対大魔獣ヒドラ戦(1)
「対ヒドラ戦略において、重要なポイントは短期決戦を心がける事だろう」
意図せずメインキャラクターが一堂に会した場で、プレイヤーであるダン・スターマンは緊張気味に作戦会議を仕切った。
マイクル率いるパーティは相談の上、共同戦線を張ることを同意して、ひとまず強敵ヒドラに対して、どのように対処するか、意見を出し合うこととなった。
「ヒドラはHPの自動回復能力を有しており、長期戦だと、こちらが圧倒的に不利となる。完全に倒すには自動回復が発動する前に全ての首を落とし切る事が必要だ。また、敵の首一つ一つから放たれるブレスは強力な範囲攻撃なので、出来るなら各自分散して行動する必要がある」
この辺の知識は、前世で既に攻略済みのクリスティーンの物だろう。
王女である彼女よりは冒険者としてのキャリアを持つダンから述べた方が説得力は高い。
「しかし、全てのメンバーがブレス攻撃を受けられる耐久力は持ってないぞ」
マイクルは手を上げて懸念点を挙げた。
「耐久力が劣るメンバーは後方支援に徹するしかないな」
リオン王子の周囲を見渡しての発言に、ドルキャス、ヒューバート、ニコラスの非武闘派人員は何度も頷いた。
「あたし達は、結界を貼って待機してます……」
「そうするしかないよなー……」
「前線で負傷したメンバーは結界まで後退してアイテムで回復するのが安全でしょう」
「それなら、私も後方組に入れさせて貰うわ。私の耐久度と攻撃力じゃ、討伐に貢献出来そうも無いし」
三人の相談に便乗する形でサラが後方支援組に参加表明した。
「アリィ、君も、そっちに回って」
「うん……そうするよ」
バーンは私にも、後方支援に入ることを促した。
それが無難だろうなー。ここで派手に動く訳にはいかないし。
私達、後方組が役割の分担について打ち合わせしている横で、前線組も攻撃の段取りについて話し合っている。
ヒドラ攻略もいよいよ本番に突入したようだ。
□
「皆、持ち位置に付いたな?」
打ち合わせ通り、クリスティーン、ドルキャス、ワジャが、床の魔法陣のようなマーキングの上に立ち、それ以外の者は、扉の前で待機した。
床の模様は、中央の大きな魔法陣を囲むように四つの小さな魔法陣が描かれていた。
そして、何故か私とバーンも四つの魔法陣の一つの上に立たされる。
実際に床の模様を見たダン、クリスティーン、それにバーンは、そこに書かれた古代文字を解読したのか、顔色を曇らせ、小声で相談した後に、私に指示したのだ。
「世界の運命を選択する者の名において、ここに命じる!」
ダンは中央の大きな魔法陣の上に立って、高らかに宣言する。
「試練への道を開け!!」
その言葉を受け、床の魔法陣は輝き、基盤の回路図のような模様をなぞる光は扉へと伸びていった。
――ガシューーーガタッ、キュイーン、ガチャ
扉の表面を覆うギミックが動き出して、複数のロックが解除される。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ついに、大魔獣ヒドラへの扉は開かれた。
最早、後戻りは出来ない。
□
覚悟はしていた。
それでも、実際に大魔獣ヒドラの巨体を前にして、その決意は十分では無かったと思い知った。
体長二十ヤードの胴体から生える八本の首が蠢く黒い大魔獣の姿は、見上げる若い冒険者達を畏怖させるには十分だ。
ドルキャスとヒューバートは顔面蒼白でガタガタ震えている。
他のメンバーも血の気が失せた顔だが、勇気を振り絞り足を踏ん張っていた。
「どうやら、首は八本が上限のようですね、元ネタから考察するに本数固定なのかもしれませんが……まぁ、この世界は楽な攻略は出来ない仕様のようです。でも、敵のステータスを見るに今の戦力なら対処可能でしょう」
そんな中、クリスティーンは無表情で淡々と小声で囁いている。
ダンは頷いて、メンバーに指示を出す。
「ここまで来た以上、後はベストを尽くすだけだ。打ち合わせ通り、持ち位置に付け!散開!!」
