3-1 編田先生の神気学②
ここから3章になります。楽しんでもらえると嬉しいです!
それと1章の最後に閑話『邪神’ズ メモリー』を追加しました。こちらも読んでもらえると嬉しいです!
「はぁ~~~」
俺は机に座りながら深いため息をつく。
今日は日曜にあった邪神教団拠点制圧の翌日、つまりは月曜日。
当然俺の都合など関係なく授業はあるのである。
始業前、俺は机に突っ伏しながら昨日のことを思い出す。
あの日、ユリアヌスや阿賀稚との戦闘後、俺達は邪神教団の地下施設を詳しく調査した。
だが、予想通りというか何というか、呪い子や忌み子に関する資料も含め、重要なものは全て廃棄された後だった。
まあ、侵入した時点で気付かれていたようだしそれは仕方ない。
俺は邪神教団の拠点に残った資料に、お勧めのエロゲと一押し店舗特典を太ペンで記載し、邪神教団のエンブレムの上からネコ耳とネコ尻尾を描き足してから、白亜と共に拠点を後にした。
俺的には渾身の出来だったので、あれを見て奴らが少しでも改心してくれればいいなと、そう心から思っている。
いっそ、ネコ耳邪神教派とかイヌ耳邪神教派とか生まれないだろうか?
そうしたら俺としても協力するのはやぶさかではないのだが。
「だがまあ、問題は‥‥‥」
呟いて教室の前の方の席を見やる。
そこは主人の居ない机、阿賀稚日菜の席。
朝のうちにジャンヌ先生に聞いたところでは、今日の阿賀稚は体調不良で休みだそうだ。
だが、実際は昨日の騒動が原因だろう。
本来であれば今日中に阿賀稚と接触を図りたかったが、さてどうしたものか。
そんなことを考えていると、始業のチャイムが鳴り、教室の前方から編田維新先生が入って来た。
今日も素敵な口髭と首元の蝶ネクタイが輝いている。
う~ん、エレガント。
「そうそう、授業の前に連絡事項をお伝えしておきます」
そんな編田先生が切り出したのは来週のイベント。
「皆さんご存じの通り、来週に日帰りで荒野実習があります。
危険な荒野に出ての眷属討伐実習になりますので、以前渡した資料にはしっかりと目を通しておいてください。
今回は初回なので、基本的には我々教師陣が眷属を討伐するところを見てもらうことになりますが、荒野では何が起こるか分かりません。
皆さん準備だけは整えておいてください」
そうして、話は終わりとばかりに編田先生は教本を開く。
そう、俺もついこの前知ったのだが、SAHの舞台である第一都市と同様、第二都市でも入学初期に荒野実習があったのだ。
通常は眷属と戦うチュートリアル的なイベント。
少なくともSAHの中では大きなトラブルはなく終わっていたと記憶している。
俺は、ひとまず荒野実習についは棚上げし、教壇の方に意識を戻す。
そうして始まった編田先生の神気学。
「さて、今日の授業に参りましょう。
今日は邪神戦争と武器の存在進化についてお話しましょうか」
編田先生はクルリとステッキを回すと、その先端に備え付けられたチョークで黒板に文字をしたためる。
その流麗な文字は、編田先生の性格を如実に表しているようで実にエレガントだ。
「では最初に。皆さん、邪神戦争はご存じでしょうか?
そうですね、ではモブ川フラグ君、お願いします」
「はい!」
指名されたモブ川が元気に返事をする。
その服には、ジャンヌ先生の実技授業の時と同様に『働いたら負けだ』の文字。
あの服、何着持ってんだろう?
「邪神戦争とは、剣神により神気を与えられた人類と当時猛威を振るっていた邪神との戦争です!!
その戦争では多くの血が流れましたが、最終的には邪神を封印することで人類側が勝利しました!!
