対大魔獣ヒドラ戦(2)
その後も攻防が続いた結果、敵のHPが半分を切ったのか、徐々に遠隔攻撃でダメージを与えられなくなってきた。
「攻撃を第二フェーズに突入する!全員突撃!!」
状況を正確に見極めているダンの号令を合図に前線のメンバーは更に距離を詰めた。
「よっしゃあ!これでも喰らえ!」
後半戦において、ヒドラの頭部に第一撃を与えたのは、最前線で粘り強くヒドラの足止めに専念していたジョージによるウォーハンマーでの強烈な打撃だった。
彼は前半戦で相手の攻撃パターンを見切ったのか、タイミング良く会心の一撃を与え、ヒドラの首の一つは沈黙した。
「やるナ!ジョー!オレもやってやるゼ!!」
「【アイス・フィックス】!!」
バーンがバインド効果を伴う氷魔法を放ち、敵が硬直した一瞬の隙を逃さず、ワジャは頭の一つ目掛けてジャンプし、手に持ったエンチャント済みチャクラムで頭部を連打して、首を落とした。
流石、戦闘民族だ。
「私も前に出ます!レイ、援護をお願い!」
「了解した!」
ブロードソードを構えたケイトリンは、ジグザグに駆け出し、敵の死角に素早く回り込む。
「【回転斬り】!!」
鍛えあげた全身を大きく回転させ、その勢いで繰り出された必殺技は、ヒドラの首の一つをあっさり落とした。
怒り狂った他の首が大技後の体勢の隙を突こうと彼女に襲い掛かるも、レイの正確な射撃による牽制によって阻まれ、ケイトは無事に安全圏に離脱した。
そこに入れ替わるように、マイクル、リオンが前に出る。
「【ダッシュ・スラッシュ】!」
「【ロイヤル・ストローク】!」
マイクルの剣技と、リオンの槍の一撃は、ほぼ同時に炸裂し、二つの首を一気に落とす。
さらに、クリスティーンが目くらましで放った閃光に敵が怯んだ隙に、ダンの二刀流から繰り出される剣技で、首がまた一つ落ちた。
残る首は後二つ。
私達の連携プレイで瞬く間に劣勢に追いやられたヒドラは、先程までの攻撃性を引っ込めて、守りの姿勢に転じてHPの自動回復による首の復活を狙い始めた。
ヒドラは後方に退き、その長い首を高く持ち上げ、こちらの攻撃範囲から離脱しようとするが……
「させるかよぉ!!」
ジョージは腰に付けていた先端に鉤爪を付けた長い鉄の鎖をブンブン回し、ふいにヒドラの頭に向かって投げて、鉤爪を引っ掛け、頭を力技で地面に引っ張った。
「今だ!!」
ジョージの呼びかけに、前線の戦士たちはヒドラの頭に襲い掛かかる。
ヒドラの頭は鳴き声を上げるまでもなく沈黙した。
これで、首は残り一つ……私達は、一瞬の束の間、ホッと安堵の息を吐いた……。
しかし――私の脳裏にクリスティーンの言葉が蘇る。
“ヒドラは首が増える毎に弱体化します”
その言葉を引き金として、一つの考えが頭に浮かびハッとするも、私が声を出す前に――最後の一本となった頭から、怨嗟の念が込められた咆哮が放たれた。
――アギャァァァァァ――!!
今のヒドラの叫びは、これまでのモノとは明らかに質が変わっており、放たれた音波は波動となって若き挑戦者たちの身体を貫き――その心を折った。
この世界がシステムを伴ったゲームだと仮定すると、この咆哮は聞いたモノに何らかの判定を強制したようで、その結果、抵抗に失敗した者の意識を一瞬で刈り取った。
そして、抵抗に成功した者も、精神的ダメージは大きく、その場に蹲り、頭を抱えている。
結界内の後方組は私を除き、全員倒れて気絶していた。
前線でも多くの者が意識を失い、その場に倒れている。
現在辛うじて立っているのは、ダン、クリス、マイクル、そしてバーンの四名のみだ。
ヒドラは目を光らせて舌舐めずりし、次の獲物を見定めている。
クリスは倒れているリオン達を庇い、ダンはそんなクリスをガードする姿勢をとった。
マイクルは苦痛の表情で倒れているケイトリンを守る。
ヒドラの視線は……前線メンバーで最も小柄なワジャに定まった。
倒れている彼女の最も近くにいたバーンは、咄嗟にその間に立ちはだかる……。
その光景を見た瞬間――
私の中で“何か”が弾け飛び、目の前が光の奔流で真っ白になった。
『いやああぁあああぁぁぁ!!!バーナード様が、死んじゃうっっ!!!』
それは、アリス・イシュタールという名を持つ少女の、魂の叫び。
えっ……?
