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⑤清掃員と強制クエスト

おはようございます

田中ザマァ編終了です。

 仕事が終わり、4階の控室からエレベーターに乗り込んで従業員通用口へ向かう。その途中、またしても頭の中にアナウンスが響いた。


『強制【先輩と仲を進展させろ!】制限時間(6時間)内に進展させることで報酬アップ!

(例:手を繋ぐ、下の名前で呼び合う、繁殖活動)※進展ゼロならペナルティあり』


「はぁ!? 何これ!? 強制? しかも最後の『繁殖活動』って、もうゴールじゃん!」


 強制ということは、もうカウントダウンがスタートしているのだろう。今が18時だから、日付が変わるまでということか。

 時間はたっぷりあるけれど、自分から先輩を探してデートに誘うなんて、恋愛経験なしの僕にはハードルが高すぎやしないか?

 とりあえず通用口で待とう、と考えながらエレベーターを降りると、そこには笑顔の飯村先輩が立っていた。

 前々から薄々思ってはいたけれど、このシステム、僕を中心とした半径何十メートルかの様子を完全に把握しているのではなかろうか。


「あっ、真壁くん!」


 僕に気がつくと、先輩は嬉しそうに小さく手を振った。

 普段は凛としていて綺麗なのに、その笑顔は反則級に可愛い。


「お疲れ様です、飯村先輩。どなたかと待ち合わせですか?」


「お疲れ様、真壁くん! ほら、昨日のこともあるから……また送ってもらえないかなって、待ってたの」


 はぁ!? これが噂に聞く吊り橋効果というやつか!?

 こんなに簡単に事が進むなんて、それとも飯村先輩がチョロすぎるのか?

 いや、深く考えるのはよそう。せっかくのチャンスだ。


「僕でよければ、エスコートさせていただけませんか?」


 おどけた感じで、中世の貴族がダンスに誘うような仕草をしてみた。


「はい、お願いします」


 先輩が、僕の差し出した手にそっと触れる。その瞬間、スマホから小さな音が響いた。

 どうやら「手を繋ぐ」の手前でも、進展したと判定されたようだ。これでペナルティは回避できたが、まだ油断はできない。

 僕が照れ隠しに手を引っ込めて「行きましょうか?」と言うと、先輩はどこか寂しそうな声で「……うん」と答えた。

 ……あれ、僕、何かやらかしました?

 建物から出て近くの公園に入ると、いつもより人が多く、みんなスマホを片手に何かを撮影していた。


「あ〜、動画がバズったから、人が多いんだね」


「動画、ですか?」


 僕が首をかしげると、先輩が親切に説明してくれた。

 曰く、全裸の幽霊だの、アサシン少女だのが目撃されたらしい。……って、全部僕じゃん!

 気配消しって完全に姿が消えるわけじゃないのか!? あと、やっぱり全裸姿で走ってた判定になってるの!? 背中を冷や汗が吹き流れていく。 


「真壁くん、どうしたの?」


 心配そうに顔を覗き込んでくる先輩。……顔が近い! そして可愛い!


「あ、いや……昨日、人だかりがあったのはアサシン少女のせいなのかなって思って」 


「生で見られたかもなのに、残念だったね!」


 ――すみません、僕がその当事者です。


「そう言えば、真壁くんはどの辺に住んでいるの?」


「施設の裏手にある、凸凹商店街の先ですよ」


「えっ、真逆じゃない! 遠回りさせちゃうね」


「いえ、駅のユニ○ロに服を買いに行ったり、他にも用事があるから大丈夫ですよ」


「じゃあさ、私が服を見立ててあげようか?」


 またしても顔が近くなる。

 自分の顔が急速に火照っていくのが分かった。


「服のセンスには自信がないので、お願いしても良いですか? なんだか先輩とデートみたいで恐縮ですけど……」


 すると、先輩は満面の笑みを浮かべ、僕の腕にぎゅっと自分の腕を絡めてきた。

 ……気のせいか、先輩に変身したときよりも胸が柔らかい気がする。



(飯村めぐみ 視点)

 やった!

 恥ずかしかったけど、積極的にアタックして「デート」って言葉を引き出したよ〜!

 これはもう、完全に私を意識している証拠だよね?

 ピコーン♪ と、真壁くんのポケットから電子音が響く。


「真壁くん、さっきからPayPayの音がしているけど、確認しなくて大丈夫?」


「えっと、オークションの入金通知だと思うので、別に今じゃなくても大丈夫です」


「へぇ〜、オークションやるんだ。何を出品しているの?」


「ガ○プラ……いわゆる、積みプラですね」


「ガ○プラ! それなら、アニメも観る?」


 実は私は隠れアニメ好きで、パパの影響でガ○ダムシリーズはほぼ網羅している。

 共通の話題ができたと思ったら嬉しくなって、つい真壁くんの腕に強く胸を押し当ててしまった。

 もうこれって運命だよね! 真壁くん、覚悟してね〜!