それはとても激しい戦いで、うちの先祖も、この戦争が終わったら結婚するんだーーーー!!って叫びながら戦った、そう先祖代々伝えられています!!」
編田先生はそのモブ川の返答に満足げに頷く。
「元気があって大変いいですね。
そうです、神気を得た人類と邪神の戦争。それが邪神戦争です。
モブ川君のご先祖様達のおかげで今の平和があるのですね。
ありがとうございます。
では今日はそれをさらに深掘りしていきましょう。
邪神戦争、その戦いは苛烈の一言でした。
邪神は強力で、本来であれば人の身には余る強敵でした。
ですが人類は勝利した。
では、どのようなことが鍵になり邪神に勝利したのか。
それが分かる方はいますか?」
「その質問には僕が答えようか~」
声が上がったほうを振り向けば、わかめ頭で『わたしが悪い子になったら‥‥‥』と書かれたシャツを着た男子がキザったらしく手を上げる。
「はい、それではモブ海ブドウ君、どうぞ」
「は~い、先生。
先人達は、激しい戦いの中で武技と神気のレベルを上げ~邪神に対抗したと~、言われていますぅ~」
彼は巻き毛をクルクルといじりながら答える。
その様子に周囲の女子がキャーキャーと色めき立っている。
くそぅ、俺とはキャーキャー言われてる内容が違いすぎる!!
ハーレムゲーの主人公みたいな奴め!!
そんなモブ海君に俺は内心を嫉妬でメラメラ燃やすが、編田先生はモブ海君にさえ丁寧に対応する。
流石編田先生!!
「そうですね。
武技、神気。どちらが欠けても邪神に勝つことは難しかったでしょう。
ですが他にも要因となった事柄があります。
それが武器の存在進化です」
そこで編田先生は再び黒板に向き直ると、いくつかの武器の絵を描き、その横に『存在進化』と書き込む。
そして、存在進化を跨ぐ形で書かれた矢印の先に、それぞれの武器の特徴を持った美少女達を描き、それをトントンとステッキの先で叩く。
「邪神戦争ではこの存在進化無くして勝利はなかったとも言われています」
編田先生が俺達に向き直る。
「現在最強の武器といわれているのは『神鋼』を使用した武器ですが、『神鋼』を作るのには長大な時間を必要とすることは以前の授業で話しましたね?
では、『神鋼』が無い状態で邪神に対抗できる武器があったのか?
それが存在進化した武器だったのです。
では、それはどのようなものだったのか?
『神鋼』を加工した武器を除けば、本来武器は神気を付加することは出来ても、生み出すことは出来ません。
ですが、数多の戦闘で神気に触れた武器は、使用者の強い思いに呼応して一段上の存在に変化すると言われています。
それは誰かを護りたいという強い思いや、生きたいという強い意志。
そういったものに触れた時、武器もそれに応えてくれる。
それが武器の存在進化です。
また、存在進化の面白い所としては素材特性の発露がありますね。
武器の存在進化を行う際には任意の素材融合が必要になります。
邪神の眷属の素材、神水、アイテム、果ては他の武器等々その素材に制限はありませんが、存在進化した武器はその素材の特性を引き継いだ武器となります。
このように、様々な特性を持った強力な武器を使用することで、人類は邪神に対抗する牙を得ることが出来ました」
編田先生は口髭を撫でながら、遠い過去を懐かしむ様に虚空を眺める。
その顔はどこか寂寞とした気配を漂わせている。
「そして、武技、神気、存在進化と人の想い、その全てを尽くし人類は邪神に打ち勝ったのです。
結果、邪神の本体は異次元に封印され、さらには邪神が力を取り戻さないよう、邪神の心臓・上半身・下半身はそれぞれ神剣により封印を施されたのです」
編田先生は一息にそこまで話し終え、ふーっとゆっくり息を吐く。
数秒の沈黙。
そこへ、生徒から声がかかる。
「あ、あの~先生。
それでは僕たちの武器も存在進化が出来るんでやんすか?」
おどおどとそう聞いたのは、『すこし頭冷やそうか』と書かれたTシャツを着たおかっぱの少年だ。
編田先生はその生徒に向き直り、
「そうですね、モブ山ワサビ君。
理論上はそれも可能だと言われています。
ですが残念ながら存在進化している武器を持つ人間は現代には居ないのです。
それは戦いの激しさの違いなのか、実力者が既に『神鋼』を保持しているからかなのかは分かりませんが。
ただ、もしかしたら皆さんの誰かが存在進化を成し遂げるかもしれません。
私はそれをとても楽しみにしているのですよ」
少し嬉しそうな顔をする。
そして、編田先生はいつもと同じように俺達を一通り見回すと、
「皆さんの今後の研鑽に期待しています」
その言葉で締めくくるのだった。




