星の鉄槌
リオン率いる義勇軍と、エイベル率いる公爵家の私軍は正面から激しくぶつかり合った。
「アイナイズド☆テール!」
私が唱えた全体バフで、こちらの軍勢は輝き、彼らのパラメータを底上げした。
これで、練度の差が多少なりとも埋まれば、と思っていたが……
「ぐわーー!!」
ローレンツ家の私兵は文字通り、随所で蹴散らされ、戦線は目に見えて押されていた。
敵勢の士気の低さは開戦前から指摘されていたが、ここまで低かったとは……。
「いや、そういう問題ではないでしょう……」
「うむ……俺も違うと思う……いくら何でも、数と練度で負けている素人がプロを圧倒するのはありえない。つくづく規格外な力だ……」
何故かクリス王女とダンに全否定された。
「ぎゃははは!いやー、面白いねぇ!老害勢力ざまぁ!ちょーウケるわぁ!」
そして、何がツボったのか、アリスお姉さんはゲラゲラ笑っている。
「はっはっは…………はー、やっと来たか、害虫共のお出ましだよ!気を付けな!」
アリスお姉さんが周囲に呼びかけると、その場にいた全員臨戦態勢を取り、彼女とVB少年は残像を残して飛び去った。
それから間も無く、周囲の草むらから打撃音と呻き声が聞こえ、人の倒れる音が立て続けに聞こえる。
「あの二人、相当腕が立つようだな……」
「何者なのでしょうかね?トップランク冒険者以上の力量はあるようですが」
「……」
ダンの警戒気味の呟きに首を傾げるクリスと意味深な表情で沈黙するナンシー。
彼女は何かを察したのだろうか……?
「ちっ!――そっちに行ったよ!!」
VB少年の追撃を回避し、黒装束の集団が、音もなく駆け寄ってきた。
「グレート☆ウォール!」
私の防御スキルで刺客の大半が見えない壁に弾き飛ばされるが、私より高レベルの熟練者らしい三人が、巧みに掻い潜り接近する。
「させません!!」
クリス王女が鉄扇をブーメランのように投げつけ、刺客の一人が後ろに仰け反り、その隙にダンがカタナで峰打ちして意識を刈り取った。
それを見た刺客の一人は、こちらに向かって投げナイフを放つ。
「お守りしますわー!パリィ――!!」
ナンシーはスキルを展開し、光り輝く楯によって反射した飛び道具は放った者に刺さった。
「ぐわー!!」
……そうそう、このナンシーの鉄壁防御スキルに何度辛酸を舐めさせられたか……と、一瞬前世のプレイに想いを馳せかけたが、刺客の接近で我に帰る。
「スター☆バースト!!」
私は基本のビーム攻撃を放ちつつ、相手の回避動作に合わせてビームを横に薙ぎ払うように操作する。
流石に敵も、この挙動は予測できず、ビームの直撃を食らって吹き飛ばされた。
しかし、相手は熟練の暗殺者らしく、即座に起き上がって反撃姿勢と取るが……
「死にさらせや――!!オラァ――――!!」
視界の死角からのVB少年の飛び蹴りを食らって、一瞬で再起不能になった。
「第一陣は片付いたが、このままだとキリが無いぞ。しかも、現在前線は膠着状態となっている。早めにケリを付けられないか?」
刺客を全て処理して戻ってきたアリスお姉さんの意見を聞いて、クリス王女達も頷いている。
私はナンシーに拡声魔道具を借りて、敵陣に呼びかけた。
「今から飛びっきりの奴、お見舞いするよー!降参するなら早めにしてー!!」
この言葉を聞いて、敵味方とも硬直する。
「待て待て待て待て!!!」
城壁に血相を変えたエイベルが現れた。
「こっちには人質、バーナード皇子がいるんだぞ!!何を考えているんだ!!!」
私は首を横に振った。
「バーニィはこの程度の攻撃じゃ死なないよ」
そもそも、この場に彼の身柄を出していない事からも、あっちは彼を制御できていないのだろう。
彼の性格を考えても、大人しくジッとしているとは思えない……多分、今頃、内部で好き放題に暴れているに違いない。
早く止めに行かなきゃ!
