2-15 地下施設
昨日もブックマークと感想頂きました、本当にありがとうございます!!連日、すごく嬉しいです!!
俺達が邪神教団を追ってたどり着いたその場所は、スラム街の一画にある大き目な廃墟だった。
ここまでの道中、俺は白亜に、邪神教団が家の周囲を探っていたこと、今はその中の一人を追っていること、連中の目的を吐かせるないし拠点を潰し後顧の憂いを立とうとしていることを説明した。
それを聞いた白亜は、
「我が家を狙うとはなかなか良い目の付け所ですね。
もしそのまま来たのならば、私のコレクションの的にしてあげましたのに。
ですがまあ、いいでしょう。
今回は彼らのおかげでご主人様の私に対する愛情の深さを知ることが出来ました。
ああ、私、今とても幸せです。ご主人様の愛を感じて、ほら、こんなに興奮してきました。
はぁはぁはぁ‥‥‥。
ご主人様、ご主人様、ご主人様、ご主人様、ご主人様、ご主人様、ご主人様ぁ。
今すぐ押し倒していいですか?
舐めて回してもいいですか?
しゃぶりつくしていいですか?
野外での初体験もご提供できますよ?
ほら、きっと気持ちいい‥‥‥
え、それは嫌だ?ちゃんとベッドの上で?
分かりました、それじゃあこの問題が解決したら、しっかりねっとりこの前の続きをいたしましょう。
大丈夫、新しい鎖と首輪も用意しておきました。
今ならムチと蝋燭もセットです!
怖くない、怖くないですよ、はぁはぁはぁ」
そう言って舌なめずりをし、胸元からジャラリと音が鳴る何かを取り出そうとしていた。
すみません、今真面目タイムなんです。
切り替えは大事なんです。戦闘シーンに突然エロシーンを挟まないでください、お願いします!!
あと、ムチも鎖もいりませんから!!
俺はそんな白亜を全力の桜華天元流でもって止めたのだ。
その際、『致命の選択肢』が発動しかけて、スキルが
『やる? やっちゃう? ねぇ、そろそろじゃないの? ねぇったら?
大丈夫、いけるよ。溜まってるんでしょ? ほらいいよ、ねぇ。ねぇねぇ、いっちゃえ~』
と主張しているような感覚もあったが、今回は気合で乗り切った。
まったく、スイッチが入った白亜を押しとどめるのは本当に大変だったよ。
まあ、そんな平和なやりとり、うん、とても平和なはず、もありつつ今に至るというわけだ。
目の前の廃墟は2階建てでコンクリートがむき出しの造り。
割れた窓、壁にはスプレーで落書きがかかれ、周囲には瓦礫が散乱している。
その面影からはかつて役所か何かだったような印象を受ける。
なるほど、連中が根城にするにはちょうどよさそうな施設だ。
俺達は気配を殺し、その廃墟に忍び寄る。
足元の瓦礫で音が鳴らないように注意しながら男の後を追って内部に足を踏み入れる。
乾いた空気と、うっすらと舞い踊る砂埃。
だが、その中に隠しきれない人の往来があった痕。
肌がピリつく。その緊張感は戦場のそれ。
自然と口の端がつり上がり、朧桜を握る手に力が入る。
そんな中、俺はふと崩れかけの壁に目を向け、そして、思わず目を奪われた。
「なん‥‥‥だと‥‥‥?」
そこには型紙を使ったスプレーグラフィティ。
黒一色にも関わらず非常に精巧なその絵には、堤防の上で両腕を広げている美少女の姿が描かれている。
海風が彼女の長い髪を揺らし、周囲にはカモメ。
鳥さんが歌う詩が脳内をリフレインする。思わず俺はその芸術に両手を合わせ、感謝の礼を‥‥‥
って違った、注目するのはその隣の壁だった。
そこには赤黒いペンキで描かれた直径1mほどのエンブレム。
それは複数の獣が混ざり合い、貪り合っているかのような禍々しいデザインをしている。
「邪神教のエンブレムか」
「ご主人様、ご存じなんですか?」
「ああ‥‥‥」
俺の視線の先に気付いたのか、白亜も壁に視線を移す。
「なんだか、嫌な絵ですね。
獣が食らい合って、まるで混沌‥‥‥」
そのエンブレムを見ながら白亜は渋面を浮かべる。
嫌悪感を隠そうともしていない。
確かに、このエンブレムは気味が悪いもんな。気持ちは分かる。
「だけど、これでここが邪神教団の拠点だということは確定だな」
俺はそれを見て断言する。
そう、ここは邪神教団の拠点の一つ。それは間違いない。
何故なら邪神教団は自らの拠点にこのようなエンブレムを残すからだ。
それは一見無駄な行為。自ら見つけてくれと言っているかのような非合理的な行動。
しかし、やつらはこのエンブレムを掲げることを絶対にやめはしない。
何故か?
