106話:新年の挨拶
タークス公爵領都の領主館で迎えた1月5日の朝。
王都の研究所と同じく、大きくてふかふかなベッドで眠って体調は万全だ。
部屋に運ばれてきた朝食をいただき、部屋に用意されていた服に着替える。
冒険者であり、特別協力者なのだからいつもの格好でもいいのではないかと思ったが、ちゃんとした場であり、服を用意もしてもらったので素直に従うことにした。
コンコンッ
「どうぞ」
着替えて部屋で待っていると、ノックされたので入ってもらう。
「ディックス君、おはよう。準備万端みたいだね。じゃあ行こうか」
部屋にやってきたのはゴードンさん。
ヘンリーさんかもと思ったが、聞いてみるとヘンリーさんは他の参加者の対応をしているそうで、今日は一日中ゴードンさんが付きっきりということだった。
研究員であり、公爵家四男でもある方にそんなことをさせていいのだろうか、と思うがゴードンさんが楽しそうだからいいか。
ゴードンさんに付いていくと、到着したのは領主館の裏手にある大きな建物。
領主館ほどの大きさではないが、豪華さはこちらが上だ。
「ここが今日の会場だよ。昼食会もこの場で行うからね」
「この建物は何なのでしょうか」
「我が家だよ」
……公爵家の家!? 豪華すぎないか!?
まぁ公爵家ならあり得るのかもしれないけど、それにしては豪華すぎる。
「家であり、こういう行事やパーティーを行う場として作っているからね。
ここまで豪華な部屋はここくらいで、2階以上にある各自の部屋や廊下は、領主館よりも落ち着いたものになってるよ」
ゴードンさんが、驚いている私に丁寧に説明してくれた。
こんな豪華な所で生活していたら落ち着かなさそうだし、ここに慣れたら研究所とか辛そうだなって思ってたから、そうじゃなくて安心した。
「さて、じゃあこっちに来て。ディックス君は私の右側に立っててね」
既に会場にいる方々がこちらを見てお辞儀をしたり、ゴードンさんに話しかけたりしている。
それと同時に、隣りにいる小さい子は誰だ? みたいな警戒するような目線が私に向けられる。
そうですよね。私も何故ここにいるのか分かりません、場違い感がスゴイです……
入口から見て一番左奥に来た所でゴードンさんが立ち止まり、目線でここにいるように、と伝えてきたのでそれに従う。
すると、他の参加者の方々も静まり、会場の中央を向いた。
「タークス公爵、及び領主代行、内政担当官、領軍指揮官の入場です」
誰かの声が響くと、私たちが入ってきた扉が再び開いた。
先頭を歩く、重厚な空気を纏ったおじ様の後ろに、トーマスさん、ヘンリーさん、ジェームズさんが続いている。
ということは、あの人がタークス公爵なんだろう。歩いているだけなのに、他の人とは格が違うと思わされる。
会場に設営された壇上に進みながら、公爵がこちらを見た。なんだが品定めをされているように感じる。
「諸君、あけましておめでとう。
今年もアミューズ王国、そして各領のさらなる発展のために、各自尽力することを期待している」
その後、今年の方針の説明や、新しく当主や商会長が変わった人からの挨拶が続いていく。
クロス伯爵は話さなかったから、クロス領主は今年も変わらないということか。
住みやすい街だし、領主が変わらない方が安心ではあるんだよな。
「では最後に、皆も名前だけは知っているであろう、タークス公爵家の特別協力者となったディックスを紹介する。
ゴードン、頼んだぞ」
「はい。ディックス君、ついてきて」
ゴードンさんに頷き、後をついて壇上に上がる。
「公爵家四男ゴードンです。父上から説明があった、特別協力者のディックス君を紹介します。
彼はクロス伯爵領都の孤児院で生活していますが、Cランク冒険者であり、昨年のクロコ男爵領都に出現したグランドベアを単独で討伐した実力者です。
その事は直接対応をした兄上たちが証明しています。
彼のジョブとスキルが、私が研究している古代文字で書かれていることで始まった関係ですが、彼の力はタークス公爵領、クロス伯爵領だけでなく、国全体に利益ををもたらすものであると思い、特別協力者となっていただきました。
特別協力者とは言っていますが、彼が公爵家に協力するのではなく、お互いに協力しあう関係であり、対等な関係です。その点を忘れずにいただきたい。
私からの紹介は以上です」
スゴイな。咄嗟に考えているのか、事前に考えていたのかは分からないけど、すっと入ってくる言葉だった。
「彼は見ての通りまだ若い。つまり、まだまだ強くなる。
私は、彼がヌタプダンジョンを踏破してくれると確信している」
っ!? タークス公爵からの突然の言葉に驚くしかない。
ダンジョンの中で唯一未踏破となっているヌタプダンジョン。
Sランク冒険者でも踏破できていないそこを私が……
「一方で彼はこの見た目だ。舐められることもあるだろうが、そこは我らで守るようにしたい。
まぁすぐにAランクまで上がって、その必要も無くなるだろうがな。
期待しているぞ」
こちらをしっかりと見て放たれた言葉は、私に大きな重圧を与えると同時に、高揚させる言葉でもあった。
これが公爵当主。スゴイという言葉以外が思いつかない。
「それでは、以上で新年の挨拶を終了と致します。
このまま昼食会となりますので、椅子にかけてお待ちください」
司会の方の言葉で、場の雰囲気が柔らかいものへと変わったのを感じた。
ここまでが格式高い場、ここからは軽い場ということなのだろうか。
「じゃあ私たちも捌けようか。会場の準備中にも色々な方が話しかけてくるだろうから、あまり休まらないだろうけどね」
ゴードンさんの後をついていき、壁際に置かれた椅子に腰掛ける。
そこへやってきたのは公爵様。
慌てて椅子から立ち上がり、頭を下げる。
「礼儀正しい子だな。だが、そこまで畏まらなくていいぞ。
公爵家とお前は対等な関係だからな。
まぁCランクだと他の人から見たら対等には見えないから、早いことAランクまで上がって欲しい所だな。
14歳までは孤児院のあるクロス領都から離れないみたいだし、その後でマクカリダンジョンを攻略してもらえれば問題ないぞ」
そう言いながら、公爵様は私の頭をガシガシと撫でてきた。
「ありがとうございます、公爵様。孤児院を出たらAランク冒険者を目指して活動します」
「なんだ? 俺だけ様付けだと仲間外れじゃないか。
トムハット・タークスだ。トムハットさんとでも呼べ。
俺を『さん』付けで呼ぶだけでも関係性を周囲にアピールできるからな。
お前の身を守るためにもそうしておけ」
……本当にいい人たちに出会えたな。
「分かりました。これからもよろしくお願いします、トムハットさん」
「ふっ、それでいい。後は任せたぞ、ゴードン」
「分かりました、父上」
トムハットさんは私の側から離れて、他の貴族の方々がいる場所へ歩いていった。
そこからは怒涛の挨拶ラッシュ。
顔も名前もほとんど覚えていない。唯一、クロス伯爵だけは覚えていた。自分が住んでいる場所で、日頃からお世話になっている方だから、自然と記憶に残っていた。
他にもイムス伯爵やクロコ男爵からも挨拶されたのは覚えているが、顔は覚えていない。
昼食会で食べたものも、美味しかったはずなのに覚えていない。楽しみにしてたのに……
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