「し……信じられない……滅茶苦茶だ……!」
私の発言にエイベルは絶望の表情を浮かべた。
「じゃあ、いっくよー!」
「えっ、ちょ、まっ……」
私がスペシャル技の一つ――『スター☆バースト』の数倍の威力があるが、一日に使用できる回数に制限がある――超必殺技を放った。
「ガンマ・レイ☆バースト!」
振り下ろされたマジカル・ワンドから放たれた超極太ビームは城壁正門に直撃し、砦全体を激しく揺さぶった。
ビームの衝撃は正門を貫通して木っ端微塵となり前面の城壁は、ほぼ半壊している。
……流石に出力を抑えめにしてみたけど、それでも予想以上の威力だ。
しかし、ここで手を緩めるわけにはいかない。
「第二撃いっくよー!!」
「お待ちくだされーーーい!!降参いたーーーす!!」
崩れかけた城壁の上にはエイベルではなく、副官と思われる人物が立っており、その横では部下達が必死に大きな白旗を振っている。
「我々は元より、この不毛極まりない諍いを引き起こしたローレンツ一族を支持しておりません!!全ての権限を正統な王太子たるリオン殿下に委ね、無条件で投降いたす!!」
この宣言を聞いた、戦場にいるローレンツ家の私兵たちは、一斉に武器を地面に投げ捨て、その場に平伏した。
□
私達が平静を装いつつも、おっかなびっくり砦に正面から入って、真っ先に目に入ったのは……
「おーほしさーまー、きーらきらっ!きーらきらっ!!!」
……完全に錯乱状態で踊っている元司令官エイベル・アトラクタだった。
「彼は学園を首席で卒業したエリートだった筈ですが……」
ナンシーは呆れ気味で彼を見ている。
「学業は極めても、主君を諌める覚悟も、暗君を見限る自立心もない、ただの流されやすい凡夫……非常事態の対処ができる器ではなかったのでしょうね」
「はっ、哀れなものだな!しかし、引き際を誤った敵に掛ける慈悲はない」
「そこは同意です。まぁ、結果として犠牲が少なく済んだのは良かったです」
クリスとリオンが王族らしい物騒な世間話をしている一方で、アリスお姉さんは、砦の内部から来た伝令と小声で会話している。
会話の後、アリスお姉さんは、こちらに歩み寄り、リオン王子に一礼した。
「我々はさる御方の命により、ローレンツ一族の討伐を目的として派遣されました。既に仲間が内部の制圧を完了しております……そして、リーダーが殿下との面談を望んでおります」
「ふむ……協力はありがたい。バーナード皇子の安否は?」
「至極無事とのことです。現在、リーダーと共におります」
「分かった。今向かおう、案内を頼む」
私達は、アリスお姉さんの先導で、砦内部に進むリオンに付いていった。
一戦が終わり安堵している一行の中、さっきからナンシーは青い顔で冷や汗を流している……一体どうしたのだろうか?
□
やがて、私達は、砦内部の一室に案内された。
「アリス――!!」
バーナードは私達が部屋に入ってきたのを見て、真っ直ぐ私に駆け寄ってきた。
彼は私を強く抱きしめる。
「バーニィ……」
元気そうな彼の姿を見て、お久しぶりな温もりにホッとする一方で……
「バーニィ、後でキッチリ事情を説明してよね」
彼だけに聞こえるように小声で囁くと、彼は少しビクッとなった。
「もしかして……怒ってる?」
「割と、本気で、怒ってるから!」
「……事前に言ったら絶対反対したでしょ?」
「当たり前だよ!!」
帰ったら、正座でお説教三時間コースだよ!
「心配してくれてたんだね、ふふふ……やっぱりアリスはいいなぁ」
彼は、いい笑顔で私をハグしたまま、その場でクルクル回った。
……こ、こんなんじゃ誤魔化されないんだからね!
リオン王子は複雑な表情だが、他の同行の仲間達は暖かい目でこちらを見ている。




