浸食
雪洞・最深部
「君が、ステラたちと一緒に来た青年だな」
マティアの言葉に
「これ、僕がもらって行くよ」
大剣を持つ青年が振り返る。
「ウィツィ、二重楽器を返せ」
ククルが声を荒げた。
「兄さんは、厚かましいな。そのクロノスだって、強引に自分のモノにしたくせに」
ウィツィは鼻を鳴らすと
「もう、ゼウスは僕が手にしたから僕のだよ」
不敵に笑った。
(……兄さん?)
アズールは二人を見比べるが、どう見てもウィツィと呼ばれた青年の方が年上。
「どうみても、君の方が年上に見えるが」
アズールの意見を代弁したマティアに
「ああ、これはパーツのスペックの差だよ。これでも、十二歳」
だから年下であってる、とウィツィ。
「そのポンコツの相手は、大変でしょう。馬鹿だし、うるさいし……馬鹿だし 」
溜息をついたウィツィに
「それは……まあ」
「同感だが」
頷いたマティアとアズールに
「ちょっとは、フォローしろ!! それと、二回も言うな」
何でここににるんだよ、と睨むククルに
「第二王子に印はつけたみたいだし、実はこのままミクトラン連れて来るように言われてるんだよ」
ウィツィが答える。
「まさか、アズール……」
「おい、急に」
ルナに噛まれた右手の包帯を、ククルが強引に取る。
黒い痣が、広がっている。
「これは……」
手当を受けた時は、たいしたことのない傷だった。
「鳥籠で、ケツァルコアトル族たちが父さんの意識が消えないように音を奏で続けているけど……やっぱり、入れ物は必要だよね」
ウィツィが、大剣をコントラバスに変化させ
「この音を、神獣の王テスカポリトカへ」
白の音を奏でる。
「ぐっ……」
ドクン、ドクン……と、まるで二つ目の心臓が背中にあるかのように脈打つ。
膝をついたアズール見て
「殿下、一体何が」
触れようしたマティアを
「サワルナ……ケガラワシイ……」
禍々しい声を発したアズールに、突き飛ばされる。
「アズール、飲まれるな。そいつの言葉に耳を貸すな」
ククルが、バイオリンで白を奏でるが
「兄さんには、無理だよ。パーツのスペック違うんだから」
音が、全て打ち消されていく。
「うわあああああああっ」
アズールの姿はーー黒い三枚の羽を持つ竜へと変化。
「グオオオオオオオン」
竜の咆哮が、雪洞を揺らした。
「……いけない、このままだと崩れる」
マティアはククル手を掴み、雪洞の外へと急いだ。




