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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイド 帝都に行く――  作者: あてな
【第一章】ドラゴンと少女たち帝都に触れる
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豪華な昼食とその見返り その1

 食堂に招かれた四人は執事の招きによりそれぞれの卓に座った。

 だがここで早くも問題が起こる。豪華な椅子には豪華な背もたれが着いていたからだ。その人間用の椅子ではキルトランスの翼と尻尾が邪魔になってしまう。

 「も、申し訳ない。それは気がつかなかった。」

 慌てるカタン大佐。執事の男も珍しく焦る様子が見えた。

 「……いや、かまわぬ。ここは人間の世界(アルビ)なのだから、私に合わなくても仕方あるまい。」

 「だからと言って主賓を立たせたままと言うわけには……。」

 気にせず立ち尽くすキルトランスをとりなそうとするカタン大佐。

 「もー、こういう所、イルシュは気が利かないわよね……。」

 「ご、ごめん……。」

 わざとらしく呆れるレッタに恐縮するイルシュ。

 確かに村での生活ぶりは十分に知っているはずのイルシュであれば、事前にキルトランス専用の椅子を用意することも可能であったろう。だがそこに気を回せないのが彼女が彼女たる由縁だ。

 「ねえ、執事さん。オット、あるかしら?」

 「ございますが……。」

 レッタが執事に問い掛けると、瞬時に合点がいったのか深く頷くが、それでも難色を示す。オットは本来は足置きの道具であって、それに座るのは失礼であり、まして客人に座らせるなど無礼極まる行為であろう。

 「いいのよ。ウチでもそれに座ってるんだから。」

 アンタ達面倒くさいわね……とでも言いたげな表情で言うレッタ。苦笑するアリア。

 執事は念のために主人の顔色を伺うか、彼もまた仕方無しという表情で執事に向かって頷いた。全員の了承があるのであれば執事の彼がこれ以上口を挟む必要性も無い。彼は少しだけ機敏な動きで部屋から出ていった。

 「別に私は構わぬのだが……。」

 「いや、こっちが座っててアンタが立ってると首が疲れるのよ。」

 そのやり取りを注視しながらカタン大佐は思った。

 確かに娘の報告書には何度も「普通」に暮らしているという事は書かれていた。だがそれでも頭のどこかで『相手は魔界のドラゴンであるのだから、村の支配者の様に暮らしている』という勝手な先入観を持っていた。

 このレッタという少女とキルトランスというドラゴン。眼前の応酬を見る限り、完全に対等。むしろ若干キルトランスの方が下にさえ思えてくる。どうやら「居候」という表現は完全に事実らしい。

 (だがこの魔女は……。)

 彼の隣で静かに座る黒髪の少女に目を移す。マントは着けたままだが、先程とは事なりフードを外している彼女を見ると、やはりそれは魔女という名に相応しい美しい黒髪であった。

 もちろんカタン大佐は市井(いちい)の流言飛語を鵜呑みにするほどの無教養ではない。黒髪はあくまでも隣国ガヴィーター帝国の地域に多い血筋であり、魔力が強い女性に見られがちな傾向なだけであり、絶対ではない事は知っている。

 しかし、いくら魔力が強いと言えども人間にドラゴンを御せるほどの魔力があるだろうか?もし本当にそれほどの魔力を持っている人間が、辺境の地とは言えども存在していれば、それは噂になって絶対に帝国の魔戦部に伝わっているはずだろう。

 彼女が本当の魔女である可能性は排除しきれない。しかし眼前のやりとりを見ていると、このドラゴンは御(ぎょ)する必要がそもそも無かったと思える。

 帝都へ送られた村長からの陳述には「魔女がドラゴンを操っている」とは書いてあったらしいが、むしろそれが村長の思い込みなのではないだろうか、とすら思えてくる。実際には思い込みではなく悪意に基づく報告であったのだが、それは帝国軍側が分かるはずも無い。

 それでもやはりエアリアーナを意識してしまうのは、「黒髪は魔女」という認識が帝国に深く根付いている証拠でもあった。

 「お待たせいたしました。」

 執事が豪華なオットを抱えて部屋に入って来た。彼は素早くキルトランスの椅子を取り換える。

 それに座るとキルトランスは小さく喉を鳴らした。当たり前ではあるが、オレガノ邸のオットとは品質が大きく異なる。彼が座ってもオットは軋みもせず、尻の沈みも快適であった。

