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2-22 邪神教団第7席 背教者

 目の前でさらさらと、赤黒い宝玉が霧になって消えていく。

それに伴い、目の前の呪い子の形が崩れて、赤黒い泥となって地面に広がっていく。


その呪いは地面をジュウジュウと焼きながらも、徐々に端の方から霧となって消えていっている。


「‥‥‥そんな‥‥‥馬鹿な」


向こうで包帯の阿賀稚が茫然と立ち尽くしている。

よっぽど呪い子が敗れたのがショックだったようだ。


そんな阿賀稚をしり目に、俺は合流してきた白亜に声をかける。


「サンキュー、白亜」


「いえ、ご主人様のお役に立てたのなら何よりです」


白亜は優雅な礼でもって返す。

ほんと、そうやってメイドらしい仕草をしている時は完璧美少女メイドなんだけどな。


とそこで、白亜の視線が阿賀稚へと移る。


「ところでご主人様、あちらの敵は排除なさいますか?」


そこには戦意が抜け落ちた表情をしている阿賀稚。


「いや、捕らえて尋問しよう。あいつには聞きたいことが山ほどあるしな」


そう、俺は阿賀稚に尋ねなくてはいけないことがたくさんある。

何故このタイミングで阿賀稚が動いているのか?

俺の家を見張っていた理由は何なのか?

この施設のことやどれぐらいバビロンの呪いを保有しているのか?

他にもたくさん。


本来の展開であれば彼女が本格的に動くのは神代刀祢が〈狂楽〉へと堕ちた後のはずだ。

それがかなり早まっている。


もし現時点での主人公と呪い子が戦いになってしまえば、主人公にそれを打ち破る術はないだろう。

そうなれば原作破壊どころの話ではない。


俺のせいでメインストーリーから外れつつあるこの展開。

俺はそれを正確に把握しなければいけないのだ。


そして、俺は阿賀稚の方に向き直り、白亜と共に一歩前に踏み出そうとした。

その瞬間――――


ピシリ


周囲の時間が止まった‥‥‥


それはこの世界に来て何度も体験した、致命の選択肢。

だが、その発動は予想外!

緊張が走る。

俺は信じられない思いで周りを観察する。


だってそうだろう?

既に勝負はついた。

なのに、まだここから何かが起こる可能性があるというのか!?


まさかと思いつつ、俺は目の前に提示された選択肢を見やる。


【1】「お前に聞きたいことがある」そう言って阿賀稚の肩を叩きながら優しく問いかける。

【2】もう少し敗北を自覚させてから今までのお仕置きをしてやるぜ!!というわけでしばし放置!!

【3】「阿賀稚、お前だってことは分かってるんだよ。世間にばらされたくなきゃ、包帯を巻いたまま「プレゼントは私よ」って言ってみろやぁ!!」


『‥‥‥

緊張した割に選択肢が酷い。

最後のなんかは下種だな。うん下種だ。

俺が目指すエロゲ紳士とは相いれないし、【3】は却下しよう。


まったく、

「プレゼントは私よ」

ってのは、本人に自発的にやって貰うのに意味があるんだよ!!

決して強要するようなものではないのだからな!!


とまあ、そんな俺の主張は置いといて、そうすると残りは【1】か【2】だな。


う~ん、普通に選ぶのであれば【1】‥‥‥なんだけど、このタイミングで致命の選択肢が出現したことには意味がある気がする。

今、阿賀稚に近寄るのは危険だと、そう言われている感じ。


であればそうだな、今回は【2】にしよう。


いや、決して邪な考えがあるわけでは無いんだ。

ほんとだよ?

お仕置きとか少しいいなとか、阿賀稚に「くっころ」なんて言わせたいわけじゃないんだからね!!

ゴホンゴホンッ


さて、では方針も決まったな。


今回の俺の選択肢は【2】だ!!』


すると、例のごとく周囲が色を取り戻し、時間の流れが通常に戻る。

そして、俺が阿賀稚に向かう足を止めた、


次の瞬間――――


「おやおや、困りますね、彼女を連れていかれては」


何処からともなく空間に声が響いたかと思うと、周囲に濃密な殺気が充満する。

やっぱり何かあったか!!


