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☆転生したら私がゲームの隠しキャラで不思議ちゃんなの?〜★スタータイド!★  作者: 黒井影絵
第4章 激動編

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密談

 ――ヒドラ討伐直後。


 瀕死のヒドラの全体バインド攻撃を食らってメンバーの大半が気絶するという、なかなかの絶体絶命のピンチな状況から、暴走したアリスの謎能力によって、何とか一人の犠牲もなくボスを撃破した。


 しかし……。


「彼女は急にバーンを“バーナード様”と呼んでましたが……一体どういうことでしょうか?」


 ……。


 抱いて当然の疑問を口にするマイクルを前に私たちはどうしたものか行動を迷っていると、クリスティーンが事情を説明しようと口を開く。


 だが、我に返ったバーナードがそれを素早く制し、周囲に強めの結界を張り巡らせた。


 完全な防音結界の中で、バーナードは自らの身分を明らかにして、マイクルに事情説明を試みる。


「なぜ他国の皇族が平民と身分を偽っているのですか?」

「我々はある組織の密命を持って学園に潜入している」

「組織……?」

「世界の治安維持を目的とした超法規的組織……今現在はそれ以上の事は言えない。そして、これを知られてしまった以上、君にも我々の活動に協力して貰わねばならない」

 バーナードの鋭い眼差しを前に、マイクルは悩ましい表情で俯き考えるが、顔を上げた時には目に決意が漲っていた。

「その組織の社会的善悪は気になりますが……貴方達が命の恩人であることには違いありません。自分に出来ることなら協力しましょう。ただ営利目的で非合法な行動を強いられるのならば到底賛同はできませんが……」

 バーナードは深く頷いた。

「我々は特定の国や人の利益の為に存在する物ではなく、世界平和の為だけに存在している組織であることは保証しよう。君には話すことも尋ねたい事も山ほどあるが、今はみんなを起こしてダンジョンから脱出しよう」

「分かりました。今はその言葉を信じましょう」


 私達はこの後の行動について簡潔に意識のすり合わせと、方針のまとめを済ませた。




 私たちは、結界を解き、倒れているメンバーの治療を施し、全員の意識の回復を待った。


 彼らは一様に目が醒めるなり立ち上がって武器を構え辺りを見渡しヒドラが既に横たわっているのを見て、そのままの姿勢で棒立ちしていた。


 マイクルは全員が目覚めるのを待ってから事情説明する。


 もちろん実際に起きた事をそのまま伝える事は出来ないが、前もっての打ち合わせ通りに当たり障りのないヒドラ戦の様子をみんなに伝える。

 激戦の末、ヒドラにトドメを刺したのがマイクルと聞いた皆の反応は喜んだり、悔しがったり、感極まって泣き出したりと様々だった。


「すごいゾ!マイクル!やるナ!」

「あー、くそっ!トドメは俺が刺したかったのになー!でも、おめでとさん!」

「……良かった……マイクル……無事で……良かった……ううっ」


 口々にお互いの健闘を称えあった後、全員でヒドラの屍の上で勝鬨を上げた。

 みんな嬉しそうにハイタッチし、はしゃいでいる。


 一頻り喜びに浸ったのを確認したマイクルは、慎重な様子で話の本題を切り出す。


「それで……この聖剣の扱いなんだが……」


 その場にいた全員が、両手に聖剣レインメイカーを持ったマイクルに注目する。


「正直な意見としては……ここにいる誰が所有しても、後々面倒な事になるのは確実だ」


 この言葉を聞いた誰もが渋い顔をした。

 自分たちが飛び切りの厄介ごとに巻き込まれた事を漸く悟ったようだ。


「じゃあ、ここに捨てちまうのか?せっかく希少なお宝を手に入れたのに?勿体無い!」

 ヒューバートは大きく手を振って慌てた様子で叫ぶ。


「それも一つの手段ではあるが……その場合、世界級の遺物が怪しい輩の手に渡る可能性が出てくる……君はどうしたいんだ、マイクル?」

 リオンが顎に手を当てて冷静に言う。

「そうね……実際にヒドラにトドメを刺して討伐したのだから、聖剣に関しては貴方に権利があると思う。私は貴方の判断に任せるわ」

 ケイトリンがそういうと、他の面々もこれに追従した。


 全員が同意する様を確認した彼は、先ほど打ち合わせた通りの事を自分の意見として述べる。


「俺の判断に任せてくれるならば……この剣はクリスティーン王女に預けようと思う」


「何、姉上に?」

 リオンは露骨に不安な表情を顔に出した。


「正確には……彼女の伝手を頼って、“絶対安全な場所”で保管して貰おうと考えている。俺たちの手の届く範囲に留めていれば、最悪、とんでもないトラブルに巻き込まれるだろう」


 マイクルの発言によって、それぞれが頭の中で想像を巡らせている。


 敢えてボカした言い方になっているが、客観視点でクリスティーン王女が長期休暇中にイシュタール領を訪れているのは、事情通ならば知っている情報だ。


 そうした事情を知っている彼らならば、その縁で、聖剣レインメイカーはアリス・イシュタールの婚約者である第五皇子バーナードの手によって帝国の宝物庫に保管されると予想するだろう。


