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2-19 呪い子

 俺は通路を全力で駆ける!

幸い飛び込んだ通路は一本道だ。

今ならまだ包帯幹部にも追いつける!


俺が狭い通路を疾駆していると、程なくして前方に明かりが見えてきた。


「あそこか!!」


迎撃に警戒しつつ俺がその光に飛び込むと、そこは先ほどよりもなお大きな空間だった。


石造りの壁、四角い閉鎖空間。

ただしそこには、先ほどとは明らかに異なる物が据えられていた。


それは正面。


部屋の最奥、そこに赤黒い鉱石のようなもので作られた巨大な邪神像があったのだ。


「早いね‥‥‥」


その声に邪神像から視線を落とすと、その足元。


何やらコードが複雑に絡まったコンソールらしき機械の前で、こちらをねめつけている包帯幹部が居た。


間に合ったか?

俺は奴に肉薄するべく脚に力を入れる。


「だけど、遅かった」


だが、それより前に不吉な声が響く。

そして、包帯幹部はニヤリと口元を歪めると目の前のコンソールに手を触れた。


瞬間――――


目の前の巨大な邪神像の眼から、口から、関節の隙間から赤黒い泥のようなものが溢れ始める。

それは見る者すべてに狂気を振りまき、触れた者すべてに死をもたらす呪い。


ギャアアガガガガガカカギャアアアアア


その泥は地面に落ちると、蠢き、鳴動し、可聴域を超えた甲高い産声を上げる。


そして、その一部が寄り集まり、泥の1mほど上に赤黒い球体を形成する。

球体を中心に吸い上げられていく周囲の呪い。


「ははは、これで終わりだイレギュラー!!」


ドロドロドロドロドロドロ


その間にも邪神像からは呪いが際限なく溢れ続ける。


俺はそれを見て茫然とする。

ありえない‥‥‥


けれど俺はこれを見たことがある。

その泥の名は――――


「バビロンの呪い――――」


そう、あれは邪神が行使したバビロンの呪い!!


「馬鹿な!?」


俺は現実を受け入れられず、否定の言葉が口から漏れる。


バビロンの呪いはSAHにおいて邪神のみが持つ特殊スキルである。

凶悪にして絶対の呪い。


邪神戦争の遺産として継承したものはあっても、邪神教団がそれを再現したなど聞いたことが無い。


俺の動揺が伝わったのか、包帯幹部が嬉しそうに肯定する。

その口元には醜悪な笑み。


「そう、これはバビロンの呪い。

邪神様が行使される至高の軌跡。

ではなんでそんなものを我々がもっているのか?

疑問だよね??

それはねイレギュラー!

お前が邪神様と戦ってくれたおかげなんだよ!!」


その叫びに呼応するように、邪神から最後の泥が勢い良く溢れ、その全てが宙にある球体の周囲に集まり渦を巻く。

そして、それらはブルリと震えると、収束し、捻じれ、蠢き、徐々に一つの形を成していく。


「我々は知っているんだよ。貴様が邪神様と戦ったのを!

まさか生き残るとは思わなかったけどね。

だけど、収穫はあった。それがこの邪神様の奇跡の御業だ。

我々は多大な犠牲を払い、眷属の外骨格で呪いを保管できることを知った。

そして呪いを制御するすべも見出した!!

それがこれだ!!

我々はこれを使って邪神様の御業をこの腐った世界に知らしめる!!」


それを聞き俺はようやく現状が腑に落ちる、と同時に忸怩たる思いが胸を締め付ける。


なるほど、俺が邪神と戦闘を行ったからこそのこの結果‥‥‥

だがまさか、バビロンの呪いを邪神教団が利用するとは‥‥‥


忌み子を量産できたのも、邪神の呪いが豊富に手元にあったからこそなのだろう。


俺の思考が現状に追いつき、同時、呪いがついにその形を完成させた。


体は獅子のような中型の四足獣だが、頭部に当たる部分にはイソギンチャクのような触手を生やし、尾はコブラのような形状。


それはウガルルム――――


だが、ウガルルムとは決定的に違う巨大な体躯と圧し掛かる威圧感。

SAHには現れなかった異形の怪物。

相対しているだけで生物としての本能が悲鳴を上げている。


「さあ行け、呪い子(のろいご)!!イレギュラーを祟りつくせ!!」


「ギャアアアアァアァァ!!」


耳をつんざく咆哮。

思わず顔をしかめそうになる。

しかし次の瞬間、バビロンの呪いもとい、ウガルルムの形態をとった呪い子が目の前から消えた。


そう認識した時には、俺の左方に巨大な影!

