜を信じるか否かだと――――

であれば答えは決まっているだろう。


「‥‥‥分かった。そこまで言うなら朧桜と白亜を信じてみる」


「ええ、信じてください」


白亜はその答えに満足げに頷くと、そこで一呼吸開けた。

そして、その目元を緩めるとニコリと笑う。


「ですが、今夜はもう遅いです。

存在進化の際にどんなことが起こるかも分かりませんし、明日、私と一緒に荒野で試してみるのが良いかと」


そうして、視線で壁にかかったおしゃれな時計を示す。

時刻は既に深夜1時半。

これ以上の問答は明日以降の活動に響くだろう。


「そうだな。

早くやってみたい気持ちもあるけれど、それは明日の楽しみにとっておくことにするよ」


俺は白亜の視線の意味を察し、部屋を辞することにする。


まったく、今夜は興奮して眠れないかもしれないな。

そんな明日への期待を胸に抱えながら。


「ええ、そうするのがよろしいかと」


白亜も笑って俺に同意してくる。

だから俺は、


「ありがとう、白亜。

それじゃあ、俺は――――」


「部屋に戻って休むことにするよ」そう続けようとして――――


その言葉に被せる様に白亜が口を開く。


「ええ、ご主人様は美味しく私に食べられましょう」


「え??」


ゾワリ


背筋に悪寒が走る。

それはまるで肉食獣の檻に放り込まれた時の様な。


そう認識した時には遅かった。

俺は自分の手足がしびれ、上手く動かなくなっていることを自覚する。


「これは毒!?」


そう、それは前世で麻痺毒を盛られた時に実によく似た症状だった。

俺の頬に白亜の白くしなやかな手が伸びる。


「まぁ、良くお分かりで。

先ほどの紅茶、それに混ぜておきました」


白亜は悪びれも無くそんな恐ろしいことを飄々と宣う。

その顔は実に嬉しそうだ。


このメイド、主人に毒を盛るとか何考えていやがる!!

くそ、本格的に手足が動かなくなってきやがった!!


「こら、やめなさい白亜!!

明日荒野に行くんだろ!!

こんなことしていいと思っているのか!?」


俺は唯一動く口で必死に白亜を思いとどまらせようと頑張ってみる。

けれど、悲しいかな。スイッチ入ってしまった白亜さんは、そんなことでは止まりません。


「ええ、行きますとも。

ですが大丈夫です。明日に支障が出るようなことは致しません。

私がしっかり、ねっとり、ご奉仕させていただきます。

ご主人様はただ気持ちよくなって、天井のシミでも数えていて下さればいいのです」


「いや、それ絶対大丈夫じゃ無いやつじゃん」


そんなことになったら明日どころか、数日間はまともじゃいられなくなる自信がある!

けれど俺のツッコミも白亜には届かず。


「それではベッドに行きましょう。

いえ、ベッドでイきましょうね。」


「くっ、やめろ、やめなさい白亜!!

あ、ダメ、嫌ぁ、あ~~~~れ~~~~~」


そうして俺は、悲鳴を聞きつけた月夜が救出に来るまで白亜に全身を弄ばれるのであった。


システムさん:もぐもぐ、ばりばり


主人公:ねえ、お前何やってんの?


システムさん:え、私も『神鋼』食べればもっと進化できるかなって思って


主人公:前回あんなに意味深な感じで退場したのに?


システムさん:あれはあれ、これはこれです。私、進化してもっと手広くサポートできるようになりたいなって思って


主人公:いや、これ以上引っ掻き回されても困るんだけど


システムさん:何を仰います。私なんてまだまだです。もし私が進化したら、刀祢さんの日常のコーディネーションから、世界のネットを支配することまで何でもござれですよ。あ、ちなみに今でも婚活アプリみたいなのマッチングは出来ますが、やってみますか?


主人公:マジで!?それじゃあ、お願いしてもいいかな?出来れば優しくて、地雷が無くて、ヤンデレじゃなくて、世界を破壊しなくて、平和に結婚できる相手が希望なんだが!どうだ!!??


システムさん:ピ~~~、ガ~~~。検索0件。条件を満たす人はヒットしませんでした。またのご利用をお待ちしております。

あ~ダメでしたね。っていうか、そんな儚い夢、そろそろ諦めたほうがいいと思いますよ。


主人公:(´;ω;`)泣

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