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1-22 邪神’ズ メモリー

 いつからだろう、全てに絶望するようになったのは。


世界に裏切られ、迫害され、引き裂かれ‥‥‥

気付いた時にはすべてが色あせ、私の中には黒い感情が渦巻くようになっていた。

凍った心、ひび割れた思い、それでも永遠を生き続ける日々。

いつまでこんなことが続くんだろう。

そう思っていた。


けれど、最近変化があった。

それは小さな、とても小さな、けれど私の心を動かすには十分な変化。

希望なのか、それとも一時の儚い夢で終わるのか。

それを見定めるために、私は――――



遠い遠い昔、私は女神だった。

世界を生み、人を生み、獣を生み、森を生み、海を生み。

私はこの世界全ての母だった。


皆が楽しく暮らしていた時代。

争いも無く、笑いあっていた、かけがえのない日々。

子供達に囲まれて、それはとても幸せな時間だった。


けれどもそんな平和は、徐々に徐々に崩れていった。

子供達が争いを始めたのだ。


『これは私のものだ、ここまでが俺の領土だ、この財宝は僕のものだ』


そして――――


『私/俺/僕がこの世界の王になるんだ』


そんな争いが毎日世界のどこかで起きる様になってしまった。


それを見て、私は悲しかった。とてもとても苦しかった。

けれど私はその争いに介入することはしなかった。


子供達を信じていたから。

いつかきっと和解してくれる。

いつかきっと仲直りしてくれる。

そうしたらまた、元の様な平和で優しい時間がやって来てくれる。

そう信じていた(信じたかった)から。


けれど現実はそんなに優しくは無かった。

子供達の争いは激化し、ついには私にまでその刃を向けてきたのだ。

私は今でも覚えている。

血走った眼、狂気に歪む口元、引き攣った笑顔を私に向ける子供達の顔を。


「やめて、そんな顔をしないで!

お願いだから昔の優しいあなた達に戻って!!」


けれど私の訴えは届かなかった。


『あなたの力を奪えば私/俺/僕がこの世界の王になれる!』


子供達は口々にそう訴え、私を襲ってきた。

その瞬間、私は悟った。

ああ、もうあの優しい時間は戻って来ないんだな、と。


そして私は子供達と戦った。


本当は殺されて、私の力を奪われても良かったけれど、それはきっと新たな争いを生む。

今まで以上に凄惨な戦い。


ならせめて、これ以上の悲劇は避けられるように。

私が世界の敵になることで、子供達の争いが少しでも少なく済むように。


そう思って戦った。


幸い、ことは私の思い通りに進んだ。

私が世界の敵になることで、子供達の争いが減ったのだ。

本当に良かった。

そう思ったのも束の間だった‥‥‥


あいつが現れたのだ。

別の世界から、唐突に、私をあざ笑うかのように。


あいつは子供達に力を与えた、私と戦える力を。

その力は強力で、私はすぐに追い詰められた。

ダメ、このままじゃまた子供達同士で争いを始めてしまう。

やめて、お願い!!


けれど私のその最後の望みも叶わなかった。

子供達の刃は私に届き、私の四肢を切り裂いたのだ。

今でも覚えている、その顔は狂気に歪んでいた。


私は逃げた、必死に逃げた。

せめて、せめてこの力だけは渡しちゃいけない。

これ以上、あの子達を争わせちゃいけない。


そうして次元の狭間に逃げ込んだ私は、残った力で結界を張り、自らの存在を世界から隠したのだ。


それからどれぐらいの時間が流れただろう。

年千年、何万年、何億年‥‥‥

思い出されるのは狂気に染まった子供達の顔ばかり。

そうして永遠とも思える時の中、私の心は摩耗し、溶け、黒く染めあげられていった。



そんなある時、私の掌の中に小さな光が灯った。

それは何の偶然か世界のタマゴだった。


恐らく知らぬ間に力が回復してきていたのだろう。

もしかしたら、もう一度やり直したい、そんな願いが心の中にまだ残っていたのかもしれない。

だから私は願った。


もう一度、あの世界を。

今度は間違えない、今度は奪わせない!

そして、私の世界を砕いたあいつには復讐を!!


