⑦清掃員と猫ダンス再び
クエストが表示されてから1時間、YESを押す時間がない。
僕の猫ダンスが、本当にバズったから平日の昼間でもお客様が多いから突発的な清掃も増える。
仕事の合間にめぐみからSNSで、会話を求めているしチャンスがない。
黙々と仕事をしていると、上司の加藤さんから連絡がある。
《真壁くんお疲れ様です。休憩返上で作業お疲れ様です。苦情も落ち着いたので少し早いですが食事休憩で1時間半ほど休んで良いですよ。
苦情があったら連絡しますので休憩後の対応をお願いします》
これはチャンスと清掃道具を職員用スペースに置くと、監視カメラの視界になる場所で気配を消した。
全裸幽霊の件でカメラに映るのが、わかったからね。
そして、猫になり気配消しを解いてYESを脳内で押す。
「ニャッ!」
短く気合を入れ、僕は後肢で立ち上がった。
吹き抜けの広場には、昨日のSNSのバズりを知ってか知らずか、多くの客が足を止めている。
脳内に流れ出したのは、アップテンポなユーロビート。
僕はまず、前足で空を切り、指揮者のようにタクトを振る仕草を見せた。
それだけで、周囲から「えっ?」「うそ、立ち上がった!?」と声が上がる。
僕はリズムに乗り、猫の骨格を無視したようなキレのあるステップを踏み出した。
【格闘術】で培った体幹は、四足歩行の生き物であっても「垂直」を維持させる。
右に、左に、ムーンウォークのように滑らかにステージを横断し、一気にバク転を三連続。
「本物だ! ダンス猫だ!」
「昨日の動画より動きがヤバいんだけど!」
観客が殺到し、無数のスマホのレンズが僕に向けられる。
僕はその光を浴びながら、さらにギアを上げた。
尾をリズミカルに床へ叩きつけ、パーカッションのような音を響かせる。
一回転、二回転……。回転の勢いそのままに、僕は【柔軟性:猫】を活かして床を転がるブレイクダンスへと移行した。
猫は液体のようにしなる体。重力を感じさせない跳躍。
最後は、格闘術の構えを猫なりにアレンジした「決めポーズ」で締めくくった。
「5分経過。クエスト条件達成。……逃走を開始してください』
システムの無機質な声が合図だ。
「待て! その猫を捕まえろ!」
網を持った警備員たちが四方から詰め寄ってくる。
僕はニヤリと(猫の表情で)笑うと、一気に加速した。
警備員の股をくぐり、追いかけてくる子供の手を鮮やかにかわす。
テラス席のテーブルの上を、グラス一つ倒さずに駆け抜け、最後は装飾用の巨大な柱を垂直に駆け上がった。
天井近くのダクトの入り口に手をかけ、一気に中へ滑り込む。
「消えた……」
「嘘だろ、あんな高さまで……」
背後で聞こえる驚愕の声を置き去りに、僕は暗いダクトの中を疾走した。
『ペイペイ♪』
クエストの確認は、アプリでしないとイケないが、このまま猫の姿で家に帰りめぐみさんのプラモデルを取りに行く。
お客様に見られると、自宅がバレる可能性を考慮して気配消しは忘れない。
猫になっても身体能力は、【格闘術】のお陰で上がっているので住宅の屋根を伝い最短距離で向かう。
最高速度で駆けているのに、僕の身体に影がかかっている。
変だと感じて、急ブレーキすると鳥が直滑降してきて屋根に激突する白い鳩。
その直後人型の紙になる。
式神!?
視界の片隅に白い鳩が見えたので引きつけてから避けるとまた紙になる。
屋根の上は不利だから、下に降りて路地裏に逃げ込む。
姿を消しているはずなのに、白い鳩に狙われるってどういうこと?
式神って事は陰陽師が近くにいる?
って本当に存在するんだね!僕みたいなシステム使い(?)がいるんだから存在してもおかしくないか。
何とか巻いて、変身を解き、自宅の中に入りアプリを確認。
『クエスト攻略おめでとうございます! 報酬10,000円を送金しました』
『追加ボーナス:観客を完全に魅了したパフォーマンスを評価。アイテム【万能キー】を贈呈、内容によりスキル【デコイ】を贈呈』
デコイって囮とかにする奴だっけ?
また、検証しないとな。
プラモデルと必要なものをリュックに入れて会社に戻る事にした。
★
家を出て商店街に入ると、ゴスロリ少女がいた。
最近はこの手の服装の人は、目にするけど彼女の場合は、変に目立っていた。
スマホをあちらこちらに向けては数歩歩いて繰り返し、多分地図アプリで何処かに向かいたいけど使い方が分かっていないようだ。
『【迷子を助けろ!報酬¥5000 内容によって報酬追加 YES NO】』
これまでのパターンなら出ますよねクエスト!
でもNOを選択し足早に戻る。
不親切?関係ないよ、もし助けたら匂いでめぐみさんが気が付きそうだもん!
お読みいただきありがとうございます。
拙い作品ですが毎日更新出来るように努力します。
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