援軍の癖が強すぎる
私達が再会を喜んでいる傍で、リオン王子はリーダーらしき大男に話しかけられる。
「貴方がリオン王太子であるか?」
「そうだが……貴殿は……?」
リオンは顔に大きな傷がいくつもある強面の男を前に若干緊張気味だ。
「我々はホライズンズ聖教国より聖教皇の命により派遣された特務機関『七冥』だ。俺は筆頭の“ラルフ”。今回は猊下より全権委任された代行としてローレンツ一族に引導を渡すために介入させてもらった。諸々事後承諾で申し訳ない」
彼の発言に、室内は沈黙と共に緊張が走る。
――七冥?
聞いたことがない単語が出てきたが、不吉な名前だ。
何だか、物凄く嫌な予感がする……。
「異端審問官の元締めだよ……」
バーナードは硬い表情で私の耳元で小声で囁く。
えっ?マジで?
アリスお姉さんとVB少年は黒尽くめの集団に合流し、ラルフの隣に立った。
こちらは全員唖然としているが、ナンシーだけは予測済みだったのか「ああ、やっぱり……」とつぶやいている。
……。
マジかー……。
全然分かんなかった……。
いや、分かんないよ。これは。
「外交ルートを通せなかった事情は汲んでいただけると幸いだが……」
「……それは理解している。陛下にも穏便に済ませるよう進言しておこう」
「助かる」
国内最大派閥の淘汰となると、通常の手続きでは事前に揉み消されるのは目に見えている。
王族ですら、我儘王太子の暴走という体で電撃戦を仕掛けるしか手段がなかったのだ。
むしろ、無駄に巨大化した古狸にトドメを刺させる勢力の参戦はリオン王子にとっても願ってもない追い風だろう。
「聖教会の助力に感謝する……」
「次世代を担う若人の力になれたならなによりだ。猊下もお喜びであろう」
思わぬ王族以上の権力の乱入に、必死に平常心で対応するリオンに、姉クリスティーンは上機嫌で見守っている。
このまま円満にやり過ごしたい……と、誰もが思っていたが……。
「それにしても、アリス・イシュタール嬢の超常なる御力は素晴らしいものですな!」
黒尽くめ集団の一人、騎士風の青年は徐に口を開く。
「せっかくの全権委任なのですから、手ぶらで帰るのもどうかと思います」
和みかけた室内に一瞬で緊張が走った。
「それはどう言う意味かな?『七冥』の聖騎士レックス君」
バーナードの私を抱きしめる腕の力が強まる。
聖騎士は自分を名指しされた事に一瞬驚くが、すぐに復帰する。
「言葉通りですよ。あれほどの力、是非とも人類の平和の為に役立てるべきです。大陸中に蔓延るアンチメシア勢力の平定に活用しない手はないでしょう」
「へぇー……聖教会はいつから戦争屋の真似事をするようになったのかなぁ?それが、聖教皇の考えと受け止めてもいいのかな?」
バーナードの挑発的な発言に、レックスの端正な顔が微かに歪む。
彼は私に目を向けて言う。
「この混迷を極める時代。正しい思想で世界を導く為にも、強い力が必要、そうは思わないのですか?アリス・イシュタール嬢?」
……興味ないです。
現状でもキャパオーバー気味なのに、これ以上の面倒事に巻き込まないでほしい。
「全く思わないね、世界がどうなろうと。それは“我々”の責任ではない」
「貴方には聞いておりません、バーナード皇子」
「僕以上にアリスを理解している者はいないし、そんな事は聞くまでもない」
レックスとバーナードは本気で睨み合い、一触即発状態だ。
プルマまで私の肩の上で軽快なステップでシャドーボクシングをしている。
「いい加減にしろ、レックス」
地の底から響くような、リーダー・ラルフの声が場を制した。
「猊下の望みは、この国の次世代を担う若者の後援だ。それを己に都合良く曲解するな」
レックスは反論しようと、口を開きかけるが、リーダー以外の他のメンバーも、彼を睨みつけていた。