 「良かったですね。いい椅子みたいで。」

 アリアがキルトランスの方を見て微笑む。それに無言で頷くキルトランス。

 それを見てカタン大佐は(盲目の女がなぜそんな事を言えるのだ?)と訝(いぶか)しんだ。

 だが共に暮らす彼女からすれば、先程のキルトランスの喉の鳴らし方は喜んでいる時の音色だと一目瞭然なだけであった。

 上座にカタン大佐、左にイルシュ。その向かいに主賓であるキルトランス、隣にアリア、そしてレッタ。イルシュの隣にはホートライドという席順で昼食は始まった。


 食後の甘味の余韻を楽しみながら、一同の話に花が咲く。

 見慣れぬ食事に戸惑いつつも、その美味に舌鼓を打つ村の四人。そして村に滞在中、事あるごとに帝都の料理自慢をしていたイルシュは、それが嘘ではなかったという証明が出来てご満悦の様子。

 そしてキルトランスの魔力を使った食べ方をカタン大佐が大層感心しながら見て、それと共に盲目のはずのアリアが流暢(りゅうちょう)に食べる様を見て驚いていた。その流暢さに幾ばくかの疑念を持ったが、それは単に彼が先天性の盲目の人を見たことがないだけである。戦争犠牲兵士の慰問は行ったことがあったが、彼らは戦により突然光を失った者である。生まれてから一度も光を知らぬ少女とは所作の慣れが違うのだ。


 「で、イルシュ。さすがにそろそろ隠してる事を吐いてもらってもいいんじゃない?」


 その談笑の時間を切り裂くようにレッタが口火を切った。一同の顔が引き締まる。

 後で後でと先延ばしにしていた事だが、流石にそろそろ白状しておかなければ、互いの信用に関わる段階にはなっていた。

 「ふむ……。確かにお嬢さんの言うとおりだ。そろそろ本題に入らせてもらおう。」

 執事が後ろ手に合図を出すと、数人いたメイドが深く一礼をしながら速やかに部屋を出ていく。それと共に執事もまた部屋から出ていった。これで食堂には関係者だけが残った形となる。

 「まず、そちらの事情に関しては昨日、ホートライド君とレッタ君からおおよそは聞いてあるが……。」

 場を仕切るようにしっかりと話始めるカタン大佐。

 「タタカナル村での帝国軍との戦いの件で帝国上層部に陳述をしたい事がある、と言う事だね?」

 一同を見回せば各々が頷いて返す。

 「そうだ。あの戦闘はあくまでも村の自衛のためであって、我々に帝国への反意は無いという事を理解してもらうためだ。」

 キルトランスが答える。

 (なるほど、このドラゴンと昨日の青年の話に認識の食い違いは無い)と納得するカタン大佐。

 「しかしだ。何の伝(つて)もない君たちがいきなり陳述しようとしても通らないであろう。」

 「そうね。それは昨日、嫌というほど思い知ったわ。」

 肩を竦(すく)めるレッタ。

 「出来るだけ上の者に話を通したい気持ちは分かる。だがね、ラクメヴィア帝国は恐らく君たちが思っている以上に巨大だ。一般国民の君たちが皇帝陛下にたどり着くには何十もの役職を越えなければならない。」

 そう言って少しもったいぶるカタン大佐。田舎者の彼らに今の状況を理解させるためだ。

 「だが、奇しくも君たちはイルシュと知り合いであったが故に、今ここにいる。」

 「おかげで安全に帝都の中に入れてくれた上に、こんなご馳走までいただけるなんて、どんな取引材料があるのかしら?」

 大佐の威厳などお構い無しに口を挟むレッタにカタンは内心ため息を着いた。

 昨日も思ったが、この少女は思った以上に切れ者で扱いづらい。彼女を敵対させない事が今後の取引の要になりそうだと思った。

 「話が早くて助かるね。実はキルトランス君については……。」

 そう一呼吸おいてキルトランスの方を向くカタン大佐。


 「イルシュ中尉の専属になってもらえないだろうか?」


 村の一同に驚きと同時に疑問符が浮かんだ。

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