不協和音
この物語はイジメを助長する目的ではありません。この話はイジメを含む一部作者の体験を織り交ぜたフィクションです。精神的に不安定な方や気分を害す方、感情的になりやすい方などは閲覧を控えてください。
登場人物
早川イサム(勇)
一卵性双生児の兄。弟より小柄で気弱な面もあるが努力家。父のサッカーに憧れる。
早川マサル(勝)
一卵性双生児の弟。明るくて素直な活発な少年。気弱な兄を支える優しい子。いつも兄と勘違いされている。
早川ソウスケ(宗佑)
双子の父親。サッカーJ2リーグのプロ選手。遠征中に不慮の事故で命を落とす。
早川ヨウコ(陽子)
双子の母親。フリーのカメラマン。取材の時に宗佑と出会い結婚。双子を出産している。2人の子供が成長したことで、仕事を再び始める。
柴谷マモル(護)
朝比奈学園中等部1年。野球部で捕手、マサル親友。お調子者だが友達思いの優しい少年。
新人戦当日,開会式を終えて、各地区決められた日時と球場に移動していた。移動のバスの中終始無言のマサルをマモルは心配していた。声をかけても上の空で、緊張していると言う感じではなかった。規定の球場に着いて自分達の試合まで練習を始めると、いつものマサルに戻っていた。
しかし投球練習を始めるマサルのフォームにマモルは違和感を感じて顧問の鈴木にマサルの投球を見てもらう事にした。
「うーん。以前より踏み込みにためらいが出来て、リリースポイントが遅くなっているから柴谷が違和感を感じたのかもな」
「ボクの投げ方そんなに以前と違いますか?」
「そうだね、いままでは身体全体で投げてたけど今は腕と脚のバランスが取れて無い感じかな。肩に熱をもっているしね」
鈴木はマサルの今の心の状態を察して肩に手を置きマサルの視線まで腰を屈めた。
「早川、今のお前の心は不安定なんだよそのことには気が付いているかい?その原因は早川自身が1番良くわかってるんじゃないか?」
俯いたマサルは色々な感情を涙と言う形で表し頷いた。父を亡くし複雑な感情がマサルを襲っていた事を鈴木は察していたのだ。マサルの頭を軽くポンポンと優しく叩くと
「私は野球部顧問、監督である以上に教師だ。心のケアが出来ていない生徒を試合に出して怪我を負わせたくない。早川キミの気持ちは今どちら側に向いてる?」
マモルも今までの違和感の正体がマサルの気持ちだと気がついた時全てを受け入れる覚悟が出来ていた。
「慌てなくていいよ、ちょっとさ聞いたことあるんだ。マサルくん昔はサッカーやってたって。お父さんが亡くなってサッカーへの気持ちが揺らいでるんじゃないの?」
「ごめん…本当にごめん…」
「謝らなくていいよ。野球やって時のマサルくんは本当に楽しそうだったから。そこに偽りは無いよ」
マモルはマサルの感情を受け入れる様にハグをする。
「野球を好きになってくれてありがとう。僕はキミが何処に行っても親友でい続けるから…」
マモルの抑えていた感情も耐えきれず涙が溢れ出す、
「キミが選んだ道は誰が何と言おうとも僕は応援する。キミが決めた道を進んでマサルくん」
鈴木がマサルとマモルに対して
「うーむ、早川、柴谷。早川は肩に違和感があった、柴谷がそれに気が付いたそして私が早川を病院に連れて行く…と言う話でまとめるかな」
「先生それは…」
「嘘も方便、現に肩に熱があり異常をきたしていることは間違いない。それに今の状態で投げ続けると怪我をしてもおかしくない。なら事前に防ぐのも教師なんだよ」
と人差し指を口に当て
「そう言う事で私は早川を病院に連れて行く、柴谷はキャプテンに報告急遽ピッチャーは畠中に投げさせて置いて」
「畠中くんですか?」
「彼は1番の成長株だからね、コントロールは良いから選球は柴谷がリードしてね」
「でも本当に病院に行くんですか?」
「そっ、本当に行くの」
そう言うと鈴木はマサルを車に乗せて病院へと走らせた。
「すいません、ボクの為に…」
「何謝ってるんだ、早川キミは怪我人だぞ。心の傷も立派な怪我人だ。気づいてやれなくてすまなかった」
「そんな…ボクは…」
そうこうしている内に本当に病院に着いた。
「本当に病院なんですね…」
「ここの先生はいい先生だからね」
言われるがまま受け付けを済ませて、診察に入ると本人も驚く診察がされた。
「肩と肘に炎症ですか…」
「今すぐどうと言う事は無いが…少し休ませる方がいいのは確かだね。それとうちは心療内科では無いけど簡単なカウンセリングが出来る先生も曜日限定だけど来てくれる。キミみたいに親を早くで亡くす子なんかのケアもしてるからよかったらお母さんに相談してみてね」
そう言うとカウンセリングのパンフレットを手渡し診察を終えた。
「鈴木先生…ボクサッカーをやってもいいんですかね…」
「それは早川の気持ち次第だな。野球を続けるにしても今のキミには休息が必要だ。でもね選ぶのは早川自身が決める事だ。背中は押してやれるが早川自身が不安定な時には先生も押してやれない。今は考える時間だと先生は思うな」
「決断を急ぐな…って事ですか?」
「そうだね、今キミはお父さんが亡くなって焦っている。自分とお父さんを比較して自分にない物だけを探してる。そんな状態だと野球もサッカーも中途半端になると思わないかい?」
マサルは少し俯き改めて鈴木の顔を見返す
「焦る必要はない。野球部への在籍は残して置くからゆっくりでいい。自分で答えを探しなさい。後悔のない様に…」
そう言うと鈴木は車をマサルの自宅に向け走らせた。