アリスお姉さん、VB、それと、仮面を被ったシスター風の女性が、それぞれ威圧を放っている。
レックスは肩をすくめて、首を振った。
「確認しておくが……聖教会は“我々”と敵対する意思はないんだな?」
「ああ、それは前もって猊下より念押しされている。猊下は現在の国際関係の維持を願い、特に長きに渡る各組織との協調関係を反故にするつもりはない」
「了解した。さっきの発言は聞かなかったことにするよ」
「助かる。それと、詫びと言ってはなんだが、この二人をこのまま後処理にでも使って欲しい」
リーダーはアリスお姉さんとVBの二人に視線を向け、彼女らも深く頷いている。
「乗りかかった舟だ。最後まで付き合うよ」
「それは助かる。正直残党狩りに関して、こちらは手が足りていない」
リオンがホッとする一方、バーナードは顎に手を当てて考えている。
「いいのかい?」
「ああ、私軍が壊滅したローレンツ家は、ただの張子の驢馬だ。ここからは大した仕事じゃない」
「そういえば……勾留中やたら、聖剣の事を聞かれてね……どうも、奴らにおかしな情報を吹き込んだ者がいるらしい。心当たりはあるか?」
「それは気になるな……まぁ、回収した機密資料を精査すれば、すぐに判明することだ。さて……我々は今からローレンツ家に引導を渡しにいく。今後、奴らの社会的影響力は皆無となるから、安心して欲しい。では、失礼する」
七冥一行は、手足を拘束の上に口を塞がれている嫡男ケインを引きずって、去っていった。
□
「アリス・イシュタール伯爵令嬢」
彼らが去っていき、深い安堵に包まれた後、リオン王子が目の前に立っていた。
「多大なる協力に感謝する。貴方の助力がなければ、この戦いを短期では終わらせられなかった。皆を代表して礼を言う。本当にありがとう」
彼はそう言うと、深い一礼をした。
私が慌てて両手を振ると、彼は柔らかく微笑み……その後、顔を引き締め、バーナードの方に向き合った。
「バーナード皇子、ご無事で何よりです」
バーナードは無言で頷いた。
「勾留中、何か不埒な狼藉はなかったでしょうか?」
「多少の脅しはあったが、実際に害を加えるような事はなかったよ。無法者とはいえ最低限の国際条約は理解していたようだ」
「それは良かった……あのような輩風情に長年政治的主導権を委ねていた事を、この国の王族として深く陳謝する」
私は二人の対話がどこに着地するのか分からず、ドキドキしていた。
「バーナード皇子!」
リオンの拳が強く握られ、決意を秘めた目がバーナードを見据える。
「一人の男として、頼みがある!」
彼は王子がこれから言う事を察したのか、その口元に自然な笑みが浮かぶ。
「話だけ聞こう」
バーナードの冷ややかな双眸は、燃えるようなリオンの瞳を射抜いた。
リオンは深く息を吸い込み、堂々と宣言した。
「貴殿に決闘を申し込む!!」
部屋にいた全員――当事者の二人以外――は、この言葉に驚き、大きく目を見開いた。
□七冥列伝
ラルフ:筆頭。顔が怖いが、いいひと。マスターモンク。
アリス;副リーダー。比較的常識人。財テクが趣味で老後が心配。白魔術師。
スワップ:殺人マシーン。バトルシスター。
レックス:見た目はまともそうだが、熱狂的な狂信者。聖騎士。
ローリー:禁書が読みたくて異端審問官になった。信仰心はないが、聖教皇とはタメ口で世間話するくらい仲がいい。ダウナー系黒魔術師。
ペプシ:明るいサイコパス。サディストで拷問が得意。神官。
VB:末席。まだまだ子供。農家の出身だが産まれながらに多数の戦闘スキルを所持。モンク。
アットホームな職場で、メンバー間の仲は良いです……。
名前の元ネタは惑星探査機ニューホライズンズの内蔵装置から。




