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2-10 鬼ごっこ

『ナイアの工房』を後にした俺達は、北地区と中央区の境目辺りをぶらついていた。


この辺りは雑多なジャンクショップや、中堅以下の武器屋などが並び、一部は飲み屋やホテルなどの歓楽街となっている。


あまり上品さはないが、それぞれが活気に溢れ、ひしめき合っている。

そんな区画だ。

一部の人からは敬遠されるところもあるかもしれないが、俺は雑多な活力に満ちたこの地区が嫌いではない。


そんな地区を俺とノエルは二人で連れ立って歩いている。


だがさて困った、これからどこに行こう‥‥‥

このままこの辺りで時間を潰してもいいが‥‥‥


正直中央神殿のナイアの工房、それに荒野と学校、それに自宅とノエルの家以外、ここ数日で俺が訪れた場所はない。

荒野は論外だし、学校と家ではお出かけにならないだろう。


そんなことを考えながら歩いているとノエルが俺の身体にしなだれかかって来た。


「えへへ~、刀祢ちゃんとのデート楽し~な~」


そうして、上目使いでこちらを見上げてきやがった。


突然の接触で俺の身体がびくりと跳ねる。

柔らかい‥‥‥

しかもなんかいい匂いまでするし。


ノエルと目線を合わせると、ノエルはさらにふにゃりとした笑顔を向けて来る。

その笑顔にドキリとしてしまう。


本当にこいつは顔だけ見れば整っているよな。

しかもめっちゃ睫毛長い


思わず、その頭に手を乗せてポンポンと撫でてしまう。


ノエルはさらに顔を綻ばせる。

その表情に思わず俺の頬まで赤くなるが、


はっ!?ダメだ俺!!

相手はノエルだぞ!?

暴走ピンク娘、走る爆弾、食パンは凶器、全てのトラブルを引き寄せるあのノエルだ!!

これ以上踏み込んだら危険だ!!

ほら俺の危機感知もウーウー唸ってるじゃないか!!

今回のこれもあれだ。

ほだされている訳ではなく、イヌネコを可愛がるようなそんな感じだ!

決してノエルにキュンと来たわけではない!!


心の中でそう早口で言い訳をして、俺はノエルの頭から手を離す。


ノエルは少し残念そうな表情を浮かべたが、すぐまた何もなかったかのようにギュッと体を密着させて来る。

あ、やめて、殊勝なノエルなんてノエルじゃない。

俺の中の黒部ダムが崩壊しそう。


頭の中で、


『イベントは設定してやっただろ?

ここで行かなきゃ童貞が爆発するぜぇ』


なんて運営の声が聞こえる気がする。

うっせぇ、それならもっとまともなヒロイン用意しろや!!

あんな称号つけやがった運営に俺は屈しない!!


そうして、運営への文句を思い浮かべながら俺はノエルから身を離すべく一歩距離を取ろうとした。

その時――――


「あーーー、刀祢と姫園がデートしてやがる!?!?!?」


背後から大きな声が響く。

その声に驚き振り返ると、そこには近藤イサオをはじめとしたNATOの面々。


「ちょっ、お前達なんでここに!?」


「なんでって、俺達の学外集会場はこの地区にあるからな。

ここから都市全体に姫園素晴らしさを布教しているんだぜ!!」


そう言って、近藤は一枚のポスターを広げる。

そこには、デカデカと印刷された笑顔のノエルと

『NATO募集 連絡先は白筑学園高等部まで』

の文字。


そう言えば、先ほど通りかかった店先にこれと同じポスターが貼ってあったような?

うっ、ダメだ思い出すのを脳が拒否している!!


「それよりも刀祢てめ~、何でこんなところで姫園と歩いてやがったんだ!?

返答によってはいくら刀祢といえど許さね~ぞ!!」


近藤がドシドシと足音荒く迫って来る。

その後ろにはNATOメンバー十数人。


あ~これは何と答えてもダメなやつだ。

それに、また途中でノエルが爆弾投下してきて、闘争になるのが目に見えてる。

せっかくの休日にまで俺はこいつらと戦いたくは無いぞ。


「はぁ~~、もう。

ノエル、逃げるぞ!!」


「えっ?刀祢ちゃん??」


俺はノエルの手を掴むと、そのまま一目散に背を向け走り出す。

突然の出来事にノエルが目を白黒させている。

それを指さし、叫ぶNATOメンバー達。


「あっ、逃げた!!

