復興祭〜人気者の光と影
あのヒドラ討伐から数ヶ月が経過して、入学して初めての年度末が目前となった。
私達も、もうすぐ二年生……みんなは、その締めくくりに相応しいイベントの準備で忙しく動き回っている。
学園は夏の終わりの風物詩である『復興祭』の準備で賑わっている。
復興祭は古代の祝祭をモチーフにしたイベントで、日本の学校でいうと、文化祭と体育祭を合体させたような行事で、生徒総出で参加する一大イベントだ。
この行事は五日間の日程で、前半二日が文化系クラブの発表会、後半二日が体育系クラブの大会や対抗試合、そして、最終日が生徒全員参加のダンスパーティ、プロムナードとなっている。
攻略対象であるメインキャラクター達も、全員部活動に参加している為に、大忙しだ。
アリィとバーンが所属している購買部も当然、目が回る程の忙しさで、私達は次々に学園に送られてくる大量の物資を必死に捌いていた。
私達が一息付けたのは復興祭一週間前の夕暮れ時だった。
「何とか無事に一年が終わりそうだねー」
モニタールームにて、私は手に持ったアイスラテの甘さに疲れを癒されながらそう言った。
「そうだね」
バーナードは背もたれに身を委ね、相槌を打つ。
心なしか彼の浮かない様子が気になった私は首をかしげる。
「どうしたの?何か心配事でもあるの?」
「ん?まぁ……最近、“敵”の動きが静かすぎてね。少し気になるんだ」
囁くような彼の低い声に私はハッとした。
「言われてみると、そうだね……もう諦めちゃったのかな?」
私の能天気で楽観的な言葉に彼は苦笑する。
「まさか。何かを計画しているのは確かだけど……奴らも慎重になって、上層部も活動の足取りが思うように掴めてないんだ」
それは確かに不安材料だ。
「ま、まぁ、このイベントが過ぎたら、私達も少し落ち着くし、復興祭が過ぎたらみんなで考えようよ」
「だと、いいけど……」
彼は、そう呟いて虚空を見つめた。
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復興祭は何事もなく開催した。
この復興祭の間、私達購買部も書き入れ時として当然売店で働くのだろうなと、思っていたが……。
「いいの、いいの。今までだって忙しすぎたんだしー。貴方達だって一応学生なんだから!しっかり参加して思い出作りしてきなさーい」
ジュディさんは、オービット侯爵家から臨時の応援を呼んでくれたので、私達はフリーの身となる。
おかげで私とバーナードは、初日から多くの出し物を見学して、大いに学園の一大イベントを堪能することが出来たのだった。
前半の文化系クラブの発表会は無事終了し、大きな事件は何も起きなかった。
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年に一度の晴れ舞台という事で、文化系クラブの出し物はどれも興味深いものだった。
その中でも一番話題となったのは演劇部による、古典作品を魔法とアクション満載の一大活劇へと大胆にアレンジした劇であった。
ケイトリンが主演女優として古龍と絆を結ぶ女勇者の役を熱演し、観客を大いに魅了して、人々のその陶酔は翌日でも冷めやらぬ様子だ。
そして、今日からは運動部による、試合やトーナメントがメインとなる。
私とバーナードは、クリスとダンと共に、マイクルが出場する魔術競技エンチャンプスを応援するべく観客席に座っている。
現在は、ハーフタイムで、チアリーダー達による応援のダンスが行われている。
この学園において三年生は就活や卒業準備に加え、将来を見越した婚活を含むロビー活動で大変多忙だ。
なので、各クラブの部長は二年生が就任するのが慣例となっている。
今年のチア部のキャプテンはみんなの予想通りに大多数の支持を受けて、伯爵令嬢のサラが就任した。
フィールドの中央では連続で数回のバク転を軽々と成功させたサラが笑顔でポーズをキメている。
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原作のゲームにおいて、サラの人気は非常に高く、キャラ投票では常に上位三位内に入っていた。
