97話:ヘンリーとの夕食
「ここの店は行きつけでね。雰囲気もいいし、料理は美味しいし、言う事無いんだよね」
ヘンリー様はそう言いながら、グイグイとワインを飲んでいく。
大人は酒を飲むけど、そんなに美味しいのだろうか。酔っ払った人を見ても、ああはなりたくないんだけどな。
「さて、それじゃあ食事に誘った本題に移ろうか」
そう言うヘンリー様の目がキリッと力強いものになる。
「公爵家として、いくつかディックス君に提案させてもらいたい。
ディックス君にも、公爵家にも利点があるものだと思っている。
特別協力者という関係を長く続けるためにも、守り守られるだけではなく、ビジネスでの繋がり、お金の繋がりがあった方が君も安心かと思ってね」
つまりは、私と商売をして、お金という繋がりを作ろうという事か。
不利になる点が無ければ受けたい所だ。
「具体的な話として2つある。
まず1つ目は、先日倒してもらったグランドベアの素材提供だ。もちろん対価は支払うし、ギルドに売るよりも少し高めで買い取るよ。
グランドベアはダンジョンにはおらず、ダンジョン外にしか生息していないが、明確な生息地が分かっていないモンスターだ。
だが、その素材は適正レベルにあった強さであるため、需要は旺盛なんだ。
そこでディックス君に定期的に納品してもらい、それを公爵家から王家や各地の領主に売りたいと思っている」
「定期的に納品するのは構いませんが、そんなに頻繁に出現しないと聞いているグランドベアの素材を定期的に入手していたら怪しまれませんか?」
「そこはこっちで上手くやるよ。
素材として売ってもいいし、武器防具や魔道具に加工してから売ってもいいわけだし。
もちろん、提供元であるディックス君の情報は厳密に隠すよ」
隠してもらえるなら問題ないかな。
「定期的な納品の仕方はどうすれば良いでしょうか?
定期的にタークス公爵領都まで来るのは大変ですので」
「そこはこちらから使者をクロス領都に送るよ。
お願いしたい素材の一覧を伝えて、出してもらって持って帰る形にすれば、ディックス君の冒険者活動の迷惑にはならないと思う」
「分かりました。それであればお受けします。
出せる素材の一覧はお伝えすべきでしょうか?」
「ゴードンから聞いているから大丈夫かな。
グランドベア以外に新しい素材があるなら教えて欲しいけど」
「それ以外にはありません。グランドベア、ミニクラーケン、レッサーベア、ケルピーが私が出せる高レベルのモンスターの素材になります」
「分かりました。明日、クロス領都に帰る前にいくらかお願いさせてもらいますね」
王都でもゴードンさんから依頼されて売ったし、異常な量で無ければいいかな。
「では2つ目の話だ。
こっちはディックス君の能力にかなり依存するもので、ディックス君の能力が知られる可能性が高いのでハードルは高いと思っているけど、提案だけはさせてね。
内容としては、ディックス君のスキルであるDividendを使った商売だよ。
シンプルに1経験値を110Gで売るという形を考えていて、差額の10Gがディックス君の儲けになる、というものだ。
どうだろうか?」
ヴェロニカとノクスにやっていることを他の人にもやるということか。
確かに2人に限定する必要は無い。
ヘンリー様からの依頼の分については受け取るお金の方が使うお金より多いし、それ以外の人へ投資したとしても、最大で投資した分の24%は1年で回収できるのだし、もっと対象を増やして多く配当をもらえるようにするのも悪くないだろう。
「対象となる人の中には、モンスターの討伐をして経験値を稼ぐ人もいますよね?」
「貴族の中にはジェームズのように軍を率いる者もいるからな」
「あと、私が110Gを受け取る場合、タークス公爵家としての稼ぎは無いですよね?」
「ふふ、すぐに気づくよね。
こちらについては相手をタークス公爵家で選別させてもらう。
ディックス君をできるだけ隠すためもそうだけど、お金を払えればレベルアップできるなんて他に無いからね。
それを受けられるようにしてあげれば、相手はタークス公爵家に貸しができる。我々はそれで十分だよ」
「そこまでの貸しになるのでしょうか?」
「なるよ、というか私たち兄弟にもして欲しいくらいだからね。
普通にモンスターと戦う時に軍や冒険者にサポートを受けることはできるけど、それでも危険はあるし時間もかかる。
それに対して、ディックス君なら危険は無いし、時間も一瞬で終わる。
クロス領都まで行く手間はあるけど、一気に上げる幅によっては大幅な時間短縮になるから、需要は高いと踏んでいる。
最初は公爵家の傘下の貴族や商会だけに声をかけてみる予定で、行く時は事前に連絡するよ。
そしてその日は領主館に来てもらいたいかな。頻度も年数回くらいに抑えるつもりだよ。
どうだろうか?」
王都に行ったタイミングでもっとジョブとスキルが知られて、貴族から面倒な勧誘が来ることを想定していた。
それがゴードンさんのおかげでそれが無くなったから、多少知られるとしても問題は無い気がする。
相手もタークス公爵家の特別協力者である私に、変な接触をしてくることは無いだろう。
「タークス公爵家で選別いただけるなら、タークス公爵家を通さずに私に接触しないようにと厳命することはできますよね。
そうしてもらえるなら、その依頼をお受けします」
「ああ。それはもちろんさせてもらうよ。
ひとまず、明日トーマス兄さんと私にやってもらってもいいかな?」
「はい、問題ありません。
あの。それとは別で1つお願いがあるのですが良いでしょうか」
「聞いてみないと何とも言えないが」
「公爵領都にある奴隷商で、私の求める人材がいたら教えていただきたいです。
具体的には私より年齢の低い子供で、冒険者として活動したいと強く思っていること。
あと、しばらくは私と同じ孤児院で生活する可能性が高いのでそれでもいいことです」
「構わないが、何のために奴隷を欲するのだ?」
「組織を作りたいと思っています。冒険者を中心にして、モンスターを倒したりして稼ぐ組織を。
そして孤児で無くとも、孤児と同じように苦しんでいる子がいたら助けになりたいです」
「まぁいいでしょう。条件は先ほどの3つとして、優先的なものはどれですか?
その目的だと冒険者である必要は無いですし、年齢も低い必要は無いのでは?」
「そう、ですね。正直、先ほどのDividendを使う話を聞いて思いついたものなので、しっかりと考えが固まっているわけではないです。
孤児院での生活というのも、セリアさん、院長先生に確認しないといけませんし」
「なるほど。概ねやりたいことについては理解しましたし、協力しましょう。
ただ、もう少ししっかりと構想を練って、しっかりしたものになってからの協力になります。
構想が固まったら、手紙などで連絡して下さい」
「分かりました。アドバイスもいただき、ありがとうございます」
「いえいえ。こう言ってはなんですが、考えがまだまとまっていないのを見て、ディックス君が年相応の子供なのだと安心しました。
戦闘力だけなら国内トップクラスですからね」
そう話すヘンリー様は、セリアさんのような優しい顔をしていた。
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