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魔王軍

 昨日、僕が自由に草原を歩いていたのとは打って代わり、今日はリーシアが僕のことを抱き上げた状態で歩いていた。

 

「ちょっとした事情があって、私はもうやることがなくなっちゃったの」


「(僕としてはやることを取り戻してほしいんだけどなぁ)」


「だから、私は目的もなく自由に世界を見て回っているの……もしかしたら、楽しいものも見つけられると思って」


「(それは良いね。何か楽しいと思えることを見つけてくれると嬉しいんだけど……)」


「それでね?……やっぱり、なのかな。私が思い出したのはレイだった」


「(僕?)」


「……レイが、ひと時スライムをペットとして飼おうとしていた時があって」


「(そうだねぇ。自分が為った後に言うのもちょっとあれけど、普通に可愛くない?スライム。見た目滅茶苦茶可愛いと思うんだよね)」


「あの時は、私との時間を邪魔されるのが嫌で断ったんだけど」


「(えっ?そんな理由だったの?)」


「……彼が、望んでいたことをすれば、少しでもレイを感じられるかしら?」


 その一言に、僕は何も言えなくなってしまう。

 そんな僕の声がリーシアに届くことはない。それでも示し合わせたようにリーシアもそれからしばし黙ってしまう。

 しばらくの間、リーシアは無言のまま歩き続ける。


「……レイ」


 しばらくの無言の後、リーシアは僕であって今の僕ではない名前を呼ぶ。


「(なぁに?)」


「私、……楽しく生きられているかしら?」


「(……)」


「レイが、私の幸せを願っているのは知っているわ……だから、今の私が良くないってことも知っている……でも、私は貴方の居ない世界でどうやって笑えばいいの?」


 僕は何も答えられない。

 口があれば。でも、僕は何も言えない。これまでの相槌もすべて一方通行で、彼女には何も届いていない。


「ごめんね……湿っぽい話を聞かせて」


 ただ、歯噛みすることしかできない僕の体をレイはぎゅっと抱きしめる。


「冷たい」


 1つのつぶやきの後、僕の体を彼女は離す。

 

「また、自由に歩いていいよ?」


 旅の主導権が僕にまた預けられた。

 僕はリーシアを先導するように歩き出す。今にして思えば、昔からそうだった。リーシア含め、みんなを先導しているのは僕だった。

 また、こうして前を歩けるのは良いね。どうにかして、前のようにみんなと旅出来るような状態にしたい。


「……可愛いね」


「(ちょっと複雑)」


 ただ、前を歩く僕をリーシアから可愛いと評されるのは少しだけ不服かもしれない。

 いや、でも前世の僕も小柄で周りから可愛いと評されることが多かった気も……いや、でも少なくともリーシアから言われることはなかったよっ。

 全然可愛いって言われること認めていなかったしね、僕。

 あれ、普通にただの悪口だよね?チビって言っているようなものじゃないか。


「(許されないよねっ!)」


 前世の怒りを思い出した僕はそれの憂さ晴らしをするかのように魔法を使って、自分の感知の中に入った魔物を潰していく。

 ただ真っすぐに僕は進み続け、そのままそこそこ広かった森林を抜けてしまう。

 森林を抜けた先にあったのはこれまでとは一変し、自然ひとつない渓谷が広がっていた。


「(……魔王軍?)」


 その、渓谷の谷底に僕は多数の魔物並びに魔族の気配を感じた。

 

「(……ここは、レックス王国。となれば、この渓谷はグランド渓谷か)」


 僕はうろ覚えのレックス王国の地図を頭に思い浮かべる。

 この渓谷を進んだ先には彼の国の重要都市があったはずだ。つまり、僕が感じたこの気配の一団はこれより街を落としに行く軍団って、ことかな?


「(そりゃ、不味いね)」


 止めに行かなきゃだ。

 勇者パーティーの一人として、これは看過できない。


「あっ、ちょっとそっちは……」


 魔王軍に向かっていつもよし少し早い速度で歩み出した僕にリーシアがちょっとばかり驚きの声を上げる。


「……でも、スライムちゃんが望んでいることなら……良いよ、ついて行ってあげる」


 だけど、リーシアはその僕を止めるのではなく、その後を追いかけてくれる。


「(ふふっ)」


 リーシアは、もう勇者として戦ってくれなくなってしまった。

 でも、こうして僕がまた戦場に飛び出せば、彼女も着いてきてくれる。


「(さぁ!出合え、出合え!勇者パーティーのお通りじゃい!)」

 

 こうして、二人で魔王軍に特攻していくと昔を思い出す。

 でも、僕たちは昔の姿じゃない。大いに成長した姿で───。


「(ぴょわぁぁああああああああ!?)」


 ───あっ、僕は大幅に弱体化しているんだった。

 普通に考えて、僕が気配探知出来ているなら、向こうだってスライムの気配くらい捉えているだろう。僕が身を魔王軍の前にさらけ出した瞬間、飛んできた魔法に僕は思わず死を覚悟する。


「……危、ないよ?」


 だけど、その死は僕の後ろから一瞬で前に出てきたリーシアの聖剣によって綺麗さっぱり消え去るのだった。

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