↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/52

部屋

 天井が崩れてきた地下空間。

 そこから脱出できたのはマリアの魔法のおかげだった。

 地上に出てきた後、エレノア王女殿下はメイドのリリーさんを医務室に連れて行った。

 その後、僕はマリアに連れられて、彼女の秘密基地だという部屋にやってきていた。


「なるほど……分身体か」


 古本の匂いに包まれた書庫のような一室。

 ただ、本があるばかりではなく、観葉植物が置かれていたり、ベッドや机に椅子。普通にゆったり過ごせるような部屋だった。


「そー。良い技でしょ?」


 その部屋のベッドの上、マリアの膝の上で髪を撫でられながら座る僕は自分が転生してからの話をしていた。


「貴方が私のところに来られたのも納得だわ。リーシアとラルムの二人がレイと離れることを良しとするようには見えないもの。そのスキルがなければ、来られていなかったわね」


「アハハ……」


 マリアの感覚的にもそうだったんだ。


「……それにしても」


「ん?」


「疑問だわ。貴方が大切にしていたのはリーシアでしょう?彼女と一緒に辺境で暮らす生活も悪くないでしょう?貴方が自主的にリーシアとの生活を捨て、魔王と戦うことに固執している理由がわからないわ」


「え~、ただ普通にその生活が嫌なだけだよぉ?」

 

 マリアの言葉に僕は頬を膨らませる。


「何で?」


「だって、その生活で僕は何をすればいいのさ」


「……何を?」


「そう。あれ?マリアには話していたよね?僕の身の上話。ほら、二人で魔法の研究も兼ねて辺境の村に行ったじゃん。その時にいた忌み子として牢に入れられていた人覚えている?」


「あぁ。それと、同じ……だったかしら?」


「そっ。僕もずっと牢屋の中で殴られ、蹴られての生活を送ってたの。だからさ、僕ってばあんまり普通の生活って想像できないんだよねぇー。何をすればいいのかわからなくなっちゃう」


「旅の、ままをすればいいんじゃないかしら?狩りをしたり、魔法の研究をしたり」


「でも、目的がないじゃん。目的がなかったら、それに辿り着くための道のりも作れないし……ほら、やることなくない?」


 目的があれば、後は遡っていくだけでいい。

 ゴールにたどり着くための道筋を作り、それに進むだけ。必然と、己がやるべきことも見えてくる。すっごいシンプル。


「……そう、かもしれないね」


「でしょー?」


 納得が得られたことに対し、僕が満足げに頷く。

 

「……ねぇ、レイ」


「ん?」


「お前、幼少期の頃に何か、自慢されたことあるかしら?」


「あるよぉ?僕の弟がさ、何かと色々なことを自慢してくる子で」


「……そう」


「それがどうかしたの?」


「いや、何でもないわ」


「そう?」


 明らかに何でもなさそうな顔をしているけど。


「まぁ、ならいいや」


 でもまぁ、本人が言わないことをわざわざ聞く必要もないよね。

 




 マリアが口を閉ざした後、レイがもう一度口を開くことはなかった。

 ぼーっと風に揺られて動く観葉植物の蔓の根を視線で追っている。


「(あぁ、……やっぱりそうなの)」


 そのレイの髪を撫でながら、マリアは下唇を噛む。


「(……知らない、のか)」


 撫でる手に思わず力がこもってしまいそうになるのを必死に耐える。


「(普通の生活も。人からの善意も、好意も、愛だって……私とて、知っている。最初から一人だったわけじゃない。でも、レイはずっと一人で……ただ、悪意のみを向けられていた)」


 マリアはレイを愛している。

 己の好意だって隠していないつもりだ。

 好きだと思った日から、マリアはレイに想いを伝え続けているつもりだった。


 だけど、致命的に遅い。

 

 レイに愛を伝えるにはあまりに遅かった。

 おそらく、リーシアがレイに出会った時でさえ、遅かった。レイは悪意しか知らない状態で育ちすぎた。

 今更、なのだ。今更好意を伝えたところで、気づけない。実感できない。

 幼少期の体験は、あまりに重すぎる。


「(悪意しか知らない。だから、善意に気づけない)」


 あまりに悲しい話だ。


「(悪意以外……唯一知る表現方法が。他人への自慢だけ……それ以外にピンとこない)」


 これが、人類の希望であった勇者パーティー。

 その核として、あまりに多くの役割をこなしていた男の姿なのだ。


「ねぇ、レイ」

 

 もう一度、マリアはレイに語り掛ける。


「んー?」


「レイが他人に自慢したいことは何かしら?」


「えーっ!そんなのもちろん、リーシアに決まっているじゃん!」


「……そうか。そうね……でも、レイ」


「ん?」


「私が誰かに自慢するとしたら、レイ。貴方だよ」


「えー?魔法じゃなく」


「えぇ、そうよ。貴方が……私の中でレイだけが特別」


「そぉ~、照れるなぁ」


 マリアはぎゅっと、レイのことを抱きしめる。


「……私が」


「んっ?」


 目をつむれば、すぐにレイと出会った日のことを思い出すことが出来る。

 レイとの思い出は、まるで昨日の出来事かのように思い出せた。


「私が必ず、貴方に───」


 マリアは勇者パーティーの中で、最も人の感情の機敏を読み取ることに優れている。

 貴族社会で最もうまくやっていけたのがマリアだった。


 故にそう。レイの歪にも、気づいていた。


 だから、レイの為に何をすればいいのか。

 生き返らせた後、レイと何をしようか。マリアはずっと、考え続けていた。


 ご覧いただきありがとうございました。

 ここより少しスクロールして広告の下にある『☆☆☆☆☆』から評価することが可能です。

 ブクマ登録、いいねも合わせて評価していただけると幸いです。


 また、感想は作品を作る上での大きなモチベとなります。

 感想の方もお待ちしておりますので、気軽にお願いします。


 表紙絵も公開しております。よろしければご覧ください。

 カクヨムの近況ノート

『https://kakuyomu.jp/users/ninnjyasuraimu/news/2912051605226585125』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。