(真壁真 視点)

 真実を話すわけにはいかないから咄嗟にオークションの嘘をついたのだが、まさか先輩がアニメ好きだと判明するとは。

 しかも僕のバイブルであるガ○ダムにも詳しい。……正直、楽しすぎる!

 勝手に住む世界が違う人だと思っていたけれど、案外普通というか、僕に近い感性を持っているんだな。

 楽しく会話しながらユニ○ロに到着した。

 まずはズボンが欲しかったのだが、今の僕の正確なウエストのサイズが分からない。店員さんにメジャーを借りようと声を掛けたのだが……。


「あっ……」


 振り返った店員は、あの田中の彼女であるリカだった。

 リカと僕の間に、なんとも言えない奇妙な空気が流れる。


「真壁くん、この人だれ?」


 先輩が聞いてくる。言葉は笑顔なのに、瞳のハイライトが消えている。……メッチャ怖い!


「昨日のアレ(田中)の彼女です」


 僕は先輩の耳元でそっと囁いた。


「ああ……」


 納得した先輩の様子を見て、リカはハッとしたように、


「もしかして、アイツ何かやらかしました?」


 先輩は、昨日従業員通用口の前で田中に絡まれて困っていた事情を、かいつまんで説明した。


「言われてみれば、確かにアイツの言ってた特徴に似ている気がするけど……真壁くん、髪色も雰囲気も全然違うじゃん!」


 リカは少し考える仕草をした後、


「お客様、何かご用命でしょうか?」


 プロの店員としての態度にスッと切り替えた。

 メジャーのことを話すと、淡々と対応してくれた。その後はすぐに別れたが、リカの目には何か強い意志が宿っていた気がした。

 その後は、先輩が何事も無かったかのように「真壁くんは、これが似合うよ」と服を選んでくれて、本当にデートのような時間を過ごした。

 恋愛経験が無いから、これをデートと呼んでいいのかは分からないけれど。

 先輩はワンピースを1枚購入し、僕はTシャツとズボンを3着ずつ購入した。

 買い物を終えて移動しようとした時、大きな花束を抱えた田中がエレベーターから降りてくるのが見えた。

 咄嗟に物陰に隠れる。


「どうしたの?」


「昨日のアレが来たんですよ。見つかるとややこしいので……」


 なぜかこちらに向かって歩いてくる田中に向けて、僕は【気配操作】を発動し、僕たちの気配を完全に遮断した。

 すると、田中はすぐ近くにいる俺たちに全く気づくことなく、そのまま店内へと素通りしていった。

 どうやら、接触していれば同行している先輩にもスキルの効果が有効なようだ。



(田中和史 視点)

 俺は店内に入ると、すぐにリカの姿を見つけて大きく花束を振った。

 リカは足早に近づいてくると、低い声で言った。

「もうすぐシフト終わるから、下で待ってて」

 少し冷たい気もしたが、職場だし仕方がない。俺は大人しくスタッフ用の出口へ移動して待つことにした。

 元々リカとは本気で結婚を考えていた。少し気が早いかもしれないが、今日こそこの指輪を渡して仲直りしよう。


「お待たせ」


 しばらくしてリカが現れた。しかし、その表情は驚くほど暗い。俺は彼女を喜ばせようと、とっておきの話題を切り出した。


「なぁリカ、知ってるか? 駅前の公園さ、今お祭り騒ぎなんだぜ! 全裸の幽霊とかアサシン少女とかを撮影したくて、人がめちゃくちゃ集まってるんだ。幽霊なんか人間の恐怖心が見せた幻想だしさ、アサシン少女なんて、人に見られたら終わりだから今頃組織に始末されてんじゃねぇの?」


 すると、リカは俯いたまま、小刻みに身体を震わせ始めた。


「あんた……アサシン少女様を侮辱するな!」


 リカはカッと目を見開き、感情を爆発させた。


「和史がすぐにリカの機嫌を取りに来ないから、タチの悪い奴に絡まれたんだよ! それを助けてくれたアサシン少女様を侮辱するなんて、ふざけんな!!」


「えっ、あ、いや……!」


 俺は焦って言い訳を始めようとしたが、リカはそれを許さなかった。


「そういうとこだよ! リカは和史を信じていたから、すぐに許そうとしてたんだよ! それなのに、あんたはまた適当な言い訳ばっかりして!」


「だって、着信拒否されてたから……」


「それは、2時間経過しても連絡がなかったからよ! それまであんた、何をしていたの? どうせあんたのことだから、あの清掃員を探して白状させようと必死になってたんでしょ!? リカの恩人を侮辱するなんて、もう無理!」


 リカは足早に立ち去り、俺はその後ろ姿をただ呆然と見送ることしかできなかった。

 その場にガクリと崩れ落ちた俺のポケットから、小さな指輪の箱が、無情にも床へと転がり落ちた。

お読みいただきありがとうございます。

拙い作品ですが、毎日更新出来るように努力します。

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