2-13 マザーギリタブリル
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マザーギリタブリル。
そう呼ばれた眷属が、高々と掲げた鋏と三又に分かれた尻尾を打ち鳴らす。
それは獲物の死を予言する濁った鐘の音。
「さてと、それじゃあこれからが本番ですねっと」
それはその音を聞きながら唇の端を上げると、戦闘のギアを一段引き上げて朧桜を正中に構えなおす。
そして呟く。
「久々のマザーギリタブリル討伐戦だ、テンション上げていこーか!!」
そう、俺はSAHで幾度もこいつと戦っているのだ。
その経験を元に瞬時にこいつの行動を予想する。
初動パターンは3通り。
鋏の叩き落としか、体当たり、それと尻尾からの毒液だ。
「さてどれが来るか」
瞬間、マザーギリタブリルの尻尾の付け根がブルリと震える。
俺はそれを確認し、右足に力を込める。
次いで、発射されるレーザーのごとき勢いの毒液。
だが、それを目視する前に俺はもう地を蹴っていた。
毒液のレーザーをくぐる様に交差し、そのまま瞬歩でマザーギリタブリルの足元まで。
一瞬で肉薄した勢いそのままに、上段に構えた朧桜に力を込める。
「桜華天元流・天斬!!」
神速の振り下ろし。マザーギリタブリルの尻尾の一本を根元から叩き切る。
『ギャアアアァアッァアアアアアア』
耳障りな鳴き声が荒野に響き渡る。
だが、そんなものは無視だ。
俺は返す朧桜でもう一本の尻尾も切り落とす。
ザシュゥウウ!!
「これで2本!!」
尻尾の断面から赤黒い体液がまき散らされる。
俺はそれを半身で躱すと、さらにもう一本を切り落とそうと一歩を踏み出す!
だが、そこでマザーギリタブリルはその瞳を怒りに染めて急旋回すると、両方の鋏を思い切り叩き落として来た!
「ったく。あのまま、残りの尻尾で攻撃してくれれば全部切り落とせんだけどなっと」
俺は大きく後方に跳躍すると、鋏をかわしながらマザーギリタブリルから距離を取る。
「だけどな、そのパターンも経験済みなんだわ」
そう、俺は知っている。
SAHにおけるマザーギリタブリルは距離を取った相手に、その超重量で体当たりをしてくることを。
だが、それは悪手。
俺は万全の準備を行いそれを迎え撃つ。
激しい砂埃を上げて突進してくるマザーギリタブリル。
そのエネルギーは凄まじく、けれど当然、スピードが付いた重量物は慣性の法則に従うわけで、
「桜華天元流・流崩」
受け流し技にはめっぽう弱いのです。
進行方向を逸らされたマザーギリタブリルが轟音を立てて俺の横を通り過ぎる。
その瞳には驚愕が浮かんでいるが、それも間もなく、
ドガーーーン!!
俺の斜め後方にあった岩壁に頭から衝突してしまう。
ガラガラガラガラ
そして、そのまま崩れ落ちる岩壁。
その重量にマザーギリタブリルといえど、頭を突っ込んだ状態で動けなくなってしまう。
もちろん、俺はこれを見越して回避した位置を調節していたわけだけどな。
フラグ管理とヘイト管理はエロゲーマーの基本だから!
これを失敗すると、すぐ斧で殺されたり、後ろから刺されたりするから!!