追え、野郎ども!!」


「承知!!

悪・即・斬!!悪・即・斬!!悪・即・斬!!」


マジかよ、NATOの奴らが刀やら鎖鎌やら取り出して追いかけてきやがった!!

ってか、これ捕まったら本当に即・斬されるやつやん!!


「待てーーーー!!」


狂気の様相で迫って来るNATO達、逃げる俺達。

くそっ、このままじゃ埒が明かない。


俺は裏路地に駆け込むとそのままノエルをお姫様抱っこして抱えあげる。

太ももの感触が柔らかい――――


違う!!煩悩に負けるな俺!!


俺は首を左右に振ると、そのまま左右のビルの側面を蹴って屋上まで駆けあがる。


「くそっ、どこ行った!?」


下を見ると、NATOメンバーが血眼になって俺達を探している。

やつらの中には身体能力に優れたやつも多く居る。

ここが見つかるのも時間の問題だろうな。


「しょうがねぇ、ノエル掴まってろよ!!」


「うん、刀祢ちゃん!!」


そうして俺はノエルをお姫様抱っこしたまま、逃亡を開始したのだった。



◇◇



それから数刻後。


「NATOの奴ら、しつこすぎる‥‥‥」


逃亡する俺達に対して、この地区を抜けられる場所すべてに奴らが居た。

どうも奴ら、追加で応援を頼んだらしい。

ここが奴らの庭だというのもあながち間違いでは無いのだろう。


削られる体力、徐々に狭まる包囲網。

さてどうしたものかと考えていると、


「刀祢ちゃん、あそこ、行こ??」


ノエルが一つの建物を指さした。

俺はその建物を見やる。

そこは歓楽街にあってなお異彩を放つ場所。

ピンク色のネオン輝く看板に、ご休憩の文字。


そう、これは、誰が見ても


「ラブホじゃねーか!?!?!」


俺がその前で口を広げ茫然としていると、ノエルがずんずんとラブホの方に向かって行ってしまう。


いや、ちょっと待ってくださいノエルさん!!

俺は入らない、入らないからな!!


「お~い、こっちの方探してみようぜ!!」


とそこで、大通りの方からNATOメンバーの声が響く。

マズい!


だがそこで動揺したのがいけなかった。

ラブホの入り口に立ったノエルは目にも止まらぬ速さで投げ縄を投げると俺をキャッチ!!

そのまま、ぶんっと思いっきり引っ張ってラブホの中に俺を引きずり込んできたのだ。


「えへへ、刀祢ちゃん、つ~かま~えた~」


ニコリとほほ笑むノエル。

ずるずるとラブホのカウンター前を引きずられる俺。

状況について行けず一瞬呆然としたがすぐに、俺は離脱を試みる。


ギチッ―――――


けれど、俺を捕らえた縄は緩むどころかさらに俺を締め付けて来る。

いや、ほんと白亜の縄といい、ノエルの縄といい、この世界の縄の強度は異常じゃないですか!!


「いーやーだーー!!はーなーせーー!!」


「まったくも~刀祢ちゃんは。

大丈夫、刀祢ちゃんの好きなことしてあげるから」


俺の好きなことって何ですか!?

コスプレですか、メイドですか、童貞殺すセーターですか!?

ダメだノエル、そんなことをしたらキャラが被ってしまうぞ!!


その後も必死に抵抗を試みるが、全く抜け出せない。

そのままラブホの一室に連れ込まれる。

そして無情にも締まる個室のドア。


俺はもはやお皿の上のサクランボ、あるいはアリジゴクに捕まった蟻である。

きっと俺はこのまま全ての液体という液体を絞りつくされて死んでしまうのだろう。

ごめん月夜、先立つお兄ちゃんを許しておくれ‥‥‥


月夜に何もしてやれなかった、そんな後悔と共に俺の頬を一筋の綺麗な雫が流れ落ちるのであった。


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― 新着の感想 ―
拝読いたしました。 ここまで妄想全開でキャラと作品を突っ走らせることができるのを、心からうらやましく思います。 その中にも、しっかりとシリアス(たぶん)な展開がしっかり仕込まれているのは楽しめます。 …
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