事後処理と叙任
「銀鷹征北将軍ラース リットラント殿前へ!」
呼び出しに応じて、陛下の前へ進みでる。
「先の南部貴族による反乱平定の功により、ラース リットラントを大公爵に叙任し、オースティン王国軍副元帥に任じる。加えて…新称号「王国の剣」を与える。」
陛下の前に跪き、勲章を受け取る。
「謹んでお受けいたします。」
受け取ると同時に、音楽が流れ始める。それと同時に観衆から歓声があがる。それに応えながら決められた花道を歩く。
用意された部屋に入ると、シルビアとマーチ殿下が座っていた。
「お二人ともお揃いでどうしました?」
「おめでとう…副元帥か、これでラースはオースティン王国軍の実質的なトップになった訳じゃ…気分はどうじゃ?」
「まぁ…悪くはないね。」
「ふふふ…大公爵に王国の剣とはね…前代未聞の称号を二つも手にして…もうラース殿が王になった方がいいのでは?」
「マーチ殿下…冗談でもよしていただけませんか?畏れ多いことです。」
「貴殿でも恐れるものがあるのか?あと…俺はもはや王族でもない。シルビア姉様と同じような口調で頼む。殿下も不要だ。」
マーチ殿下はベルモント王家に留め置かれ、シルビアの従女のようなことをやっている。弱小である程度の爵位を持つ家に嫁がせる予定だったのだが…ちょうどいい家が見つからない。
「そうは言っても…王族の血脈であることには変わりないでしょう。」
「どうでも良いが…父上とザルフ卿が奥で待っておるぞ。」
「それを早く言ってください…。」
二人の間を抜けて奥の部屋に入る。
「おう!待っておったぞ」
そこには、ベルフェルム陛下とザルフ公爵の二人が酒を飲んでいた。
「その勲章似合っているよ。しかし…17歳の少年が副元帥とはね…大公爵か…大公閣下とお呼びした方がいいかな?」
陽気なおっさん二人の前の席に腰掛ける。
「よしてください。…それよりいいのですか?国のトップ二人がこんなところでサボっていて。」
王家の没落によって、公爵家のザルフが宰相と財務卿を兼ねている。外務卿は侯爵家を事務次官に繰り上げて当場を凌いでいる状況だ。
グレン家の謹慎が解ければ、外務卿に戻す予定なので少しマシになるだろう。
「固いこと言うな…内乱前から働き詰めだ…今日ぐらい良いだろう。お前…時々、余より王みたいだぞ…それに…お前もトップのうちの一人だぞ。」
「ははは!確かに…それにしてもミリィとセロア殿はやはり来れなかったのかい?」
「ええ…まだ安定期に入っていませんので、家で安静にさせています。」
内乱が終わった直後に二人の妊娠が発覚した。まぁ、やることやってた訳だから当たり前だろう。
「まぁ、無理することもあるまい。ああ…余も早く孫を見たいものじゃな…。」
「そうですね。王家が一つとなった今…シルビア殿下の子が王位を継承する可能性もある訳ですから…」
「…そうなるのですか?」
「うむ…王家が一つとなったので、王位継承のあり方も大きく変えようと考えておる。混血であるシルビアは無理でも、ラースとの子は王家と公爵家の血が濃いし、候補の一つじゃな…まぁ、産まれんことには何とも言えんがな。」
所々で、プレッシャーを掛けるのをやめてほしい。
「まぁ、なるようになりますよ。」
「ふん…それでマーチはもう抱いたのか?」
「ぶっ!…なんでそんな話しになるんですか?ボケるには早いですよ。陛下…」
思わず飲んでいた酒を吹き出し、二人に吹きかける。
「そういう噂が流れていてね。マーチ殿下もどうせならラース殿と結婚したいとさ。」
何考えてんだ…あの馬鹿娘め…父親の仇だぞ僕は
「正気ですか?」
「ワシもどうかと思ったのだが…もういっそのことお前に嫁がせれば諸々が解決すると思ってな。」
あ…嫁入りの話をどれも断られたから面倒になって、僕に押し付ける気だな…この親父…
「ずいぶんとマーチ殿下に甘いですね。」
「いや…格好はともかく…アレは妹に似ておってな…つい甘やかしてしまう。それに、考えたくはないがシルビアとお前の間に子が出来なかった場合は…色々と問題がある。公爵になったグレン家から跡取りをとなっても…あそこの血筋は魔力が弱いからの出来れば強い血筋を残したいのだ。」
