2-7 ナイアの工房に行こう
「それじゃ、僕は寄るところがあるからここでバイバイかな」
阿賀稚と俺達は揃って教会を出る。
外はちょうど太陽が中天に上り、春の麗らかな陽気も相まって平和そのものだ。
「そうだな、俺達もまだ散歩の途中だしな」
「え~デートだよ、デート」
隣のノエルが頬を膨らませて抗議してくるが、これは断固として散歩である。
俺の初デートをノエルに奪われてたまるものか。
「まったく、刀祢っちはヘタレだな~
今からホテルにでも行ってズッコンバッコンしてくればいいのに」
阿賀稚は俺とノエルのやり取りを見ながら、ほらっとラブホテルのある方向に親指を向けている。
いや、ほんとに君は恥じらいを持とうね!?
ノエルさん、急にホテルの方に引っ張ろうとしないで!?
今お昼、お昼だから!!
俺はノエルに引きずられながらも阿賀稚の方を向く。
「くそっ、やめなさい。あ~もう、それじゃあな阿賀稚、また学校でっ」
「バイバイ日菜ちゃん!!」
すると阿賀稚も俺達の方に手を振りながら応える。
「刀祢っちもノエルっちも避妊はしなよ~」
だから大声でそんなことを叫ぶんじゃありません!
周りの奥様方がひそひそ話しているでしょう!?
まあ、そんな感じに、俺とノエルは阿賀稚に別れの挨拶をし中央神殿前で分かれたのだった。
◇
いや、ほんと疲れたわ。
散々阿賀稚にからかわれた俺はもはや疲労困憊である。
流石は邪神教団幹部。トーク力も幹部級だったよ。
ってか、あいつ完全に陽キャレベルが振り切れてるのに何で邪神教団幹部なんだよ。
邪神教団は陽キャの集まりか!?
まあそれはそれとして、現在俺達は、次なる目的地、第二都市の北端を目指していた。
第二都市の北端、それはならず者たちが集まるスラム街。
俺は横目でノエルを見る。
その顔はホクホクと嬉しそうである。
それを見ながら俺の口からはため息が漏れる。
「それで、次に行きたい場所が『ナイアの工房』とは・・・・・・」
次の目的地を決める際、正直俺は『ナイアの工房』に関しては除外していた。
何故なら、ナイアの工房にはイリーガルな商品が多すぎる。
それに何より周囲の治安が最悪だ。
あんな所に若い女の子を連れて行ったら、あっという間に人攫い100人が寄ってきてしまう。
アンダーグラウンドの友達が100人欲しい人間じゃなければ、そんな愚行は犯さないだろう。
だが、ノエルは何故か俺がスラム街に行っていたことを知っており、
「刀祢ちゃんがどこに行ってたかを管理するのもお嫁さんの務めだからね♪」
なんて言いやがった。
思わずその場で全身ボディチャックをしちゃったよ。
残念ながら発信機なんて見つからなかったけど・・・・・・・。
ノエルさんはどうやって俺の行き先知ってるの?
あと調べてないのは体の中・・・・・・・
いや、考えるのは止そう!!
きっとノエルは超常的な力か何かで俺の居場所が分かるだけなんだ。
うん、そうだ、そうに違いない。
そうして俺は考えるのを止めた・・・・・・
そうしてそんなノエルを連れたスラム街ぶらり散歩。
予想通りというかなんというか、当然何度もお友達に絡まれましたとも。
バキ!バゴ!メキョ!
という音と共に積み上げられる屍の山(今度も殺してないよ!)。
残念ながら前回と違い数が多すぎたため、お勧めのエロゲの名前を額に書くまでは出来なかったが、代わりにお勧めキャラの顔を彫った芋判を全員のほっぺたに押しておいた。
布教としては少し弱いが、俺が芋から選んだ芋判だ!
その完成度に興味を持ってくれる人がきっといるはず!
そして彼らがオタク道に目覚めた暁には!!
俺は、このスラム街を秋●原にも勝るとも劣らないメイドさん溢れる一大オタク観光地にするのだ!!!
そしてゆくゆくは推しキャラ達でのライブを開く!!!
握手が出来るアイドルや、学園アイドルなんかも生み出して!!
敏腕Pに俺はなる!!
・・・・・・・
って違った!
スラム街散歩が殺伐としすぎてトリップしていたよ!?
俺の目標は推し達を悲劇から救うことだから!!
そんな心の修行を乗り越えつつ、俺は何とか『ナイアの工房』に辿り着いた。
軋んだ音を立てて木製の扉が開く。
店内は薄暗く、前回度同様に怪しげな商品が雑多に陳列されている。
そして案の定、奥からはひゃひゃひゃと笑う不気味な声。
だが、ノエルはそんなお化け屋敷顔負けの店にずんずんと入って行き、店内を物色し始めたではないか。
「あっ、これ可愛い~~」
とか
「これ、ママが作る料理にちょっと似てるね」
とか
「これペットにしたら面白そう~」
とか言って、様々な商品を手に取って喜んでいる。
まったく、ノエルの精神は鋼か何かで出来ているんだろうか?
ほら、あのお面とかカタカタ鳴りながら後ろにゴゴゴゴって効果音出してるし。
明らかに呪われてる。ってかあれ、仮面被ったら吸血鬼になるやつじゃね?
ちなみにノエルがとったのは、上から、邪神の眷属を象ったうねうね動くラバーストラップ、試験管に入った紫色のドロドロした何か、赤紫色のイソギンチャクみたいなのにギザギザの口が付きそこから赤い液体を滴らせているSUN値が削られそうなぬいぐるみである。
最後のやつとか絶対人殺してそうじゃん。
あれもキモ可愛いの範囲に入るのだろうか?
女子学園生の感性は俺にはよくわかりません。
そうしてしばらく店内を見て回った頃、俺が河童のミイラみたいなものを眺めていると、ふと奥から聞こえる笑い声が消えていることに気付いた。
不審に思い、棚の影から奥の方を覗いてみる。
そこにはノエルとナイアさん。
だが、
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言で向かい合う二人。
おかしい――――
あのいつでも不気味な笑いを絶やさないナイアさんと爆弾ピンク娘のノエルがお互いに無言。
まるでその空間だけ時が止まっているような緊張感がある。
そのあまりに違和感のある光景に背筋がゾワリとする。
息が詰まる。
それからどれぐらい時間が経過しただろうか。
数秒、数分、いや実際は一瞬だったのかもしれない。
薄く開いたナイアさんの口から静かな声が漏れる。
「――――邪神の愛し子――――」
そう、確かに口にしたのを、俺の耳は捉えたのだった。




