⑧清掃員アイテム渡してみる
すいません、予約ミスしてました(T_T)
戻る道中、気配を消したままなのに気がついた。
【気配操作】は便利なスキルで、探知や消すこと、逆に増すこともできる。一度発動すると使い分けることも可能だが、これまでは「探知」と「気配消し」を同時に使うことはできなかった。
なんだかんだで一番使うスキルなので、訓練の結果、同時に使うこともできるようになった。
【変身】と同じでイメージが大切だ。頭の中で【気配操作】を2つのボリュームタイプのスイッチに置き換えてイメージすることで、この問題を解決した。
★
ランチタイムになり、私は社員食堂にやってきた。
案内業務は「会社の顔」なので、テナントの飲食店に行くのは禁止されていて、社員食堂の使用を推奨されているの。入口を入ると、亜希先輩が奥の席で手を振っている。いつもはもう少し早い時間のはずなのに、真くんの話を聞くために権限を悪用したに違いない。
「お疲れ様、メグリン! こっちこっち!」
亜希先輩は、私がトレイを持って近づく前から、獲物を見つけた猛獣のような笑みを浮かべていた。今日のメニューはAランチのハンバーグ。でも、先輩の目には私の話という「メインディッシュ」しか映っていない。
「亜希先輩……。休憩時間、ずらしましたよね?」
「当たり前じゃない! メグリンが『味見』したなんて爆弾発言したんだもの、仕事なんて手につくわけないでしょ? さあ、冷めないうちに白状しなさい。エリートクリーナーの『中身』はどうだったの?」
「声が大きいですよっ!」
慌てて周囲を見渡す。幸い、他のスタッフはバズっている「ダンス猫」の動画に夢中で、こちらを気にする様子はない。私は顔を赤くしながら、昨日から今朝にかけての出来事をかいつまんで話し、プラモデルを一緒に作ったことなども伝えた。
「へぇ……。プラモデルを一緒に作るなんて、中学生みたいな初々しさね。で? 『D』の彼は、やっぱりおどおどしてた?」
「プラモの話は初心者にも分かりやすく教えてくれたけど、その時の真剣な顔がカワイイんですよ!」
「ほほぅ、それで押し倒したの?」
「私がずっと顔を見ていたのに気が付いて、彼、目を閉じて少し唇を突きだしたんですよ」
「イイね、初々しいね!」
「そうしたら、肩を掴まれて『お付き合いして欲しい』と告白されました」
「何でよ! そこはキスして押し倒す一択でしょ!? これだから『D』は!」
「真くんは、初めてだからこそなし崩しではなくて、ハッキリ意思を疎通してから行動したかったみたいです」
「真面目か!?」
「はいと答えてキスして、イチャイチャしましてね。……その、近藤さんの出番なんですけど、入らなくて」
(※自主規制)
「入らないから、色々したのが『味見』なのね。今日も試すの?」
「今日は実家から時間指定で荷物が届くので無理なんですよ(T_T)」
「確か真壁くん、明日お休みだから家に招いたら?」
「無理無理! 今、私のお部屋は下着が万国旗状態なので見られたくないですよ! 全裸を見られるより恥ずかしい!」
「積極的過ぎて痴女化しているのに、そこは恥ずかしいの!?」
痴女? 積極的に行動しろって亜希先輩が言ったんじゃない! 私の不満が顔に出ていたようで、先輩は苦笑いした。
「積極的にとは言いました。でもその日のうちに泊まって『D』を奪えとは言ってません! 真壁くんがメグリンの魅力に負けたのか、押しに弱かっただけの奇跡だからね! でも一つだけアドバイスしてあげる」
「アドバイス?」
「今度挑戦する時は、30分くらい湯船に浸かってからすると良いよ。そうすると身体が柔らかくなるから、入れやすくなるよ」
お風呂上がりのストレッチが効果的、みたいなものかな? こんな感じでランチタイムは過ぎていった。
★
無事に職場へ戻り、清掃部のロッカーに荷物を入れる。
事務所に加藤さんがいたら次のシフトを聞こうと思い中に入ると、幸い加藤さん一人しかいなかった。その加藤さんは、誰もいないから安心したのか、頭部に何かの液体を塗っていた。
彼の頭部は、チョンマゲのないサムライみたいな髪型だ。顔はイケメン、仕事もできて部下の面倒見も良い上司なのだが……。彼は俺に気が付くと、非常に気まずそうな雰囲気になった。
『【彼にアイテムを渡してみよう!】報酬¥5,000、内容により報酬追加 YES / NO』
空気読めよシステム! この場合【増毛薬Ω】しかないじゃないか! 俺は内心でツッコミながら「YES」を選択した。
「お疲れ様です。加藤さん、次のシフトなんですけど……」
「スルーしてくれるのは良いけど、無理があるからね! 何か言ってくれる?」
「大学の先輩が『試してくれ』と送ってきた増毛薬があるんですけど、使います?」
「今度は遠慮なくぶっ込んだね! 『自分はフサフサだから』と嫌味か! と言いたいけど……是非にもお願いします!」
獲得したアイテムに限り、ポケットやカバンから自由に取り出せる仕様だ。ポケットからすぐ出すのも変なので、一度ロッカーに戻るフリをして【増毛薬Ω】を手渡した。加藤さんはそれを受け取ると、ウエットティッシュで今塗ったばかりの薬を落としてから、早速新しいのを塗った。
「ウガッ! ……と、頭皮を削られるような痛みが……!」
広すぎるオデコが真っ赤に染まる。
「大丈夫ですか?」
「こんな薬は初めてだよ...! もしかしたら、本当に効果があるかもしれない!!」
加藤さんは嬉しそうな声を上げ、「午後のシフトはメールするね」と言って鏡を見つめ始めた。
「失礼します」と退室すると、おなじみのPayPayの音が響く。
『クエスト成功! ¥5,000獲得! 追加報酬:スキル【嘘補正】獲得。言い訳が楽になるよ(笑)』
お前、絶対意思あるよな!
俺の言い訳に無理があると言いたいのか!?
いちいち煽ってくるな!
俺はそう思いつつ、午後の仕事へと向かった。
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