「そこで、マーチ殿下だ…ベルモントとヴェルセンの直系で…性格的に戦闘向きではないが強い魔力を持っている。ラース殿も公爵家の血が入っており、魔力が強い…二人の子なら充分な素質が期待できる。」
「…シルビアが子供を産んだ場合に混乱の元になるで、やめた方がいいのでは?それに、ミリィやシルビアが許さないでしょう。」
「いや…この話はシルビアが持ってきたぞ。二人に子が出来たから…一人でお前の夜の相手をするのが応えたらしい。このままじゃ死ぬって言ってたぞ。」
な…なんだと…
「実は、ミリィもこのままじゃ。絶対に浮気するので安全な側室を作るなら渋々だが同意すると言っていたよ。なので…君が同意すれば障害はなくなる。」
おいおい?夫婦関係は良好だと思っていたんだが…どうやら僕の信頼度は相変わらず低いままらしい。
「いや…同意もクソも、僕はマーチ殿下のことをあまり知りませんし…結婚なんて考えられません。」
「これから知ればよい。それにマーチは変人で男装が趣味で偏屈な変人だが…美人だろ?あのデカイ胸や性格キツそうな顔を好きにしていいんだぞ?どうだ?燃えるだろ?」
「…とにかく今はそんなつもりはありません。それで?プロセリアに亡命したオルタラント公はどうなりましたか?」
「オースティンとして正式に抗議したが…亡命してないの一点張りだ。国境付近に派兵したのも、こちらが南部地域に大規模な派兵をしたからだと、言い張っておる。さらに、抗議してきたことに抗議して貿易を止めるとまで言い出した。」
「まぁ、別に言わせておけばいいのではないですか?今回の内紛で関係の深かった南部貴族は弱体化していますから、貿易を辞めても文句を言う貴族はいませんよ。それに、我が国の輸出を断てば競争力を失って困るのはアッチですよ。」
「馬鹿だから、こちらが黒字だから貿易を止めれば困るとでも思っているんだろうね。」
「その可能性はありますね。こちらとしてはフーリア公国などに売ってしまえば、儲けは変わらないし、他国に比べて割高な原料を使って競争力を失うのは自分達だと思うのですがね。」
「しばらく放置しておこう…マーシアの方はどうじゃ?」
「皇帝は国内問題に手一杯でしょうね。フラレシア王国がマーシアの海洋進出に反発していますから、南部マーシア植民領との紛争に発展する可能性もあります。」
「ならば…こちらに来る心配はしばらくないのか?」
「…南部大陸に限ればフラレシア王国が優位ですからね。海上では、マーシアが有利でしょうがフラレシアに勝つには陸軍を海上輸送する必要があります。莫大な費用がかかりますし、こちらもリットラント伯が国境付近で牽制しますから全力で当たれない。そうなれば長引く可能性が高いです。」
「戦況にもよりますが、こちらから攻めるのも手かもしれません。」
「どういう意味じゃ?」
「海賊行為でマーシアの通商を妨害したり、残りの旧オースティン領を取り戻したり出来ると言うことです。また、プロセリアがマーシアを支持するようなら…これを機に同盟を延長せず、プロセリアを叩くのもいいですね。」
「…そのままマーシアと戦争にならんか?それに、プロセリアとの戦争に反対だったのでは?」
「どちらにせよマーシアの準備が整えば戦争は始まります。それなら、準備を邪魔して、こちらが出来るだけ有利な状況で戦争出来るようにしなければなりません。」
「ふむ…プロセリアはどうだ?」
「プロセリアに対しては、国力差が一定以上広がりました今なら先の内紛程度の戦力で打倒できるでしょう。それに来年には、同盟を延長する期限になります。マーシアが思った以上に内政で手間取っているのも要因ですが、フラレシア王国と戦争になれば我が国がプロセリアと戦争になっても干渉する余裕はないはずです。」
「その後の統治はどうするんだい?」
「統治しません。軍隊を縮小させ、減税するのと、農業を推奨するくらいです。鉱物資源の権利は握りますが後は自由にさせます。我が国の足を引っ張らない国にすれば、後は貧しい農業国になってもらいましょう。」
今後の方針は決まっている。マーシアの通商破壊とフーリアとフラレシア両国との対マーシア同盟成立だ。プロセリアは役に立たないどころか害悪だ。国の形は決まった。次は南部大陸の盟主となり、国力でマーシアと対抗できる国を作っていかなければならない。