今、暴走するの?……“アリス”……?ここで??
戸惑う“私”を置き去りにして、ヒドラはバーンに迫り、“アリス”は叫ぶ。
『やめてやめてやめて!バーナード様ぁ!!!死なないでぇええええ!!!』
アリスの叫びが“私”に祈りの姿勢を取らせ、その乙女の切なる思いは星の世界で地上を見守る存在に届き、魂がリンクした。
『お願い!!バーナード様を助けてっっ!!!』
乙女の願いに対して、リンク先から“承認”の意が届けられ、遥か彼方の星の世界から祝福が降り注ぐ。
眩い流星群は薄暗いダンジョンの部屋を聖なる光で満たし、仲間を元気付け、敵を弱らせた。
全てを浄化する光は闇の落とし子であるヒドラを蝕み、聖なる侵食によって苦悶の呻き声を上げる。
祝福の星の力で回復した四人は反撃に転じた。
バーンは全員にバフを掛けて攻撃力を上昇させ、
クリスティーンの鉄扇の投擲でヒドラは仰け反り、
ダンの二刀流での斬り付けで足の動きを封じられ、
ヒドラは束の間、全くの無防備状態となった。
「マイクル――!!」
ダンの呼びかけにマイクルは引き締めた表情で頷いた。
マイクルは両手剣を構え直し、
ヒドラに向かってダッシュで近づき、
高くジャンプする。
「これで終わりだ――!!」
大きく振りかぶったジャンプ斬りによって、ヒドラの最後の首は見事、切り捨てられた。
その巨体は断末魔と共にボロボロと崩れ去り、後には一振りの剣――聖剣レインメイカーが地面に突き刺さっている。
マイクルは恐る恐る近づいて、その剣を地面から抜き、頭上へ高く掲げると、聖剣は光り輝いた。
まるで、伝説の勇者の到来を表す神々しい絵画のような一場面だ。
大魔獣ヒドラ討伐の試練は無事、達成された……。
「やったぞー!」
「お見事です、マイクル・スミス殿!」
「いえ……皆様の助力のおかげです」
「はぁー……危なかった……でも、大事がなくて良かった……」
前線で四人はお互いの健闘を讃え、ハイタッチで勝利の余韻に浸っている。
私はその様子を胸の奥から湧き出る温かい思いに満たされながら見つめていた。
「そういえば……」
急に真顔に戻ったマイクルは不意に私の方を向いて、こちらを凝視する。
「さっきのは……何ですか……?」
……最もな疑問だ……。
正直、私も聞きたいくらいだ。
……やらかした本人だけど。
「彼女は急にバーンを“バーナード様”と呼んでましたが……一体どういうことでしょうか?」
三人は目配せし、ダンは困った顔で頭を掻き、バーンは真顔のまま固まって黙っている。
心なしか、目つきが鋭いけど……物騒なこと考えてないよね??
私の胸の動悸は、不安と不穏さで激しくなった。
説明に苦慮しているダンとバーンを見て意を決したクリスはマイクルに小声で話しかける。
「説明すると長くなるのですが……」
□装備武器一覧
クリスティーン→鉄扇
ダン→カタナ
ワジャ→チャクラム
ケイトリン→ブロードソード
レイ→長弓
サラ→ムチ
リオン→槍
ハリー→レイピア
ジョージ→ウォーハンマー
マイクル→両手剣
ドルキャス→魔道書
ヒューバート→スリング
ニコラス→火炎瓶
バーン→短剣
アリィ→ブーメラン