早い!!


とっさに朧桜を間に滑り込ませる。


バゴン!!


朧桜を介してとてつもない衝撃が腕を襲う。

巨大な鉄球でもぶつけられたようなその衝撃は、呪い子の前足による横なぎ。


「っつ!!」


だが俺はその衝撃に任せ、自らも跳びながら衝撃を分散する。

そしてそのまま壁に着地すると、その反動を使って、呪い子に向かって突進した。


「桜華天元流・一閃!!」


それは神速の抜刀。

その一撃は呪い子の浮いていた前足を根元から切り裂く裂帛の一閃。


べちゃり


地面を腐らせる音共に地に落ちた前足。

俺はそのままの勢いで呪い子の股下を通り過ぎ、背後を取る。

そしてさらに追撃を加えようと、脚に力を込め、


だが――――


「やっぱりか――――」


そこで俺は踏みとどまる。


俺が呪い子に次の一撃を見舞うその前に、落ちた前足はその断端から触手のようなものを伸ばし、元の位置にくっついていたのだ。


いやね、あの形状の時点で予想はしていましたよ。

していましたが、やっぱりその通りになると背筋に冷たいものが走るよね。


まったく、再生能力が強すぎるうえに呪い付きの触手なんて、鬱ゲーにしか需要ないだろ!!


そんな文句を言いたくなったが、呪い子はその間も許さないとばかりにイソギンチャクのような頭部から赤紫色の触手が伸ばしてくる。


そして、そのまま全方位から俺に高速で襲いかかって来た。


ガン!!ガキン!!ギャリリ!!


冷や汗を拭いながら、俺は朧桜を構え相対す。


弾く、いなす、受ける、躱す、斬る!!

触手と朧桜が火花を上げ、幾度も衝突し周囲に衝撃を撒き散らす。

しかし、捌き切れなかった一部が、俺の服を焼き抉る。


ドン!!!


そんな余裕がない状況。

その攻防の隙をついて、極太の触手が空気を切り裂いて正面から迫って来た!


くそっ、間に合え!!


「桜華天元流・霞!!」


俺はとっさに回避を選択!

特殊な歩法で破城槌のようなそれを避ける。


だが、同時、自らの失策を悟る。

呪い子は回避を予想していたかように、俺の足元から触手を跳ね上げさせ、胸部を狙ってきたのだ!


「ちっ!!」


とっさの判断!!

俺は体の前に滑り込ませた朧桜の胴でそれを受ける。

だがーーーー


ダメだ、衝撃を殺しきれない!?


俺はその勢いのままに吹き飛ばされる。

それはまるで巨大な鉄球が衝突してきたような衝撃!


くそっ、不味い!!


俺は何とか空中で体勢を立て直すと、地面に片手をつき、ズザザザザと足の裏を擦らせながら地面に何とか着地する。

あまりの衝撃に手にしびれが走っている。


「はぁはぁはぁ」


肩で息をする俺。

危なかった、あれが直撃していたらそれだけで再起不能になっていた。


そのあまりの威力に冷や汗をかきながら、俺は朧桜を構えなおす。

そうして呪い子の方に目を向けると、こちらを見据える醜悪な笑み。


こいつ、呪いのくせに下種な笑みを浮かべやがって。

まったく癪に触る!


「触手プレイは俺の担当じゃねーんだがな」


苛立ちと共に出た俺の呟きを、しかし呪い子は嘲笑う。


刹那、大量の触手が再び放たれ、俺を圧殺しようと押し寄せてきた。


「あー、もう仕方ねー!!」


俺はそれを見てひとりごちる。

俺は呪いの触手を斬る、伐る、切る、剪る!!


「本当は専門外だがなぁ!」


俺もそろそろ呪い子のなめ腐った態度には腹が立ってきた!


「これが邪神との戦いからの一連の流れなら」


こいつの顔面に一発叩き込まないと怒りが収まらない!!


「俺が何とかするしかねーじゃねーか」


だから俺も覚悟を決める!

そうして呪い子に向かい、凶悪な笑みを向けると


「推しの後始末、この俺が承った!!

さあ、推して参るぞ!!」


俺は朗々と声をあげるのだった!!



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