それは、彼女が金髪に青い目の“人気者”の美女であるだけではなく、ましてや“チアリーダー”という人気属性だからというだけでなく、常に彼女に付きまとう暗い影……その陰影の深さにあった。
学園で交流する彼女はいつも明るく前向きで、眩しいほどの輝きを放つ学園の人気者だが、好感度が上昇するに連れて、次第に内に秘めた謎めいた影の部分が目につくようなる。
特に、好感度が最大レベルに到達した時の特殊イベントは、彼女を語る際には欠かせない要素だ。
夏のキャンプイベントで、プレイヤーと共に真夜中の森に囲まれた湖のほとりにあるコテージで二人きりになるイベントにて、月明かりに照らされた彼女はプレイヤーに囁く……
『貴方だけは……素顔の私を忘れないで……』
『今だけで良いの……』
『私を……私だけを見て……!』
そのイベントスチルで描かれた彼女の切ない表情は、人気者の栄光と孤独を……ゲーム内で語られる事のない彼女の内心にある光と影の強烈なコントラストをプレイヤーに強く印象付け、多くのファンを強く惹き寄せたのだ。
実際の所、彼女の過去や背景は作中でも開発者の談話でも明かされることが無く、それが逆に設定の空白を埋めるように多くの考察や二次創作が、熱心なファンの手によって多く生み出された。
投稿サイトでのSSも、彼女を題材とした物が最も多かったように記憶している。
その多くが、薬物依存や、幼少期のトラウマ、家庭内暴力、ストーキング等の暗い社会問題を取り扱っていたが……。
この世界でのサラを見る限り、そういう訳ありな雰囲気は感じない。
ただ、短期間ではあるが、パーティメンバーとして一緒にダンジョンで行動を共にしたマイクルの話では、見た目からは想像もつかない一癖も二癖もありそうな掴み所のない人物、らしい。
締めの組体操でピラミッドの頂点にて陽光を一身に集めて立っているサラは普段より一際光り輝いて見えた。
ふと、視線を観客席に移すと、リオン王子の隣でハリーがフィールド上の彼女を瞬きもせずに見つめている。
その熱のこもった目線を見ながら、彼はサラとの特殊イベントを体験したのだろうかと、ぼんやり考えた。
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「ハーイ、クリス様、アリィ……」
後ろから声を掛けられて振り返ると、大きなバスケットを持ったドルキャスが立っていた。
黒いTシャツにスリムパンツという、いつもの服装だが、今日はサンバイザーを被って暑さ対策をしている。
「バートの手伝いでドリンクとスナックを売って回ってるんだ……今のうちに買った方がいいよ?この暑さだと、冷たい飲み物はすぐに売り切れちゃうかも」
あのヒドラ討伐から、私達もクリスティーンを介して彼女とは互いのミッションの手伝いをしながら親交を深めていた。
そうした交流を積み重ねることで、内向的で自己肯定感の低い孤独な少女は、少しづつ自信を高め、実力に相応しい社会性を身につけつつある。
入学当時から考えると、かなりの人間的成長だ。
「そういえば、喉が乾きましたね。皆様お好きなものをどうぞ。ここは、わたくしが奢ります」
クリスティーンが私達に向かって高らかに胸を張って宣言する。
「じゃあ、遠慮なく」
バーンの姿のバーナードは素早くバスケットの中身を吟味して、ドルキャス秘伝のレモネードをいち早く確保した。
私はドルキャスと顔を見合わせクスリと笑った後、ドリンクに手を伸ばした。
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フィールドではハーフタイムが終了して、競技が再開される。
多くの声援を受けて選手たちが定位置に着いて、審判の号令を待っている。
特にマイクルは貴族が多いこの競技で、平民達の期待を一身に受けてフィールドに立っている。
身体性に加えて、魔力量が重要な魔法競技エンチャンプスにおいて、魔力と体格が劣る平民は一般に不利とされているが、彼は上級生の選手を相手にしても引けを取らない活躍をしている。
私は試合を見ながらヒドラ討伐後の出来事を何となく思い返す。




