残された方の我儘
「……ううっ」
熱に苦しむククルの氷嚢を、コアトリクエが交換。
エーテルで視力を補っているとため、疲労が表情に見られる。
だが、それは間違いなく母の表情。
アズールも、よく知っている。
「コアトリクエ校長先生は、箱舟のコールドスリープに入れられたと聞いています」
イツトリと呼ばれた男の手によって、と黒猫のアズール。
トゥーラでは、ケツァルコアトル族の能力に嫉妬した人間の暴動が多発していた。
コアトリクエの娘ーーイラマテクトリは、運悪く巻き込まれた。
その結果は、テスカポリトカの開発を加速させた。
人間だったイラマテクトリの父によって。
彼女の遺体は、トゥーラの意思へと溶かされた。
つまり、ククルとウィツィの性格に影響を与えている。
「この子に優しくしているのは自己満足ね」
「……結局は、残された方の我儘なのかもしれません。ですが、俺には否定は出来ない」
夜の帳の降りた窓の外を眺め、アズールは呟いた。
「……ありがとう。歳を取ると臆病になってしまうわね」
もう何度も決めたことなのに、とコアトリクエは深いため息をつく。
そして、ククルの規則的な呼吸を聞いて安堵の表情。
「アズール殿下、城の方へは?」
「さすがにこの姿では……」
黒猫の姿になって、何度か城門に近づいた。
しかし、門番に槍で追い返された。
おまけに、池に近づくと「鯉にイタズラするな」とメイドに追い回された。
「猫生活は、ハードです」
「そうでしたか……ですが、その姿で長期間過ごすのはリスクが伴います」
いずれ猫側の意識に同化してしまう、とコアトリクエは警告した。




