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2-8 邪神の愛し子

「――――邪神の愛し子――――」


その言葉が聞こえた瞬間、心臓が跳ねた。


〈邪神の愛し子〉


それはSAHではとあるイベントの時のキーワード。

それは邪神の器になりうるものに与えられる称号。

俺にとっては因縁の存在。


頭が痛い。胃のあたりから胃酸がせり上がり、今にも吐いてしまいそうだ。


邪神の愛し子、その単語をこんなところで聞くとは思っていなかった。

ノエルが?まさか??


うまく呼吸が出来ない。

俺の喉のヒューヒューとかすれた音が響く。

ナイアさんの言葉を理解することを心が、魂が拒否している。



SAHにおいて、邪神を召喚するには二つの方法があると言われていた。

一つは邪神の封印を全て解き、次元の狭間にいる邪神本体を復活させる方法。


もう一つは邪神の依り代となる存在に邪神の力と魂をおろし、復活させる方法だ。


それぞれ、メリット・デメリットはあるが、何にせよ邪神の脅威が復活するのは変わらない。

その二つ目の方法、邪神の依り代になる存在こそが、


邪神の愛し子――――


SAHの中で邪神教団は愛し子を探し求めるが結局は見つからず。

けれども、邪神の因子を人工的に人間に埋め込むことで邪神の愛し子を生み出そうとした。


多くの人間は邪神の因子に適合できず死ぬか異形に変じたが、多くの犠牲の結果、それは確かに成功してしまった。


それがSAHにおける月夜である。


そしてそれは神代刀祢が犯した最も重い罪。

俺が必ず防ぐと誓った悲劇の一つ。


「ノエルが邪神の愛し子・・・・・・」


唇から渇いた声が漏れる。


まさかSAHにおいても見つからなかった邪神の愛し子がノエルだったなんて。


俺がその衝撃に打ちのめされていると、ふらりとノエルが動く。

その眼は虚ろで、普段桃色の瞳の奥には赤い光が揺らめいている。


そしてそのノエルの手には、いつの間にか握られていた巨大な枝切り鋏。

それ高々と振り上げ――――


瞬間、膨れ上がる殺気!!


それはノエルのものだったのかナイアさんのものだったのか。


マズい!


脳裏に、二人が破壊をまき散らし周囲一帯を地獄に変える映像がよぎる。

それは数瞬先の未来!


俺は瞬時にそれを察知し、二人の間に身体を割り込ませるべく瞬歩を発動する。


その行動は本能。


この戦いを始めさせてはいけない!!

だってそれは、ノエルを死地に送り出すようなものだ!!


俺は一瞬で二人の間に移動すると、ノエルの両肩を掴んでその瞳を覗き込む。


一瞬後、顔の横を


ブンッ!!


鈍い音を立てて金属の塊が通り過ぎる。

それはノエルの巨大枝切り鋏。


そして、巨大枝切り鋏はガキンと床とぶつかりそのまま床に亀裂を刻みめり込んだ。


だが、そんなものは意に介さない。

俺はノエルの瞳をじっと見つめ続ける。

ノエルの様子は普通じゃない。今も虚ろな目を俺に向けている。

けれど、俺の声ならノエルに届く。

その核心をもって呼びかける。


「ノエル!!」


俺の声にノエルの肩がビクッと跳ねたのが分かった。


それから数秒。


その瞳から徐々に狂気的な赤い揺らめきが消えていき


「刀祢・・・・・・ちゃん・・・・・・??」


ノエルがゆっくりと口を開き俺の名前を呼ぶ。

よかった、いつものノエルに戻ってる。

俺が安堵の息をもらしていると、


「あっ、そっか~」


ノエルはそのまま、目を瞑ると、唇を突き出して俺の方に顔を寄せて来た。

その顔は完全にキスをせびるような顔で――――


ん!?ちょっと待って!?!?こいつ何勘違いしてやがる!?!?


俺は恐怖を感じ、とっさにノエルの肩を掴んでいた手をどかし離れようとする。

しかし、ガシリと音が鳴るほどの勢いでノエルが俺の両腕を掴み、そのままさらに顔を寄せて来る。


「っちょ、まって!!」


俺は叫ぶがノエルは止まらない。

いつの間にかナイアさんも殺気を収め、あひゃひゃひゃ言いながら腹を抱えて笑っていやがる。

この野郎、いつかぜってーぶっ飛ばす!!!


そんなことを心の中で叫ぶが状況は変わらない。

迫るノエルの唇。解けない腕。


数秒の逡巡。

俺は覚悟を決める。

俺はノエルの方に顔を近づけ――――


思いっきりヘッドバッドを決めるのだった!!


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