弊害
テスカポリトカの部下にステラが操られ、二重楽器を持ち去ったことは、メルルカのクロスフォード子爵に伝えられた。
考古学の研究をしているクロスフォード子爵は、竜王フナブ・クーの命によりミクトランを隔てるゲートの位置を調査していた。
その報告に胸を痛めながらも、娘の居場所を一刻も早く探すために部下を率いて調査を続けている。
3日後。
ラケルタ討伐を終え、竜騎士と王立アカデミーの上級生が帰還。
ラケルタが、カエルレウム公爵の素早い動きを捉えられなかったことが大きい。
仕留めたとはいえ、カエルレウム公爵は両手と左足の負傷。
「私はまだまだ大丈夫だ!!」と運ばれながらも叫んでいた。プルウィアの方は、ラケルタの雷撃の傷が癒えておらずレイクホルトの湖の底で眠っている。
「接近戦が得意な奴は、血の気が多い」
アルドルの背中から降りたセトが呟いた。
「若、疲れましたでしょう。今日は、早めに休んでください」
アルドルに優しく言われ
「ああ」
セトは頷く。
「俺の武勇伝を聞いたら、ラピス様もメロメロかもな」
「はいはい。あら、マティア様では?」
「ああ、風竜の……」
特に興味もなかったが、セトは自然とアルドルの視線をたどる。
ウェルテクスの居た竜舎を眺め、そして深いため息をつく。
「重症だな」
「若、今は……」
長い首を横に振ったアルドルを見て
「俺にだって、空気ぐらいよめる」
人間の女には興味ないってのに、とセトはため息をついた。
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王立アカデミー・中庭。
東屋の近くの池を眺めていたククル。
「許せない……結局、最初からそのつもりじゃない」
彼の中に混ざった少女はーー歪んだ黒い感情を吐き出す。
「おい、ここで何やってる」
黒猫アズールは、池を泳ぐ鯉に惹きつけられた。
池に手を伸ばそうとした寸前
「……俺は」
我へと戻る。
(まさか、コアトリクエ校長先生が言っていたことって……)
「あ、アズールか。居たなら、声かけてよ」
やっぱり猫はちょっと苦手だ、と距離をとるククル。
「独り言って、ボーっとしてるからだろ」
「そうだったかな……そうそう、バイオリンの調子を確かめようと思って」
部屋に忘れて来た、とククル。
「貴様、熱の影響でおかしくなったか?」
元々おかしいが、とアズールが続ける。
「失礼だな」
ククルは口をへの字に曲げると
「ところで、何か用?。まさか、からかいに来ただけとか?」
「そうだった」
コホン、とアズールは咳払い。
「アルメニアには、父上……竜王フナブ・クーも同行する」