第41話・建て直すの日々・劫火の魔女③
第41話・建て直すの日々・劫火の魔女③
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「やほー!元気に出せたな、シャドウちゃん!マイスターたちは心配してたよ!」
「うん、わたくしも心配してました。元気に戻ったなら幸いです。一緒にシャドウちゃんのお友達を救いましょう」
「そのその、うちも頑張ります!!努力して火に対策できるキャラクターを考えて、新たな変身モードを開発する、です!」
小隊のみんなは本当にいい子たちだ。
楽奈が元気を取り戻したことを、心から喜んでくれている。
雪菜はオレたちを迎えるように優しく微笑んだ。
「お帰り、シャドウちゃん。お兄さんもよくできました。わたしはお兄さんが必ずシャドウちゃんを呼び戻してくれると、信じてました」
「オレをそう信じてくれてありがとう。でも、これはオレの力だけじゃない。シャドウちゃんの決意こそが彼女を元に戻した原因だ」
そうして、話題の中心だった楽奈――魔法少女・シャドウは、待っていたみんなに向かって小さく頭を下げた。
「……みんなさんに心配かけて、本当にすみません」
「気にしないでください、シャドウくん!」
「いいの、いいの~こんなことは意外だよ、意外ですの~感情が暴走しただけだから仕方ないの。そのラインを超えていないなら全然平気だの」
みんなの言葉に、楽奈の硬かった表情が少しだけ和らいだ。
もう大丈夫みたいだ。
「これで全員揃いました。それじゃあ魔女の対策について話し合いする……始める前に、ドクター教官に一つ聞きたいことがある、いいの?」
「おう?暁くんは僕の叡智に興味あるのかい?それでは、何なりとお気軽にご質問ください!」
ドクターはあっさり頷き、自信満々に腰に手を当ててドヤ顔でオレを見上げる。
本人も同意したから、オレはずっと気になっていたことを切り出した。
「ドクター教官って、一体どんな魔法が使えるのかな?そして杖はどんな形なのか、教えてくれませんか?」
そうだ、ドクターは残桜の戦い方に似ている。
同じく魔法で事前準備した道具を使って戦う。
オレと葵の戦闘訓練の時も多様な魔道具を使っていたけど、オレたちの前で直接魔法を使うところは一度も見たことがないし、杖の形もわからない。
「やあ、僕の叡智じゃなくて、僕のことを知りたいのか?えっち~……まあ、冗談はここまで。暁くんの期待外れだろうけど、特に強い魔法じゃないよ?重い期待はしないでほしいぞ。僕の魔法は生産系の《改造の魔法》だ!簡単に言うと、魔力糸で『もの』をハッキングして、魔力を消費して糸を回路として焼き入れて、思うままに改造できる。それだけの魔法だぞ!別に隠してるわけじゃないよ、戦闘に似合わないから使えないだけ。そして、杖は~見てごらん、この左手の手袋!」
ドクターは白衣の長い袖に隠れた手を伸ばした。
そこには金の糸で飾られた白い手袋があった。
オレたちがそれを見守る中、ドクターは手を軽く振る。
すると、先ほどバリアを展開していた鉄球がその手に突然現れ、すぐに消えた。
まるで手品のようだ。
「ふふふ、びっくりした~?この杖の手袋はすごいぞ~さすがに僕の心から生まれた道具だ!これはただの手袋じゃない、アイテムボックスの機能が付いてるぞ!こうして僕はいつだって手作りの魔道具を出せる!」
ドクターの説明が終わると、オレたちは思わず拍手した。
しかし残桜はその説明に不満げな顔をしている。
「噓つきの。その魔法は戦闘でも活躍するのに。ドクター先輩の魔法は『魔法糸でものをハッキングできる』、だから自分のような道具を使うみたいに、放出系の魔法も簒奪できるのにー」
「やー、あれはかなり疲れるぞ?奪う時は相手の意志と対抗するから、感情が爆発した魔女相手なら対抗できないだろう?だから無視すればいいんだ!」
「それもそうだ、さすがにエゴイストのドクター先輩も出来ないの。」
「その言葉は鋭いな!」
残桜とドクターの掛け合いで、彼女の魔法の情報が補完された。
「それで分かったかなの?暁、お前がこれを聞きたかった原因は、この援軍に期待できない状況で味方の戦力を確認したかったからだろうの?お前が知ってるのは小隊の子たちと共に共闘した葵ちゃんだからの。」
残桜の言う通り、だからオレはこの時点であの問題を提出した。
「ついでに自分の魔法も教えるしようの。自分の魔法は《符の魔法》のことはもう分かってるの?この魔法で創られた符は事前に設定した条件で効果を発動する。『式神』の他に、二種類が存在するの。それは強化の『祝福』と弱体化の『呪い』だの。誤解されるかもしれない、自分がよく使う『斬撃符』は斬撃を放てるんじゃない、あれの原理は『対象の体を引き裂くの呪い』だの。」
