スキル
「(二度目の進化完了っ!)」
一度目の進化から数時間。
太陽が落ち始めた夕方。もう夜と言ったところになって僕は二度目の進化を果たしていた。
───ビックスライム。
───魔力によって形成された粘液生命体。本来、すぐ淘汰されるはずの存在が運よく生き延びて力を蓄え、大きくなった姿。進化の幅が広く、成長次第では上位種へと至る可能性を秘める。
二度目の進化に関しては、選択先が一つしかなかった。
とはいえ、まぁ、悪くない進化なのではないだろうか?進化の幅が広い、っていうところがいい。
それで進化した後の僕のステータスがこれだ。
◆◆◆◆◆
名前:レイ
種族:ビックスライム
レベル:1/50
ランク:F
称号:『勇者の寵愛』
攻撃力:16
防御力:18
魔法力:1869
俊敏性:9
固有スキル:
『空間操作』
スキル:
『分身体』『並列思考』『捕食』『身体操作』
◆◆◆◆◆
レベルアップと進化を重ねたことで僕のステータスも随分と伸びた。
また魔法力も上がっている。一日でもう2もあがった。これまでの僕の努力を考えると、あまりに早く上がり過ぎて少し悲しいが……まぁ、上がる分にはいい。
下がっていないからね。
このままいけばすぐ前世の僕に追いつけるかもしれない。
それと今回に関してはスキルが増えると共に、数も増えた。
身体操作が増え、分裂というスキルが分身体に変わった。使い方の確認さえもまだしていなかった間にもう変わってしまった。
まぁ、文字通りだとは思うけど、一応確認しなかった。
「(おわっ)」
そんなことを考えていた僕の体がリーシアに持ち上げられる。
「重い……大きくなった。成長、した?」
はい。成長しました。
「……もちもち」
僕のぷるぷるなスライムボディに頬ずりしたリーシアはそのまま歩き出す。
もう、夜が近い。夜営の準備かな?今日のレベル上げはこれで終わり、かな?最後の最後で進化が間に合ってよかった。
僕が歩いていた草原のすぐ横には森林が広がっていた。
リーシアはその森林の中に入り、夜営の準備を始める。
とは言っても、準備と言ってもすぐに終わる。僕のことを抱えたまま魔法を二つ、三つ使って火を起こして野営地を作成。夜ご飯の為の獣も一瞬で刈り終える。
一分とかからず作業が終わった。
全自動で獣が捌き、串焼きの状態で火に焼くところまで完璧に終わった。
「ふぅー」
ただの一瞬ですべてを終わらせたリーシアは自分で作った木の椅子へと腰掛ける。
「……冷たい」
視線はパチパチと燃える炎のまま、リーシアはその体を僕の方へと倒す。
「レイも、冷たい子だったな」
そーねぇ。
僕は冷え性で、体温が低かった。
でも、スライムほど冷たくはなかったと思うよ?別に死んで……はいるけど、僕にも生きていた頃は人肌があったはずだ。
「あい、たいな……また。私も、……後を、追えれば」
「(……)」
その先は、どうか言わないで。
「……焼けた、かな」
火に焼けるお肉が香ばしい匂いを漂わせていた。
「……食べる?」
お腹は空いていない。
もそもそと食べ始めたリーシアから差し出された串焼きを僕は無視する。というか、それくらいしか出来ない。この手もないスライムボディに串焼きを押し付けられても、体が汚れるだけだった。
「要らない、か……ふふっ、私と同じ」
「(……)」
言葉の、節々から闇しか感じない。
「(……嫌に、なるね)」
リーシアが一人、悲しんでいる。苦しんでいる。
なのに、僕のこの身は何も出来ない。英雄として賞賛を浴びると思っていた人がただ一人、ただ肉を焼いたものを食べている。
その状況をすぐそばで見ているしかできなかった。
食事の後、すぐにリーシアは横に眠って静かな寝息を立て始めた。
灯りがそう多くないこの世界の夜にやることなんてない。さっさと寝てしまうのが一番で、僕たちが旅をしていた頃もこのくらいの時間に寝ていた。
「(眠くはないな)」
スライムと言う身だからだろう。
人間だった頃はもう寝ている時間になっても、僕はまるで眠気を感じていなかった。
「(よっと)」
にゅるんと体を動かし、僕はリーシアの元から去る。
よし、この夜の時間を使ってスキルの確認を始めよう。
まずは最初のスキルである分身体か?僕はスキルを発動させる。
「(二つになった)」
文字通りのスキルだった。
僕の体が二つになる。僕の目の前に水たまりで見たスライムの体がもうひとつあった。
「(分裂との違いは何だろう?まぁ、良いか。次は並列思考か)」
少しの疑問を横に置き、僕は次のスキルを発動させる。
次の瞬間、僕は同時に二つの自分の体を見合っていた。
「(……お、おぉ?)」
な、何だ?この感覚は?
スキルを発動させた瞬間に感じる不思議な感覚で僕は少し、困惑する。文字通り、思考が並列に、二つあった。それを同時に処理出来て……おぉ?
僕は同時に二つの体を動かし、体を震わせる。
どちらも僕で、自由に動ける。
「(めちゃくちゃ便利かも、これ)」
これはつまり、同時に二つのことが出来るってことだ。
一体はリーシアと行動して、もう一体は旅に出てもいいかもしれない。この世界の状況を自分の目で見て回りたい。それに二ついるなら、レベルアップの速度も二倍。
よしよし、なんかまた話せるようになった日が近づいてきた気がする……!
「……何処行くの?」
「(ぴっ)」
そんなことを思っていた瞬間、僕の二つの体が後ろから抱きしめられる。
そして、ただ腕の力だけで僕の体がまた一つに戻される。
「(い、何時から起きていたの?)」
リーシアが動いていた気配も、僕の元に忍び寄っていた気配もなかった。
「貴方は私のペットだから……ごめんね?でも、……私は、もう誰にも置いていかれたくなくて」
「(……っ)」
弱々しい言葉だ。
だけど、その手から感じる力は別。絶対に逃げられない───そう、感じさせるすごみがあった。
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