致命の選択肢に感謝をしつつ、その殺気のあまりの強さに俺と白亜が警戒レベルを一気に最大限まで高め周囲に目を走らせる。


だがおかしい。

気配察知を最大にしてもこの空間に敵の気配は感じられない。


白亜も敵を捉えられないのか、左右を見回して警戒している。

とそこで――――


トプン


何処か聞き覚えのある音が響く。

背筋に嫌な汗が流れる。


そして予想通り、地面に残った呪いの表面に波紋が広がると、そこから黒い司祭服をまとった初老の男が浮かび上がってきたではないか。


ゆっくりと姿を現すその男の顔には慈愛と微笑。

薄く開いた眼と口は弧を描き、あたかも聖職者のそれの様。


だが、違う。あれはそんな生易しいものじゃない。

その全身からはおぞましい何かが迸り、その何かに俺の肌は粟立っている。


阿賀稚が憎々し気に声をもらす。


「何しに来た、第7席」


第7席と呼ばれた男は薄く開いた眼で彼女を見つめると、その顔に優し気な笑みを浮かべる。


「いえなに、第8席殿が手こずれていたようなのでお手伝いにと思いまして」


そして、手を貸すかのように彼女に手を伸ばすが、


「っつ、そんなもの―――」


阿賀稚によりパシンとその手が弾かれる。

一瞬の静寂。

交差する視線。


二人の間に流れる空気は仲間とは思えないほど剣呑だ。


その光景に視線を向けつつ、俺は第7席という言葉にさらに警戒を強くする。


そう第7席。その名は本来のSAHにおける都市襲撃の際にも出てきた名前だ。

都市襲撃を裏で操り、そのまま陰に潜み最後まで主人公たちの前に立ちはだかった強敵。

二つ名は『背教者』。

その悪辣な手腕とチートな能力に、ユーザーは「こいつこそ邪神やん」と憤ったほどである。


こいつまで動いているとなると、やはり都市襲撃が前倒しになっている可能性がある。

主人公をあてに出来ない以上、俺の方で何とかするしかないか。


俺がストーリーの破綻に頭を悩ませていると、邪神教団幹部の二人に動きがあった。


阿賀稚に睨みつけられていた第7席がその表情から笑顔を消したのだ。

代わりに沸き上がる、怖気を感じるような威圧感。

それが阿賀稚に叩きつけられる。


「っく、かは」


それは今の阿賀稚にとっては重すぎるプレッシャー。

思わず阿賀稚が膝を着き、荒い呼吸を繰り返す。


「要らないと?

複数体の忌み子を失い、あまつさえ呪い子さえも無くし、それでもまだ、何とかなると?

そうおっしゃるのですか?」


第7席の蛇のような視線がねっとりと彼女に纏わりつく。

だが、呪い子達を失った阿賀稚は何も言えない。


それから数秒。

悔し気に歯噛みする阿賀稚の様子をしばし眺めた第7席は満足げに頷くと


「ところで――――」


今度は俺達の方を振り向いた。


「なるほど、流石はイレギュラー。邪神様と戦って生き延びただけはあります」


そこには先ほど阿賀稚に向けていた表情とは変わって、純粋な賞賛の笑み。


「それでどうです?あなたも邪神様の素晴らしさは分かったでしょう?

ぜひ邪神教団に入団してみては?」


そして、そんなことを朗々と宣う第7席。

その表情は自らの信仰に酔っているようでもある。


俺はその表情に嫌悪を抱きつつも、邪神との邂逅を思い出す。

あの激闘は今も俺の心の中で燻っている。


そうだな、うん。確かに邪神様のエベレストは確かに素晴らしかった!!

あの雄大さは他の何物にも代えがたい!!!

そしてそれは――――いってぇ!!


気付けば俺の足は白亜に思い切り踏みつけられていた。

それも踵のところで!

痛い、痛いですよ白亜さん。すみません、真面目にやります!!


「コホン」


俺は咳ばらいをして表情を真面目なものに戻すと、改めて第7席の言葉を反芻する。


「邪神の気高さと優しさ‥‥‥」


改めてその言葉と、第7席の様子を見て俺は思う。


「それに関しては分からなくもない」


邪神との激闘、自分の中に芽生えた願い、これからの起こりうる未来の悲劇。

それを思い、整理し、俺は素直な言葉を口にする。


隣の白亜からは驚愕の気配。

けれど俺は続ける。


「邪神には邪神なりの想いがあるんだろう」


そう、彼女には彼女の過去がある、苦悩がある。

SAHにおける彼女の過去は壮絶で、そして絶望に満ちたものだ。


第7席がその雰囲気を和らげ、嬉しそうにこちらを見つめている。

その表情は自らの信仰を信じ切っている者のそれだ。


「それは尊いものだと俺も思う」


けれどそれでも彼女は信じることを止めなかった。

最後はその願いに押しつぶされてしまったとしても、決して。

俺はその想いを、願いを俺は美しいと思っている。


「そうでしょ、そうでしょう。

貴方も分かってらっしゃる。そんなあなたなら――――」


そこで第7席がこちらに手を伸ばそうとする。


だがな、それでも――――


俺はそれを睨みつけると、朧桜を握る手に力を込める。


「けどな――――」


同時、俺の心が邪神教団への怒りで染まる。

信仰に陶酔しているようなあいつの顔が、この上なく頭にくる!!