残桜は杖である紙の折扇を呼び出して広げた。
その絵柄は金色に輝く日と蒼く輝く月の紋様。
「そして、杖としての扇はある程度の風を操って符を思うままに飛ばせるの。更に日月紋様に応じて、祝福と呪いそれぞれの効果を高められる『日ノ輝』と『月ノ輝』二種類のモードが存在するの。あれは魔法と連携して使いやすい扇だの。他に問題があるの?」
「はい、はっきりわかりました。説明ありがとうドクター教官、残桜さん。それじゃあ、魔女の対策を始めようか」
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一連の説明が終わると、オレの問題で止まっていた会議はようやく残桜の言葉で動き出した。
「うむ、なら対策を始めよう、今の状況を整理しようの。あの炎の柱は見た通りそちらに大人しく立っている。あれは自分たちが対処すべき存在だの。そして、新都方面は魔物が大量発生したから、援軍は期待できないけど、あちらはリーダー……正義の魔法少女に任せたから心配はいらない。ここに専念するの。」
「ああ~リーダーは死ぬほど強いですからね!でも、あのバグみたいなチート魔法は主観的に相手を『悪』に認定しないと発動できないから……相手はきっと酷い事情で暴走した、元々は魔法少女である魔女のことを知りたい以上、きっとリーダーの魔法の対象外ですね!こっちより、あちらに任せた方が最適だな!」
「そうですけど、あの人はほとんどの人生を人助けで過ごしているから、いまはゆっくり休んで仕事しないで欲しいの……みんなは魔女のことがよく知らないけど、あの魔女の動きが異常だの。」
「え?『異常』って一体何のことでしょうか?」
雪菜がオレたちに代わって残桜に詳しく尋ねた。
「だって、自分たちこのようにゆっくり議論自体がおかしいの。魔女は感情の激しい波動で魔力に侵食され暴走した存在だから、ほとんどはヒステリー状態で暴れ回るか……或いは恨んだ相手を執念深く集中攻撃するの。でも、あの魔女はそのまま柱の中に不気味なほど大人しく待機している ー追撃もない、動きもないー まるで何か大技の準備、或いは何かを狙って合理的に考えている。今の状況は、あの炎の柱からあの魔女を引き抜かないと、周囲の熱風だけで対等な戦闘ができないの。何か良いアイデアがあるなら提出してくださいの。」
「はいはい!マイスターに良い案が考えました!」
彩音が元気よく手を挙げ、自分の存在をアピールする。残桜は発言を許可した。
「うむ、よろしい、マイスターちゃんは良い案があるかなの?」
「ゆー、白雪ちゃんの『来い』ならどう?マイスターたちがこの島に逃げるように、しゅーぱあーと魔女を引っ張ってここでボコボコするのはどう?」
そうだ、《距離の魔法》なら炎の渦を無視して引き寄せられるかも――「ダメです」――え?
雪菜が即座に首を横に振った。
「わたしに期待してくれてありがとう、けどそれはできないです。あの炎の柱は魔女の魔法だから、本体の波長と混ざって目標が捕捉できない。だから今の状況なら、魔女は『来い』の対象外です。」
「……あの周囲の火は熱誘導、チャフみたい。あと、明かりが強すぎて影が残されないから、ぼくの『影転移』も使えない。」
「へー、そうなんだ~てっきりいい案だと思ったのに、ダメなら仕方ないね。マイスターも顔料が可燃だから……残されたのは局長さんとドクターさん、そしてフランちゃんとルカちゃんだっけ?」
急に視線が集中した奏と葵がシンクロして小さく震える。
「その、うちはまだ適合のキャラクターを考え中だから……対策はまだです。」
奏はぎこちなく手を上げることしかできなかった。
「あの、その、はい……わたくしには考えがある、です。」
「ふん、それはよろしい、言ってくださいの。」
「その、わたくしはそう思うた、そのままで安全距離で監視するのはどうでしょうか?その魔女は移動しないし、新都方面の仲間たちが混乱を解決した後、みんなで遠距離飽和攻撃で撃つは」
後回しも戦術の選択肢の一つ……オレはそのことを考えていると――
「……くっー!」
強烈な頭痛と共に視界が回り、世界が螺旋のように歪んだ。
立つこともできず、オレはそのまま前に倒れ込んだ。
「お兄さん!?」
「そうだな、それも選択の一種……暁!?」
最初に異変に気づいたのは雪菜と残桜、そして小隊のみんなとドクターが慌てて駆け寄ってきた。
誰かがオレを支えてくれた気がするけど、いまはそれを気にする暇はない。
激痛が頭を駆け巡ると同時に……まだ宙にひらひらと舞う、存在しないページと共に、わけのわからない幻視がオレの目を捉えて離さなくなった――




