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聖剣

 聖剣。

 勇者にのみ、持つことの許されたその剣は間違いなく世界一の剣、武具であろう。


「(相変わらず、凄まじい力で)」


 魔王軍の放った魔法は聖剣へと当たった瞬間にかき消される。

 それもすべて、聖剣そのものが有している魔力量が多すぎる為のもの。軟弱な魔法であれば、分厚い魔力の壁を越えられないのだ。

 

「……私の、ペットに攻撃を仕掛けた、わね?」


 相変わらずの聖剣の出力。

 それに僕が感心していた中で、ゆらりとリーシアが構える。彼女の魔力が、静かに高まっていた。


「……お、おい」


「ま、待て……あそこにいるの、勇者じゃないか?」


「は?ただスライムが近づいてきている、ってだけの話じゃなかったのか?」


 その魔力を前に、眼下にいる魔王軍の面々もざわめき立っていた。

 彼らは、自分たちが攻められる立場にあるとまるで思っていなかっただろう。何の心構えも、準備もしていなかった。


「死になさい」


 そこを、リーシアの魔力の奔流が襲った。

 彼女が聖剣を振り下ろす。


「はっ───」


 視界が白銀に染まる。

 聖剣より放たれた魔力の奔流が渓谷の地形を変え、魔王軍を飲みこんでいく。


「(どさくさに紛れて……)」

 

 僕たち勇者パーティーの最初の行動はいつもこれだった。

 リーシアの攻撃を元に敵の反応を確認する共に、追い打ちを加えるのだ。僕は雷の魔法で的確にリーシアの攻撃から身を守る魔族を狙っている。

 魔王軍を構成するのは魔族と魔物。この二種だ。

 

 二つの区別方法は簡単で、二足歩行をしていれば魔族。それ以外が魔物となる。

 主力となるのは魔族の方で、魔王軍に帯同する魔物は魔族の持つ特異なスキル『魔物支配』の影響下に入るそう強くない魔物だけ。あくまで、数合わせだ。


「(ちっ)」


 リーシアの攻撃で大多数の魔物が消し飛んでいった。

 だけど、魔族は的確にその攻撃を防いでいるのがほとんどで、僕の追い打ちにも対応してくる者が多かった。思ったよりも、精鋭が高い。魔族の中でもかなり上澄みが集まっているかも。

 それ相応に、今回の攻勢には力を入れているのかもしれない。


「(だからこそ、ここで僕たちの止める甲斐があるっ!)」


 ここで、この攻勢を止められたら、それまであった人類の絶望的な状況にも希望の光を刺し込むことになるだろう。

 意気揚々と、次の攻勢に入ろうと僕が準備した瞬間、1つの魔法が飛んでくる。


「……っ!」

 

 その魔法が狙う先は三つ。まずはリーシア。次に僕。

 そして、最後に狙ったのは僕たちの立つ渓谷の崖そのものだった。

 リーシアが防げたのは己の分と、僕を狙ったものだけ。崖を狙った攻撃までは防げなかった。魔族の誰かが使った雷の魔法が自分たちの立っていた崖を崩壊させる。


「(おわぁぁあああああっ)」


 僕の自認はまだ、結構人間の時のものがかなり残っていた。

 僕は崩れ落ちる崖の中でも受け身を取るつもりだったのだが、何も出来ずただガン、ガンと体を岩に打ち付けて落ちて行っていった。

 

「(痛い、痛い、痛いっ!?)」


 このままこの高所から何も出来ずに落ちたら死ぬ……!焦りの中で僕は体をねじらせ、魔法を発動させて何とかしようとする。


「スライムちゃん……!」


 だけど、それよりも前にリーシアが僕の体を抱き寄せてくれる。


「くっ……落とされる、つもりはなかったんだけど」


 僕という足手まといが中々に邪魔だった。

 崖から落ちる中でも飛んでくる魔法からスライムを守ることに力を割かざるを得なくなったリーシアは、落下に抵抗できずそのまま魔王軍の待つ崖下にまで降ろされた。


「スライムちゃんっ!?」


 その瞬間を狙われた。

 一息で僕たちの元へと駆け抜けてきた魔族によるこん棒の一振りをリーシアは聖剣で確実に防いだのだ。

 だが、その魔族は僕の体を掴み、そのまま引っぺがした。つるつる滑る僕の表面をガッチリホールドし続けるのはリーシアでも難しく、魔族に掴まれた僕はそのまま何処かへと投げ捨てられる。


「久しいな。勇者よ」

 

 リーシアの前に立つのは3mを超える巨躯を持った鬼の魔族。


「……魔王軍の」


「うむ。我こそは魔王軍幹部が一人、豪鬼よ」


 僕も見たことのある魔王軍の古参であり、強者だった。


「四天王でもない貴方が、今更私の前に立つの?」


「一人であるならば、容易いわ。我らを舐めるなよ?人がっ」

 

 魔王軍の強者と勇者が向かい合うのを宙で見つめる僕は少しの絶望と共に地面へと落ち、何度か跳ねる。


「たかがスライム風情が……余計なものを連れてきてくれやがってっ!」


 その僕をあっさりと多数の魔族が取り囲んだ。

 着地狩りされなかったのはただ、運が良かった。


「(あ、あわわわわ)」

 

 これが、人の時であれば何も臆することはなかった。

 ただ、今は違う。


「(ど、ど、どうしよう……!)」


 隣にリーシアがいなくなった中で僕は密かに冷や汗を垂らしていた。スライムに冷や汗を垂らすなんて機能ないけどっ。

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