2-2 編田維新先生の神気学
「さて、それでは入学初日の皆さんには神気の授業をしましょうか」
そう言って黒板の前に立つ教師は俺達をぐるっと一瞥した。
その佇まいは紳士そのもの。
シルクハットをかぶり、手にはステッキ。
口元のくるんとカーブした髭と、首元の蝶ネクタイがその雰囲気を一層際立たせている。
その所作、言動からは常に気品と優雅さが溢れて出ている。
そんな彼の名前は編田維新。
決して変態紳士ではない。
彼は神気学の権威にして、この学年の学園主任。
その授業は、聞く者の神気への理解を何倍にも深くすると言われており、敬意を込めて編田教授とも呼ばれている。
そして現在、俺達はそんな彼の授業を受けていた。
「神気とは何か?
皆さんご存じの通り、過去〈剣神〉により人類に与えらた神剣、それにより目覚めた魂の力が神気です。
正確には皆さんの中にある神気の盃に溜められたエーテルが、魂の形に応じ変化し、人類に使用可能となったもの、それが神気なのです」
それはSAHの資料集にも記載されていた神気の詳細。
けれど、ただ資料集を眺めるのと、実際にその道のプロから聞くのでは実感が違う。
俺がその感動に打ち震えていると、生徒の一人が手を上げ編田教授に質問を投げかける。
「先生、質問です。それでは神気は人によって異なるのでしょうか」
その質問に編田教授は口ひげを撫でながら優雅に返答する。
「そうですね、細かいことを言えばそうなります。
特に神気レベルが4以上になるとその差が著明になってきます。
神気レベルが4以上では身体強化が出来るようになるだけではなく、その能力に特性とも言うべき違いが出てきますからね」
編田教授はそう言うと、後ろの黒板に文字を書き始める。
うむ、その仕草も非常にエレガントだ。
「まず神気には大きく分けて3つの型があります。
一つは自己強化型。
楯無学園長の神気がそれに当たります。」
黒板には可愛らしい兎の絵。
そのウサギの横に自己強化型の文字が並び、ゴォォォオオーーっという効果音と共に兎がオーラをまき散らしている。
「これは、読んで字のごとく、自らを強化する神気です。
その強化幅は通常の身体強化とは比較にならず、特に素早さ、攻撃力、防御力など特定の能力が非常に強力となる場合が多いです。
楯無学園長のあの速さを体験した皆さんなら、それがどれほど凄まじいか分かりますね?」
その問いかけに、一部の生徒はブルリと肩を震わせている。
右前の生徒なんかガタガタブルブル震えてらっしゃる。
瑚兎はあの生徒に一体どんなことをしたんだろうか?
いや、想像はつく。
瑚兎の事だ、やりすぎて彼をぼっこぼこにしたんだろうな。
だって、まだほっぺたに大きな絆創膏が貼ってあるもの。
「次に、他者干渉型です。
これは放出型とも呼ばれる能力で、一般に言うバフ、デバフといったものから精神干渉系、それに炎や水を出したりする自然能力系も該当します」
次に教授は茶髪の女の子が雷を出している絵と、金髪の美少女が電波を飛ばしている絵を描く。
いいね、素晴らしいクオリティだ!!
思わずオタク心が刺激される!!
「そして最後に特殊能力型。
これに関しては詳しいことは分かっていません。
と言いますか発現数があまりに少ないのと、能力の幅が広すぎて何とも言えないと言ったところでしょうか。
自己強化型と他者干渉型のどちらの能力も持っていたり、神気や邪気に直接干渉できるような能力もあるようです。
しかし、その作用機序も分からないため分別できなかったものをとりあえず特殊能力型と呼んでいる、というのが正しいですね。
そして、特殊能力型の性能自体はとても強力な場合が多いです」
教授は特殊能力型と書いた隣に大きなはてなマークを描く。
と、そこで生徒から再び発言が飛ぶ。
「先生、それじゃあ特殊能力型を発現できれば強くなれるということでしょうか」
「いえ、そう言うわけでは無いのです。
特殊能力型は確かにオンリーワンの能力を発揮しますが、その能力はピーキーで汎用性は高くないと言われています。
また、個々人の差が大きいため充実した指導を受けられないという欠点もあります。
それに自己強化型にせよ他者干渉型にせよ特殊能力型にせよ、その能力を極めるということが大事なのです。
神気への理解を深め、その能力を十全に発揮することが出来れば、どの能力も頂へと届きうる、それが神気というものです」
一通り話し終わったのか、そこで編田教授は一息入れると、生徒達の方を向く。
その表情はとても楽し気だ。
そして、
「皆さんの今後の研鑽に期待しています」
そう締めくくったのだった。
◇◇
さて、座学が終わった後はいよいよ実技の時間だ。
白筑学園での実技、それすなわち戦闘訓練と神気の訓練である。
戦いにおいて戦闘技術が高いほうが生き残れる可能性は増えるのは当然として、神気に関しても、習熟しているかどうかで戦闘の幅は大きく変わる。
ではその両方を鍛えるにはどんな方法が有効か。
その答えが今目の前にある。
校庭に集まったSクラス一同。
その手には、アイドルのサイン入り色紙やら某ゲームの激レアカードやら等身大フィギアやらいろいろなものが握られている。
かくゆう俺も、お気に入りエロゲの初回生産特典を持参してこの場に臨んでいる。
それは何故か?
もちろん訓練に使うためである。
その方法は―――――
「さて、そろそろみんな集まったぁ~?」
するとそこで、そんな俺の思考を遮るように前方から間延びした声がかかる。
その声の主はゆったりとしたジャージにぼさぼさの金髪、牛乳瓶の底の様な眼鏡をした20代ほどの女性。
猫背で覇気が全くない姿は先の編田教授とは全く対照的な――――
そんな彼女、ジャンヌ・オルレアンがだるそうに手を上げる。
「さて、みんな注~目~。
みんなにはぁ~、いまからぁ~、あ~~と、そうそう、実技訓練をしてもらいまぁ~す」
そして、初日にして恐怖の実習が始まるのだった―――――
明日の投稿は夕方ぐらいの予定です!