それは奴らの行動の根底にあるのが邪神に対する崇拝だからだ。
邪神教団は自らの行いを神聖なものだと思っている。
もちろん、それを行うための場所も神聖でなければならない。
エンブレムを描くことで、ここが聖なる場所だと主張しているのだ。
まあもし邪神教団の誰かがあのスプレーグラフィティを見てここを拠点に決めたのであれば、確かに聖地といえなくはないが‥‥‥
そんな思考が脳裏をよぎる。
だがしかし!!
あの絵の隣に邪神教団のエンブレムを描くとかやっぱ許せん!!
天誅だ!!
そんなことを誓いながら、俺は建物の奥へと意識を切り替える。
「この先ですね‥‥‥」
白亜の呟きが響く。
ビルの内部は閑散としており、人の気配はない。
けれど、奥に進む通路。その先の階段へと真新しい痕跡が続いている。
俺と白亜はそのまま階段まで進み、けれどそこで痕跡が消えていた。
「どこだ?」
俺達は痕跡を消えたあたりを入念に調べる。
そこには、一見何も無いように見える。
だが、登りの階段の裏、その床に、よく見ると一部分だけ不自然に途絶えている場所を発見した。
俺は白亜を手招きし、周囲の床を叩く。
響く空洞音。
「ビンゴ!」
俺は床板の継ぎ目に指をかけ、そっと外す。
するとそこには地下へと続く階段。
奥からは冷たい空気が流れ出している。
その寒さに思わず背筋がブルリと震える。
隣の白亜も少し顔を険しくしながら、その階段を見ておもむろに口を開く。
「聞いたことがあります。
北地区の下には広大なシェルターが存在すると」
「シェルター?」
「そうです。北地区は元々有事の際の避難場所として設計されていて、眷属が都市に侵入してきた時などを考慮して地下に広大な避難場所が設計されていたそうです。
ただ、長年神剣の加護で都市内の平和が保たれていることにより、その地下施設は封鎖。
北地区自体も廃れていったと」
「なるほどな‥‥‥」
俺は奥から吹き付ける冷たい空気を感じながら、地下への階段を見やる。
今現在、暗く先が見えないその階段はまるで化け物の口の中の様だ。
「それが邪神教団にとってちょうどいい隠れ蓑になったのであれば皮肉な話だな」
白亜の話によれば、この地下には大人数を収容できるような空間があるらしい。
それは邪神教団にはおあつらえ向けの施設だろう。
SAHに登場する邪神の愛し子が研究されている施設ほどではないだろうが、ここにもそれなりの施設があるに違いない。
ここからは覚悟を決めなければいけないか。
俺はそこで改めて白亜に振り向く。
「なあ、白亜。本当についてくる気か?」
本当は白亜を危険にさらしたくはない、そんな思いを込めて。
だが、そんな俺の問いかけに白亜は少し拗ねたような顔をする。
「ご主人様はまだそんなことを仰っているんですか?
ご主人様の安全を守り、貞操を頂くのはこの私です!」
そう言って、白亜は大きな胸をどんと叩く。
その拍子にたゆんと揺れる胸部装甲。
くっ、視線が奪われる。これは、ミスディレクション?いや催眠か?
こんな方法で俺からイエスを引き出そうとするとは、侮れない!!
一方の白亜は俺の視線の動きに気付き、いやらしい笑みを浮かべている。
そしてどや顔のまま続ける。
くそ、負けるもんか!!
何とか白亜の胸元から視線を外し、その顔を見やる。
「というか、ご主人様こそ私のサポートが必要でしょう?
ご主人様だけでは、大人数で殺到された時や敵が逃亡を始めた時に対応が限られてしまいますよ?