 もっとも、実際はリーブラ機関によって厳重管理される事になる予定なのだが……。


「ならば……いっそ、ヒドラ討伐は失敗したという事にした方がいいだろうな」

 リオンの言葉に、マイクルは深く頷く。

「俺も、その方が賢明かと思います」


「ええーー?!マジかよ??」

 二人の会話にヒューバートは信じられないといった風に声を上げる。

「こんぐらい別にいいだろ!どうせ、腕試しだったんだ。身の安全には変えられんさ。それに抜け目無いお前さんの事だ、ここまでの道中で散々稼いだんだろう?」

 そんな彼の頭を押さえ込むように、ジョージは後ろから大きな手を置いて、わしゃわしゃと掻きむしった。

「うわっ!金の問題じゃねーよ!」

 全力で、手を押しのけたヒューバートは不満そう愚痴を溢す。

「金が欲しければ稼げばいいけど、名声はチャンスが無ければ、手に入らないんだよ……」

 小柄なヒューバートは武勇の誉れへの未練たっぷりに呟く。

「成る程な。でも、これは俺たちだけの問題じゃない。メンバーには、か弱いレディ達だっているんだ。君にだって大事な守りたい大切な人がいるんだろう?」

 ハリーはそう言い、ドルキャスの方をチラッと見る。

 その思わせぶりな目配せにヒューバートは顔を赤くする。

「うっ……分かったよ!もう!」




 その後、ボス部屋の後始末を兼ねた探索した後、撤収しようとしたのだが……


「……おかしいですね」

 クリスティーンが怪訝な顔で部屋を見渡している。

「どうしたの?何か異常でもあった?」

 私が尋ねると、彼女は首をひねっている。

「ヒドラは討伐後、聖剣の他に『ヒドラの心臓』というアイテムがドロップする筈なのですが……見当たりません。これも仕様の違いでしょうか?」

 この言葉にバーナードは眉を顰めるが、首を振って応えた。

「ここまででも、仕様の違いは多々あったし、ボスといえどもアイテムのドロップが確定という保証もない。今現在、王族とその関係者が参加している以上、そろそろ帰還しないと地上で騒ぎになる。今日の所は撤収しよう」

「しかし……そうですね。仕方ありません」

 クリスは納得していない表情で渋々了承した。



 地上に戻った私たちは、何食わぬ顔で日常生活に復帰した。


 後日、ボスのヒドラは再出現したらしく、周囲の人間は誰も私たちがヒドラ討伐を達成した事には気がついていない。


 あの後、幾多のパーティがヒドラ討伐に乗り出したが、公の情報では私たちの他に成功した者は出てこなかった。


 やがて、イベント期間が終了したのかヒドラの噂は自然に消えて、学園には平穏が戻った……。



 あの日共闘した私たちとマイクルだったけど、表向き互いの距離感は大きく変化はない。

 しかし、マイクルは、話し合いの場をモニタールームに改め、バーナードたちとの質疑応答によって、自らの意思でリーブラ機関に協力する事を確約した。


「実は……リオン王太子にも、ある組織に参加するように勧められたのですが……」

「“自由の翼”か?」

「ご存知でしたか……」

 このやりとりにクリスティーンは溜息を吐く。

「まったく、愚弟にも困ったものですね……優等生をよりにもよって過激派に誘うなんて!本当に身内が迷惑をおかけしたようで……」

 クリスティーンはマイクルに頭を下げる。

「あ、いえ……無理強いはされていないので迷惑では無いのですが……王太子の申し出でもあり、正直迷ってはいました」

「怪しい噂の絶えない組織に無理して関わる必要はありません。無視してくださって結構です」

「その事なんですが……そこまで怪しい組織ならば、逆に入った方が良い気もしてきました」

「えぇっ?!」

 私たちは一斉にマイクルに注目する。

「周囲の友人知人で、非合法の結社を複数掛け持ちしているのは珍しくないです。だから、腰掛け程度でも在籍していれば、将来事件が起きた時に“使える”のではないでしょうか?」

 私は、模範的な優等生で評判のマイクルの大胆不敵な物言いに驚いた。

 他の同席者もそれは同様だったが、当の本人は至って平然としている。

 確かに、彼はゲーム内では正統派ヒーローのキャラクターではあったが、自らこのような無謀な提案をしてきたのは意外であった。



 その他にも様々な取り決めや情報交換をした後、クリスティーンはマイクルに向き合った。

「これはわたくしの個人的なお願いなのですが……」

「なんでしょうか……?」

「どうか……愚弟を、リオンを、わたくしの代わりに見守ってほしいのです。今のままだと、いつ道を踏み外すか、心配で……」

 クリスティーンは珍しく真摯にマイクルを頭を下げている。

 こうして観察するに、彼女も人並みの、問題児の弟を持った心配性の姉のように見える。

 横でダンが「自分自身の安全も心配してくれ……」と小声で呟いているが、彼女は無視していた。

「いえ、どうか、頭を上げてください、クリス様」

 一瞬マイクルは慌てるが、意志の篭った瞳で「微力ながらお力になりましょう」と約束した。

「でも、心配ないと思いますが……俺から見たら十分立派な、責任感のある王族にしか見えませんよ」

 と、頭を掻いている。

「そうだといいんですが……」

 クリスは溜息を吐いた。


「それより、皆様もお気をつけください。特にサラ・エンジェル伯爵令嬢は、何か裏がありそうで引っかかります。俺もみんなも気がつくと、彼女のペースに巻き込まれて、トラブルに誘導されることが何度かありました。見た目に騙されると痛い目に合いますよ」

 この発言にバーナードの眼が光る。

「何か企んでいると?」

「嘘を付いてるとまでは言いませんが、本音を隠している感触はあります。雑談で学園に入る前の事が話題になると、曖昧な応答をしながら、さりげなく聞き手に回り、徐々に話の流れを変えてます。過去を聞かれると都合が悪いのは確かでしょう」

「なるほど。それは気になる話だ。こちらでも調査してみよう」

 マイクルは攻略対象キャラの中でもバランスのとれた高いパラメータの持ち主で、その優れた知性はテストの成績以外にも生かされているようだ。


 話し合いは穏便に纏まり、頼もしい仲間がまた一人加わったにも関わらず、未だ不明の敵の気配は暗闇で蠢いている。


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