ビックスライム
自分をぐるりと囲むのは大量の魔族たち。
彼らは皆、殺気だって僕を……ただの、一匹のスライムに向けてくる殺気ではない。
「死ねや」
とはいえ、最初の攻撃はこちらをスライムと舐め腐ったずいぶんとしょぼいものだった。
僕はその一撃を固有スキルで防ぐ。
「……ァ?」
空間操作。
その使用法は多岐にわたる。今、使ったのは空間断絶だ。僕の前の空間を切り裂いて空洞を作ることで、壁としての役割を持たせられるのだ。
この空間断絶の射程範囲も、効果範囲も随分と短いが、小さなスライム一匹を消し飛ばす為に発動した魔法くらいな簡単に防げる。
「(魔法力はそのままで助かった)」
初撃を防がれたことに魔族たちが驚愕し、動きを止めたその瞬間、僕は魔法を発動させる。
一秒も経たずして空が黒く染まり、雷鳴がとどろく。
「はっ?」
「だ、誰があんな魔法を……!」
雷撃が降り注ぎ、僕の周りにいた魔族らを消し炭にする。僕の魔法の実力は、まるで劣っていない。
「(身体操作ッ!)」
そして、その次に僕の体を一気に巨大化させる。
ビックスライム。その名に恥じないサイズにまで僕は巨大化してみせる。
「こいつ!?ビックスライムにまで成長していやがるのかっ!?」
僕の体が巨大化したことに周りの視線が集まっている中、分身体を巨大な体から作ってそのまま逃亡する。
戦場の真ん中から僕は少し離れ、土魔法で地面に穴をあける。
これは保険だ。巨大化した体がすべて消し飛ばされても、ここに僕がもう一人いれば、死んだことにはならない。
「(バーニングッ!)」
自分の分身体が地面に隠れた後、僕は巨大な己の体を燃やす。
己の肉体を燃料として燃やすことで膨大な熱を生み出すこの魔法は人であった時代ではまともな使い方が出来なかった。大怪我覚悟で一度使って、その後にパーティーのみんなからブチギレられて以来使っていなかった。
「うわぁっ!?」
だが、このスライムボディであれば問題ない。
まともに痛覚もないこのスライムボディが少しずつ燃料として燃え、徐々に縮んでいく。
「離れろっ!?」
だが、それでもまだまだ大きい。
既に多くの魔族を燃やした。これでも、まだまだだっ。僕は巨大化した体で前へと突き進み、自分から離れようとする魔族を猛然と追いかける。
「クソっ!?舐めるなよ!スライム風情がァっ!」
少し、調子に乗った。
「(ぎゃふんっ)」
魔族の一人が放った雑な魔法による攻撃で僕の体の上半分が消し飛んでいった。
防御力は未だ二桁。紙装甲だった。
「……は?」
魔法を放った本人もそんな削れると思っていなかったのだろう。
思わず足を止めて驚愕していた。
「(えいっ)」
なので、その足を止めた魔族を僕は自分の体で潰して燃やす。
「あいつ!見かけだけだぞ!」
「殺せぇぇえええええええ!」
「(ぴぇぇえええええええ!)」
快進撃はここまでだった。
紙装甲だとバレた僕へと多数の魔法が降り注ぎ、一気に僕の体が削られていく。空間断絶による防御があっても間に合わない。あれで守れる範囲よりも、圧倒的に攻撃の範囲が広かった。
と、というか、僕が望んでいる相手の攻撃が来な───。
「風よ、吹けっ!」
───来たッ!?
「吹き飛べッ!」
燃え上がる僕の体の炎をかき消すような、魔法による突風が吹いた。
「(……この、向きだな)」
僕は自分の体を再び切り離し、その吹き荒れる風に乗って飛ばされる。
分身体は同時に二つまで、既に元の大きさの四分の三ほどを失っていた僕の体は形を保てず、ボロボロ崩れていく。
「……スライムちゃん?」
風で飛ばされた僕の先。
それは一度、引き離されたリーシアの元だった。
「ぐ、……はぁっ……がはっ」
僕が魔族と戯れていた間の時間、リーシアは魔王軍幹部である豪鬼とタイマンをしていた。
その結果は一目見ればわかる。
聖剣を構えるリーシアには傷ひとつなく、代わりに豪鬼は膝を突き、血を吐いていた。
決着は明らか───だけど、その決着の瞬間に僕が来てしまった。
「(ちょっ!?)」
飛ばされてきた僕へとリーシアは視線を奪われ、これから首を跳ねようとしていた豪鬼から視線を外してしまった。
「らぁああああああああああああっ!」
「……ッ!?」
最後の意地。
豪鬼が一度は地面に落としていたこん棒を拾い上げ、リーシアへと叩きつける。
無様な、受け身だった。聖剣を構える余裕もなく、鉄のこん棒をただの腕で受けたリーシアは吹き飛ばされ、地面に転がった。
ダメージはそう、そうないに見える。
ただ腕を負傷した程度───だけど、再びリーシアが立ち上がって構え直すには少しのラグがある。
「おぉぉおおおおおおおおおおっ!」
それに追い打ちしようと豪鬼は地面についていた膝を起き上がらせて前へと運び、こん棒を振り上げる。
「(間に合えッ!?)」
僕は体を再び巨大化させ、一気に豪鬼との距離を詰める。
「(空間断絶ッ!)」
豪鬼がこん棒を振り上げるよりも前に、僕は空間断絶でもって豪鬼の頭と体を切り離す。首を消した。
豪鬼の体から力が抜け、ゆっくりと頭が落ちていく。
「……こちら、かっ」
ギリギリで間に合い、終わった。そう思っていた僕の耳に小さなつぶやきが届く。
「(はっ?)」
倒れ始めていた豪鬼の体が、脳の信号もなしに動き出した。
倒れ方が変わり、振り上げられていた豪鬼のこん棒が僕へと迫る。その、こん棒には膨大な魔力が込められていた。
「スライムちゃんッ!?」
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