代替品
玲と別れてから、しばらく経った。
最初の頃は、何をしていても玲のことを考えていた。
学校に行けば、廊下ですれ違うかもしれない。
帰り道を歩けば、隣に玲がいるような気がする。
スマホを開けば、玲とのトーク画面を見てしまう。
でも、玲から連絡が来ることはなかった。
あの「別れよ」という一言以来、僕らはほとんど話していない。
そして僕は、玲のことを忘れようと思った。
忘れられるとは思っていなかった。
それでも、いつまでも引きずっているわけにはいかない。
そう思っていた。
そんなある日、中学校の文化祭があった。
僕は委員会の仕事をすることになり、そこで一人の女の子と知り合った。
名前は詩音と言うらしい
玲とは全然違う子だった。
よく喋るしよく笑う。
思ったことをそのまま口にする。
僕が何か言えば、すぐに返事が返ってくる。
玲とは正反対だった。
少し似ている所もあったが性格も見た目も雰囲気も全部違った。
「煌くんってさ、意外と面白いよね」
「意外って何だよ笑」
「だって普段静かじゃん」
「失礼だな」
「ほら、そういうところ」
そんなくだらない会話をしているうちに、自然と話すことが増えていった。
文化祭が終わってからも、LINEをするようになった。
学校で会えば話す。
帰る時間が同じなら一緒に帰る。
気づけば、毎日のように話すようになっていた。
そして冬。
僕は、その子と付き合うことになった。
告白されたとき、嬉しかった。
少なくとも、その瞬間は本当にそう思った。
玲とは違う。
一緒にいると楽しい。
話していても気を遣わない。
僕のことを好きだと言ってくれる。
だから、今度こそ好きになれる。
そう思った。
いや、そう思いたかった。
付き合い始めてからも、普通に楽しかった。
一緒に帰ったり、くだらない話をしたり。
前の僕なら、きっと幸せだと思ったはずだ。
でも、ふとした瞬間に玲を思い出した。
ゲームをしているとき。
帰り道を歩いているとき。
夜、スマホを見ているとき。
何気ない瞬間に、玲との思い出が出てくる。
「煌、どうしたの?」
「え?」
「なんか考え事してた?」
「いや、なんでもないよ」
嘘だった。僕はずっと玲のことを考えていた。
新しい彼女といるのに、心のどこかに玲がいる。
それがだんだん苦しくなっていった。
そして、二年生の春。
僕は彼女に別れを告げた。
「ごめん」
「……玲ちゃん?」
その名前を出された瞬間、言葉が止まった。
「やっぱり、まだ好きなんでしょ」
「詩音にはもっといい人いるよ」
この言葉以外僕は何も言えなかった。
否定できなかった。
彼女は少しだけ笑って、
「そっか、私は好きだったよ煌のこと」
とだけ言った。
僕は最後まで、彼女に嘘をつけなかった。
別れてからも、玲のことを忘れられたわけじゃなかった。
むしろ、自分がどれだけ玲を好きだったのかを思い知らされた気がした。
「ごめんねありがとう。」
それからしばらく、玲とは何もなかった。
学校でもほとんど会わない。
連絡も来ない。
もう、本当に終わったんだと思っていた。
二年生の夏。
いつものように家で過ごしていると、スマホが鳴った。
画面を見る。
そこに表示されていた名前は、
玲の弟だった。
玲の弟は二個下の子で今でも時折遊んだりゲームしたりする仲だ。
「煌兄ー頼みがあってさ?」
そんな短いメッセージのあと、続けて送られてきた。
「姉ちゃんが話したいって」