それに――――」
白亜は人差し指を自分の唇に立て、そのアクアブルーの瞳を怪しく光らせる。
「私、とっても強いんですよ――――」
そして、不敵に笑う。
交差する視線。
数秒の沈黙。
俺はその表情に思わず見とれてしまう。
だって、その様があまりに美しく、自身に溢れているものだから。
ああ、でもそうだな、白亜なら大丈夫。
何故か心の底からその感覚が、確信をもって溢れて来る。
それに、そこまで言われたら帰れと言う方が失礼だ。
故に俺は一歩踏み出す、白亜と共に。
「ったく、しゃーない。
それじゃ、いっちょ邪神教団狩りと行きますか!!」
「はい、ご主人様!!」
そして、弾んだ声を上げる白亜と共に、先に進むのであった。
◇◇
カツーン、カツーン
二人分の足音が石で出来た通路に響く。
俺達の侵入は――――まあ、ばれてるだろうな。
階段を下りた先の地下通路、そこまでは俺達も気配を消していた。
だが、その先、そこに見張りが二人居た。
俺の峰打ち、白亜の手刀によって俺達はあっけなく二人を沈めたが、そいつらの意識が途絶えた瞬間、施設全体に警報のようなものが響いたのだ。
恐らく、見張りがやられた時用のアイテムなり神気の能力なりがあったのだろう。
既にどの部屋にも人が居ない。
だが、先ほどまで人の居た形跡はある。
飲みかけのコーヒー、散乱した書類。
明らかにヤバい実験をしているような研究室では試験管の中身がジュウジュウと音を立てている。
軽く内部を除いたが、重要そうな資料は全て読めないように薬品がかけられ腐敗していた。
そして、それらがあった部屋のいずれもが無人。
まあ、邪神教団といえどもバカではない。
非戦闘員は逃げたのであろう。
侵入者用のトラップを発動させてしまったこちらにも落ち度があるか。
それにそもそも俺は剣士で白亜はメイドだ。
全てのトラップを見破るなど到底出来はしないのだ。
ならばこの状況、わざわざ気配を消す必要もないだろう。
「不意打ちや罠の類なら力押しで全部ぶっ潰すことも出来るだろうしな」
最近闇討ちと辻斬りには慣れてるから、いつでも来いやぁ!!
心の中でミニ刀祢君が木刀片手にうさ耳をつけて、はしゃいでいるぞ。
あれ、何か思考が瑚兎化している気がする。
これが推しと一体となるということだろうか?
まあ、そんなことより気になるのが、この先の空間に複数の気配が集まっていることだ。
それも明らかに殺気立った気配。
これは武装した集団のそれ。
「待ち伏せ、されていますね」
白亜が静かに告げる。
「そうだな」
だがそれでも俺と白亜は歩みを止めない。
「やっとお出ましか」
俺は口の端を吊り上げ獰猛な笑みを浮かべると朧桜を肩に担ぐ。
白亜はそれを満足げに眺めた後、朗々と詠う。
「行きましょう、ご主人様。
励起せよ、あなたに銘を授けましょう、ミニュアースの蔵」
白亜から立ち昇る神気。
それは深い深い蒼。そして艶やかな唇がその名を紡ぐ。
「ディオスクロイ――――」
同時、白亜はメイド服のスカートをめくりあげると、露わになった太もものホルスターから白と黒、二挺の拳銃を取り出す―――
拳銃!?
俺の疑問をよそに、白亜はこなれた動作でもって左右の銃のセーフティを外す。
「先陣は私が努めます。ご主人様はその後にごゆるりと。
ああ、それと、もし私が全部倒してしまったらご容赦下さいね」
そして前方を見つめている。
その唇は艶やかな笑みを形作り、その眼は、爛々と輝いている。
まったく、頼もしい限りだぜ。
釣られて俺も前方を見やる。
浮かべるは凶悪な笑み。戦いに赴く剣鬼のそれ。
そして、朧桜の柄を強く握りしめる。
「それじゃあ、楽しい楽しいダンスパーティーの開催といきますか!!」
主催は俺達、参加者は邪神教団の皆さん。
今夜は満足いく時間をお過ごしいただきましょう!!
「白亜、俺と一曲踊ってくれるか?」
「ええ、もちろん。
ご主人様のお相手は完璧美少女メイドである私しかこなせませんからね」
そしてどちらともなく駆け出すと――――
邪神教団が待ち受けているであろう広間に突っ込むのであった。