「お前らとは相いれねーよ」


第7席が怪訝な顔をこちらに向ける。

ああ、その表情さえも癪に障る!!


「お前らの理想? はっ、知ったことかよ。

信仰だ?ふざけるな」


俺は邪神が見せたあの瞳を忘れない。


「お前らは彼女のことを何も分かっていない。

そんなお前らに彼女のことは任せておけねぇ。

ならどうする?簡単だ」


マルドゥークで俺にとどめを刺そうとしたあの瞬間の悲しみに満ちた彼女の顔を忘れることは出来ない。

だから――――


「俺が彼女を救ってやるよ!推しの幸せは俺が護る!!」


俺の宣言が空間内に響き渡る。

そこには確かな熱と、覚悟!!


そうだ、俺は推しを護るものだ!!

故に、推しに涙を強要するお前らは、俺の敵だ!!!


自らの答えを形にした俺は、戸惑っている第7席を睨みつける。

理解できないとばかりに、第7席がさらに言葉を続けようとするが――――


バヒュン!!


今度は蒼い流星が瞬き、同時、第7席の頬を赤い雫が伝っていた。

振り向けばそこにはディオスクロイを構えた白亜。

それは、白亜の銃から放たれた一条の光線だった。


「ご主人様は覚悟を示しました。ゴミムシは黙って下さい。

それに、ご主人様には私がいれば十分ですので!!」


白亜がその顔を嫌悪に染めて吐き捨てる。


数秒の沈黙。

交差する視線。


しばしの時の後、第7席ははぁとため息をつきながら頬に流れた血を指で拭い告げる。

胡散臭い笑みを張り付けた顔で、その全身に狂気を纏わせながら。


「そうですか、残念です」


それは決別の表明。敵対の意志。

だから俺も俺の覚悟を示す。


「ああ、そうしてくれ。

あいにく俺は推しを救うので忙しいんだ。

同担拒否はしていねーが、解釈違いは認めらんねーんだわ」


先ほどの怒りの全てを込めて、朧桜を大上段に構える。

そして――――


「桜華天元流奥義・天斬裂破!!」


大上段から振り下ろされた朧桜が空気を切り裂き真空の刃が飛ぶ。

空間が悲鳴を上げ、見えない刃が神速で走る。


そしてそのまま第7席と、その足元にわだかまる呪いに食らいつき、


ドガァアン!!!


周囲に赤黒い霧と土煙が舞い上がる。

今日一番の衝撃と轟音。

周囲には破壊の痕。


けれど、その土煙の中から声が響く。


「まったく、しょうがありませんね。

本日は荷物を回収するのが役目なので撤退しますが、次は異教徒として対応させて頂きます」


やはり無事か。

まあ、この程度であの第7席を仕留められるとは思ってはいなかったが、あいさつ代わりにはなっただろう。


徐々に土煙が晴れていく。

その中で足元の呪いに沈んでいく二つの人影。


「それでは失礼いたします。

邪神教団第7席・背教者アポステイト ユリアヌス・アトラエルの名において」


その影が完全に沈み、


「世界に邪神様の加護がありますように」


ドプン


そのまま現れた時と同じ音を残し、阿賀稚とユリアヌスの気配はその空間から消えていった。



そうして、俺達の邪神教団拠点制圧戦は終わりを迎えるのだった。






――――システム通知―――――


観察対象『神代刀祢』による邪神像への接触を確認しました。

討伐眷属数クリア

蒐集エーテル量クリア

神剣への参拝クリア

邪神像への接触クリア


全条件を満たしたため、混神の盃がレベル2に進化します。

それに伴い、邪気耐性がアップしました。神気耐性がアップしました。

邪気操作を獲得しました。

神気操作を獲得しました。

邪気吸収-萌芽-を獲得しました。

神気吸収-萌芽-を獲得しました。


刀剣朧桜の存在進化の準備が整いました。

進化の方向性を設定します。素材を選択してください。

‥‥‥‥‥

素材を確認できませんでした。存在進化は待機状態で保存します。


今後も対象の観察を継続します。

2章はここで一区切りです!もし面白い、続きが気になるという方がいましたら、ブックマークや評価、リアクション等頂ければ、めちゃくちゃ嬉しいです!

そして、これまでにリアクションやブックマーク、評価、感想を頂いた方々にも本当に感謝です!!

これからもよろしくお願いします!!

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