「よっしゃー!!相手にとって不足はないっ!先に行くぞー!!」
ジョージの能天気で陽気な雄叫びは、禍々しい巨体から漂う瘴気に挫けそうだったメンバーを奮い立たせ、皆、正気に戻り、フィールドに散らばった。
ドルキャスは後方で対ブレスと対物理の結界を貼り、サラは前線に出ようとするメンバーに各種バフを施した。
作戦では、サラとワジャによる補助魔性で強化した前線要員を二人一組で組ませて、続けざまに首を落としていくという短期決戦だ。
というより、それしか無いだろう、というのが、事前の作戦会議での、ダン、クリス、バーナードの共通認識だった。
「一人でも、重傷者が出たら、即撤退する!絶対にブレスの直撃は食らうな!!」
ダンの指示が廃墟のようなフィールドに響く。
「ハリーさんはジョージさんのサポートを!レイはケイトの後援を!」
マイクルは自分のチームメイトに指示を飛ばす。
「リオン様、俺のフォローお願いします!」
「分かった」
リオンは彼を信頼の眼差しで見て頷く。
二人は私達が知らない間に、ダンジョンでの活動を通じて何らかの信頼関係を築いたようだ
「ジョージ、先走るな!みんなの準備が整うまで、待て!」
「わかってるって!タイミングが大事なんだろ?」
青い顔のハリーは必死にジョージを抑えている。
「私達も行きましょう!」
「ああ、武人として、遅れを取るわけには行かないな!」
ブロードソードを構えるケイトリンと長弓を構えるレイも前線に躍り出た。
「よーし、いくゾー!バーン!ちゃんとオレに付いてこいヨ!」
「あー、はいはい……じゃ、後は頼んだからね、アリィ」
後方に設置された結界を振り返り、小声で囁くバーンに私は頷いた。
彼は満足げな表情で、ワジャの後を追った。
「士気は上々で何よりです。では始めましょうか」
「はっ!これよりヒドラ討伐開始する――!」
ダンの声がダンジョンのボス部屋に響き渡る。
「拘束せよ!!」
――ガァァァッァァァ――!!
ワジャの小さな身体から放たれた大きな咆哮は、ヒドラの本体を捉え、金縛り状態にした。
「全体攻撃、始め!!」
ダンの号令によって、その隙をつき、八つの頭に遠隔攻撃が被弾する。
「【乱れ撃ち】!!」
レイの長弓から繰り出される矢の連打は正確に八つの頭に刺さる。
「【マルチ・フレイムアロー】!!」
ドルキャスも結界の中から炎魔法で援護射撃を加える。
ヒドラの膨大なHPは順調に減少する。
「【ホーリー・ショット】!!」
「【アイス・ジャベリン】!!」
クリスティーンとバーンも負けじと魔法攻撃を容赦無く叩き込む。
一見すると、このまま魔法攻撃だけで倒すことが出来そうだが、既にクリアしたクリスの話だと、遠隔攻撃が通じるのはHPが五十パーセント以上の状態の時だけで、半分を切ると通用しなくなるらしい。
ダメージが蓄積したヒドラの四つの目全てが怒りによって赤く燃え、それを見たダンは素早く警告を発する。
「ブレス攻撃が来る!――回避せよ!!」
ヒドラの口が大きく開き、前線の戦士に向かって火の玉を乱射した。
ケイトリンとレイは素早く身を翻し、ブレスの範囲外に一時撤退した。
バーンとワジャも同様に攻撃を回避する。
「【マジック・シールド】!!」
ヒドラから距離を置きたくないのか、クリスティーンは防御魔法を唱え、ダンはその後方に控えた。
「【カーテン・ウォール】!」
リオンも回数制限のある高防御スキルを発動し、マイクルを防御した。
ジョージは、左手に装着している大盾を掲げ、ハリーをガードするように構えた。
「頼むから保ってくれよー!」
「保たなきゃ、困るっての!死にたく無い!」
「大丈夫、大丈夫!ドラゴンのブレスぐらい、余裕で防げるっての!」
「本当かなぁ……」
ハリーは懸念するも、ヒドラのブレス乱射は数秒で収まり、その間、彼らはブレスの奔流を何とか凌いだ。
ダンは、素早く体勢を整え、指示を飛ばす。
「よし!このまま、押し切れ!攻撃再開!」




