闇の中で
「まったく……ウィツィ様、後先も考えずに」
淡々とした言葉を呟く女の子。
「トゥーラの意思は、未だにククル様の中だと言うのに」
「ミルカちゃん、まだ手当が終わってないから出て行っちゃダメですよぉ」
ステラが声掛けると
「あれ、わたし……どうして?」
キョトンとした表情のミルカ。
「もう、それはこっちの……あれは」
禍々しい気の立ち込めるネブラ雪山。
「グオオオオオオオン」
飛び上がる黒い竜。
その背に乗ったウィツィは
「よし、このまま音で誘導するよ」
そして、崩れ落ちた雪洞の方を眺める。
「兄さん、埋まっちゃったかな」
左目を抑え
「まあ、死んではいないだろうけど」
黒い竜が飛び去ったのを見計らい
「……行ったか」
気を失ったマティアとククルを抱え、ウェルテクスが着地する。
「ステラ、二人の手当てを」
「すぐに、屋敷の方に運びます」
✳︎✳︎✳︎
暗い闇の中、アズールは目を覚ました。
「……ここは」
そういえば、雪洞で……
思い出そうすると、頭が痛い。
まるで、取り込んだ獲物を徐々に消化しているような空間。
「俺は、このまま……消えるのか?」
誰も居ないのだ。
自然と後ろ向きな回答しか出てこない。
「……ここにお客様とは、珍しい」
ゆっくり、遠くから明かりが近づいてくる。
ランプを片手に、左側を長く伸ばした黒髪の男。
「貴方、消化されかけてますよ」
そう言って、アズールの右肩を指差す。
「これは……」
右肩の辺りまで黒く染まっているのを見て、アズールは顔をしかめた。
「まさか、貴様がこの闇の本体なのか」
アズールの言葉に
「いえいえ、私は食べ残しのようなものです」
男は首を横に振る。
「私は、イツトリ。テスカポリトカの四番目の体です」
始めまして五番目、とイツトリは軽く頭を下げた。
「……四番目って、俺はテスカポリトカに?」
アズールが訪ねると
「……まだ完全ではないでしょう。おそらく、本格的な儀式は、ミクトランの闇の神殿で行われる」
猶予はまだある、とイツトリは続けると
「貴方は、ククルと知り合いのようですね」
先ほど、微かにではあるがバイオリンの音が聞こえていた。
「……あいつのこと、知ってるのか?」
イツトリは深い溜息をつき
「コアトリクエの右を媒介に、彼を作ったのは私です」
(ひょっとして、この人がククルの言ってた知り合いか)