何度もエロゲ内で虐殺された過去を思い出し、やや遠い眼になった俺はマザーギリタブリルを見やる。
今もマザーギリタブリルはそこから何とか抜け出そうと、多脚をバタバタさせている。
きっと、ヒロインに殴殺されそうになっていた主人公達もこんな感じだったんだろう。
だが、それはフラグ管理を行った自分自身のせいだ。
何にせよ、この戦闘においてその時間は致命的。
「さて、セーブポイントに戻る準備は出来てるかい?」
俺はマザーギリタブリルに向き直る。
こうなれば後は残り一本の尻尾と多脚を切り落としておしまいだ。
まな板の上のコイ、もといマザーギリタブリルといったところか。
その巨体が素材にしか見えなくなってきた。
だが、俺が物欲しそうな目でマザーギリタブリルを見ていると、最後の抵抗とばかりに残った尻尾が
『ぼ、ぼく、悪いギリタブリルじゃないよ』
というかのように、へにゃっている。
流石にSAHでもこんなシーンは無かったよ。思ったより器用な奴だ。
だがな、俺は待たない。俺が待つのは魔法少女の変身シーンだけだ。
というわけで、俺は両手を合わせ「いただきます」とあいさつをし、マザーギリタブリルの元へと向かったのだった。
◇
「これが‥‥‥」
俺は呟く。
マザーギリタブリルを倒し、素材をはぎ取り、現在は廃教会の中。
そこは壁面が崩れ、長椅子が風化し、諸行無常を感じさせる、そんな空間。
実際資料集では、この廃教会は邪神が封印される前、神気を得たばかりの人と邪神本体が戦っていた時代に建立されたという由緒ある教会だ。
邪神との戦争後に人が住めない土地になったため廃棄されたが、戦いが最も激しかった時代の教会。
当然、そこは当時の人達の心の拠り所にして最重要拠点の一つだった。
そんな場所が何故『ギリタブリルの揺り籠』といわれる場所になっていたのか。
その答えは今、俺の手の中ある。
教会の剣神像、その手に握られていた聖遺物。
神秘出来な青白い光を放つ金属の塊。
手に持つだけでそこから重厚な神気が伝わって来るレジェンダリーアイテム。
そう、それは『神鋼』の塊だった――――
加工前の『神鋼』。それは可能性と神気の塊。
ギリタブリル達が何としてでも破壊しようとしていた過去の遺物。
けれど破壊どころか、あまりの神気に奴らは教会の周りまでしか近寄れなかったのだ。
俺は改めて手の中の『神鋼』を見つめる。
そして心の中で主人公に謝罪する。
そう、これは本来主人公がゲットするはずだった物なのだ。
神鋼は武器に加工する以外にも、既存の武器を大幅に強化できる。
主人公の武器の強化アイテムとして使われる運命だったそれを、今回俺は回収しに来たのである。
そのことに若干の呵責は覚えるが、推しを護るためには万全を期したいという思いの方が強い。
俺は手の中にあるその重みに、思わず握った手に力を入れる。
歴史の重み、人々の願い、主人公が救うはずだった人たちの命、それが確かに俺の手の中にある。
だから――――
「俺が、救ってみせます‥‥‥」
その思いを引き継ぐことを心に誓い、深く静かに礼をする。
崩れた屋根から光が注ぎ、手の中の『神鋼』に反射する。
それはまるで、俺の誓いを受け入れてくれたかの様。
それから数秒。
静かな時間が流れる。
そして、
「さて、それはそれとして、ここに残されたアイテムと、マザーギリタブリルの素材を回収しに行きますか」
俺は踵を返し、ヒャッハーと声を上げ、廃教会に眠るアイテムたちをルンルンと回収するのだった。
◇
それから数時間後。
時刻は既に夕方。
「そろそろ帰るか。中型や大型の眷属も活発化する頃合いだしな」
一通りのアイテムを回収した俺は帰路につくことにした。
今回も多くの眷属を屠ったし、ここから前みたいにウシュムガルに襲われたら目も当てられない。
倒せる自信はあるが、正直しんどい。
それにこの前、月夜と白亜にも散々絞られたからな。
そうして、家路を急ぎ、今日は早めに帰って、皆で一緒に晩御飯を食べようか。
そう思っていた時期が俺にもありました――――
それは帰り際。
黄昏時が終わり辺りが闇に包まれ始める頃。
あと一つ角を曲がれば我が家という、まさにご近所中のご近所。
そこにね、居たんですよ。
何がって?
それはもう、黒くて怪しさ満点の嫌な影が。
一匹いれば百匹いるというあいつらが。
あー嫌な予感がする。
「なんで、邪神教団の連中が俺んちの事を見張ってんだろーね‥‥‥」
まだ連日投稿継続できると思いますので、お付き合いいただければ嬉しいです!!