その時、私の頬に一筋の涙が零れた気がした。


けれど今は為すべきことをしよう。


そうして私はもう一度世界を作り直した。

そこは以前の世界ととてもよく似た世界。

愛しい子供達が居る世界。

そして、あいつに復讐するための先兵を育てるための世界。


それから世界は育っていった。順調に、着々と。

あいつに対抗できる子供達が育つほどに。


けれどある時私は思った。世界の、子供達の成長を見守るうちに思ってしまった。

この世界の子供達を私の復讐に巻き込んでいいのだろうか、と。


この子達はこの世界で必死に生きている。

なら、私はこの子達の幸せを願って寄り添うべきなんじゃないか。

そう、思った。


きっと子供達の成長と共に、私の中の黒い感情が少しずつ溶かされていたんだと思う。

私の中に、昔の様に子供達を慈しみたい、そんな気持ちが芽生えていた。


けれど同時にとても怖かった。

今度も拒絶されたらどうしよう。

子供達が争いを始めたらどうしよう。


だから私は力を隠し、この世界に降りた。

そして一人の人間として、そこに生きる子供達と共に歩んでみることにした。

それは存外に楽しかった、幸せだった。


子供達はすぐ喧嘩をし、泣き、悔しがっていたが、それ以上に笑い、喜び、助け合って生きていた。

ああ、私が欲しかったものがここにはある。

それは涙が出るほど嬉しかった。


今度こそ守ろう。この子達を護ろう。

いつか私の手を離れることになるのだとしても、この子達の成長を見守ろう。


そう決意をした。

私の中に再び温かな感情が溢れて来るのを感じた。

その感情がとても心地よかった。


けれど、やっぱり現実は


私に優しくはなかったのだ――――


それは異物だった。

この世界に私が把握できていない存在が居る。


まさか、と思った。

もしかしたら、と恐怖した。


だから私はそれを見定めるために、荒野に向かった。


そしてそこに、彼は居た。

うっすらとあいつの気配を漂わせながら、私の眷属を狩っていた。


心に、精神に冷たい氷が広がっていく。


私は彼の前に立った。

その瞬間あいつの気配が膨れ上がった。


ああ、また、またあいつだ。

あいつが私の世界を壊しに来た。

許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない


今度こそ絶対に奪わせない。

恐らく彼はあいつが送り込んで来た先兵。

私の世界を壊すための楔。

であれば早々に排除しなければ。


だから私は彼を殺すことに決めた。

邪気を開放し、バビロンの呪いを発動し、マルドゥークさえ召喚した。


けれど彼はその悉くを跳ね返した。

憎かった、悔しかった。

また奪われるのかと、心の奥底から恐怖した。


そして最後に彼は


エーテルさえもその身に宿した――――


その瞬間の衝撃を何と表せば良かったのだろう。


「あり得ない」


その一言に尽きただろうか?


エーテル。それは根源要素。

あらゆるものの祖にして、構成要素。

だが、その性質はあまりに苛烈であまりに暴虐。

故に、わたしやあいつですらエーテルの直接利用は出来ず、扱いやすい別のエネルギーに変換して使用している。


それをただの人間が?


その瞬間、私の中で何かが弾けた。

それは私の思考だったのかもしれないし、私の感情だったのかもしれない。


ただ、分かるのは、この子はあいつの思惑の外にいる。

そう、それだけは分かった。

可能性の塊。

神の神意を飛び越える存在。


そう思ったら必死なその顔がとても可愛らしく見えた。

小さな存在で、運命に抗っているその姿をとても愛おしいと思った。


あいつの気配が漂っているのは少し気に食わないけれど、それも上塗りしてしまえばいい。


だから、私は加護をあげた。

神気の盃を混神の盃へと変化させてあげた。


きっとこの子はそう、私の本当の願い、子供達と平和で穏やかな時を過ごしたいというその願いを叶えてくれる。

そんな予感がしたから。


ああ、楽しい、楽しい、楽しい。

これからこの子はどんな世界を私に見せてくれるのだろう。

どんな未来を描いてくれるんだろう。


もっと近くでこの子を見守りたい。うん、そうね、しましょう。


だから私は彼をすぐ傍で見守ることにした。


さしあたってはそう。

まずは、料理をふるまう所から始めてみようかしら。

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