1-21 魔法少女月夜
「月夜ちゃん、そっち行ったぁ!!」
「分かりました!!迎撃します、マテリアルブレイカーーーー!!」
夜の帳が落ちた荒野の上空、その闇を私が放った一筋の光線が貫いていきます。
それはまるで空を駆ける流星の様。
そして、光に飲み込まれた“敵”は、そのまま濃紺の粒子になって消えていきました。
よし!!
「次、来てます!!」
私は、キャロちゃんの後ろ、次元の壁を溶かすように現れた敵を捉え、キャロちゃんに注意を促します。
「オッケェー月夜ちゃん!!
ざこクリーチャ~さん、しつこい男は嫌われるんだよぉ!!
ダークネスシューーーーートォ!!」
キャロちゃんの持つ漆黒の杖からいくつもの漆黒の球体が生まれ、高速で飛翔。
それが全方位から敵に殺到しました。
それはとても繊細な魔法制御。
ズガガガガガガガガ!!
その攻撃を受けた敵は体中を穴だらけにしながら、キュキュキュと金属が擦れるような声で鳴きながら、やはり濃紺の粒子になって消えていきます。
私はその魔法制御に思わず感嘆のため息をついてしまいます。
私は大技を繰り出すことは得意ですが、あのような繊細な魔法操作は苦手なんです。
「ざこざこざぁ~~~こ、ほんとざこなんだからぁ、まったくもぉ~なさけなぁ~い」
一方のキャロちゃんは手をパーに開いて口元に当てると、キャッキャッと笑っています。
その様子をすこし羨ましい気分で眺めながら、私は周囲に索敵魔法を飛ばします。
・・・・・・反応なし。
ふー、とりあえず、周囲一帯に新しい敵の姿はなさそうですね。
私は警戒レベルと一つ下げると、キャロちゃんと合流しました。
「キャロちゃんお疲れ様です」
「月夜ちゃんもおっつ~~」
キャロちゃんはその漆黒の魔法服を翻しながらハイタッチをしてくれます。
うん、今日のキャロちゃんも可愛いですね。
そんなキャロちゃん、本名は姫園キャロルと言います。
夜でも輝いて見える薄いピンクゴールドの髪に、紫色の瞳、フリフリの魔法服。
紫色の大きな宝玉を備えた私と同系統の漆黒の杖を持つ姿はいつも自信に満ち溢れています。
「でも、今日は一段と敵が多いですね、何かあったのでしょうか?」
「だね~、何かに興奮してるって言うかぁ、落ち着きがないっていうかぁ。
まるで、ざこ童貞お兄ちゃんが女の子を前にしてあたふたしてるみたいだったねぇ~」
私は周囲を眺めながら思案します。
今日、敵が現れたのは荒野の中心。
下には閑散とした大地と、エーテルラインの大渓谷が見えるのみです。
一方で、普段敵が現れるのは都市上空。
だけど今日に限ってはそこから大きく外れた場所で、しかも大群。
「良くないことが起こってなければいいんですが・・・・・・」
先ほどのノエルさんからの連絡を思い出し、私は都市の方を向きます。
あそこには弱ったお兄様が・・・・・・
本当は今すぐにでもお兄様のところに向かいたいのですが、私にはあの敵からこの世界を護る使命があります。
それを疎かにしてしまっては、それこそお兄様に危害が及ぶかもしれません。
私は、都市へ向かいたくなる気持ちをぐっと抑え、杖を握りしめます。
「あ~、月夜ちゃん、またあのクソざこお兄ちゃんの事考えてたでしょ?
大丈夫、ノエル姉に任せとけば何とかしてくれるってぇ」
私が物思いに耽っていると、キャロちゃんが私の頬をつんつんしてきました。
そうですね、本当はノエルさんを一番警戒しているのですが、いくらノエルさんでも弱っているお兄様に何かしたりはしないでしょう。
それに今回お兄様は朝から荒野に向かわれました。
きっと荒野で無茶をしたお兄様をノエルさんが回収してくれたんでしょう。
ですから今は感謝だけはしておくことにします。
ですが、それはそれとして、
「もー、キャロちゃん、何度も言いますがお兄様はクソでもざこでもありません!!
お兄様は素晴らしい人なんですから!!」
そう、それだけは否定しておかなくてはいけません。
それはキャロちゃんでも例外ではないんですよ!
「怒んないでよぉ、月夜ちゃん。
大丈夫、キャロもちゃんと知ってるよ。
月夜ちゃんのお兄ちゃんがただのクソざぁこお兄ちゃんじゃないってこともぉ。
とっても素敵だってこともぉ。
でもさぁ~、あのクソざぁこって言われてる時のお兄ちゃん顔ぉ、情けなくってとぉ~~っても可愛いんだよねぇ。
キャロ、ゾクゾクしちゃうのぉ」
その時のお兄様の顔を思い出したのか、キャロちゃんは自分の体を抱きしめると、頬を赤らめプルプルと震えだしました。
は~、こうなった時のキャロちゃんはもう何を言っても聞かないんですから、まったく。
今回はキャロちゃんがお兄様の素敵さを認識しているだけで良しとしますか。
そうして私達が談笑していると、そんな私達を見かねたのかのように、夜空に私達以外の声が響きました。
「君たち、ゆっくりとおしゃべりしているのはいいけれど、また新しい敵が来たラよ」
それは私の右肩に乗ったコアラのぬいぐるみ、コア太郎から発せられた声でした。
いえ、正確にはコアラのぬいぐるみではなく、コアラのぬいぐるみの形をした妖精さんなのですが・・・・・・。
私はその邪悪な笑みを浮かべるコアラの妖精に視線を落とします。
本当にこのコアラは悪い顔をしていますね。
それを見ると魔法少女になった日のことを思い出してしまいます。
1年前のあの日、
「キミ、僕と契約して魔法が使える少女にならないかい?
ほら、ここの書類にサインをするだけだからさ、ね、ね?
大丈夫、怖くない怖くない。
僕は決して怪しいものじゃないからね、はぁはぁ」
そう言って迫って来たコアラ。
あれは恐怖でした、今でも夢に見ます。
それはどこからどう見ても邪悪なコアラでした。
眼は血走り、毛も荒れ放題で、口の端をニヤリと吊り上げているそんな姿。
少なくとも世界を守ろうとしている妖精には絶対に見えませんでした。
「でもまぁ、そんなコアラと契約してしまった私も私ですが・・・・・・」
ため息とともに言葉が漏れます。
何にせよ、私とキャロちゃんは魔法少女として異次元から世界を侵略しに来る敵、〈ウルカヌス〉と戦うことになったのです。
〈ウルカヌス〉は全身が金属の板だったり剣だったりで構成されている異形の怪物です。
その形は人型のそれですが、その硬質な体は並大抵の攻撃を受け付けず、その強固な手足はやすやすと身体を切り裂いてしまいます。
私も魔法少女の力があってやっと対抗できる異世界からの侵略者。
それが〈ウルカヌス〉。
恐らく神気レベルが高い方なら対抗は出来ると思いますが、一般市民にはとても危険な存在なのです。
そして今日、そんな〈ウルカヌス〉が現れたとコア太郎から報告を受けた私達は、急いで現場に向かいました。
ですが到着してみると、そこには予想もしていなかったほど大量の〈ウルカヌス〉。
それは今までに見たことが無いほどの規模でした。
幸い今回は上位種は居なかったので何とかなりましたが、もし上位種や最上位種も一緒に現れていたらと思うと、正直ぞっとします。
ですが現在、敵の波もだいぶ収まってきました。
後は、ちょろちょろと現れる〈ウルカヌス〉を倒せば今日のミッションは終わるでしょう。
「ほら、さっさと〈ウルカヌス〉を殲滅するラ」
コア太郎が私の肩口で気勢を上げています。
私の横では、キャロちゃんが興奮した様子で自らの杖に魔力を収束させています。
「あはぁ、またざこクリーチャーさんがきたんだねぇ
まったく何回来ても返り討ちなのにぃ。
それじゃあ、キャロ達が蹂躙してあげるねぇ」
その姿は、同じ学年なのに少しエッチな雰囲気を醸し出している気がします。
いけません、集中、集中。
私もイクリプスの柄をギュッと握りしめ、魔力を込めます。
輝く宝玉。収束する魔力。
「そうですね、早く終わらせてお兄様の元に帰りましょう」
イクリプスの先端に収束した魔力弾がキューンキューンと甲高い音を発します。
そう、これが終わればお兄様の元に帰れるんですから。
そして、魔力弾が臨界を迎え――――
「マテリアルブレイカーーーーーーーーーー!!!!」
今日一番の閃光が夜空を貫くのでした。




