アンデットアーク
『ぉああぁあああああああ!?』
「うぉっ!?」
待つべきじゃなかった。
僕は一瞬で己との距離を詰め、そのまま拳一つで僕の体の半分を消し飛ばしたアンデットアークに悲鳴を上げる。
アンデットというのは基本的に遅いものだ。だが、アンデットアークは僕の身体能力そのままに、信じらない速度を見せた。
「……ッ」
このままじゃ一瞬で体を消し飛ばされる。
ここで分身体が消えても死ぬわけじゃないが、残される側のマリアの情緒が終わってしまう……!こ、ここで死ぬわけにはいかないっ。
僕は大慌てで体を横へ横へと伸ばし、大きくなっていくことで物理的にアンデットアークから削り取られないようにする。
『アァァァっ』
的がデカくなった。
だから、アンデットアークは安直に僕を魔法で狙ってくる。
「魔法力ならこちらの方が上なんだよっ!」
魔法力のステータス値は今の僕の方が高い。
アンデットアークの魔法を僕の魔法でかき消し、逆に魔法の雨をその体に打ち込んでいく。
「ぶっとべ」
近づかせたら負けだ。
僕はひたすらに魔法を撃ち続け、アンデットアークの身を削り続ける。アンデットアークは魔法の雨に押され、その場から動けない。
その中で、僕の背後に魔力の点が忽然と現れる。
「僕なんだから、当然使えるよなっ!」
それも読んでいた。
魔力の点が出来た後、何が来るか。もちろん転移だ。
『ぉぉぉおおおおおおおお』
僕は魔法の雨を降らせる方向をくるりと変え、転移で僕の背後に立ったアンデットアークを再び魔法の雨で消し飛ばす。
「……埒が明かないな」
魔法はすべてアンデットアークの身に当たっている。
だが、アンデットアークはその身を常に再生させており、いくら僕が魔法を撃ち込もうと暖簾に腕押しだった。
「少しずつ……」
勝ち方の候補は端から幾つか思い浮かんでいた。
その中で最も良いと確信したものを僕は選ぶ。魔法を撃ちこみ続ける中で、僕はゆっくりと前に、前に自分の体を大きくしていく。
『ァァァァア』
バカの一つ覚え。
アンデットアークは再び転移で難を逃れようとするが、僕はもう360度すべてに魔法を撃ちこむことで逃げ場を消す。体が僕を求めているのか、彼がマリアたちを狙ったりもせず、こちらにばかり向かってきてくれるのも助かった。
「流石に動くだけの前世の体に負けることはないさ」
目と鼻の先。
そこまでアンデットアークと近づいた僕はそのままさらに体を大きくし、ぐるりと彼の体を囲み、上にも体を伸ばす。
「捕食」
僕が転生した日よりずっと付きまとっていたスキル『捕食』。
それでもって僕は己の体を包み込み、食らう。
『ァァァアアアアアアアア!?』
逃げ場はない。
横に行っても、僕の体が広がっているだけ。上からも僕の体が降り注いでいる。ここまで大きくなれば、アンデットアークの体すべてを呑みこむことも容易だった。
「───眠れ、僕の中で」
聖女。
そう呼ばれていた彼女の御業を模倣し、己の体の中で荒れ狂う魂たちを沈める。
「ふぅー」
魂が鎮まれば、残るは僕の遺体だけ。
それをただ捕食し、その情報を自分に吸収する。これで、僕の魂も元に戻ったのではないだろうか?
「どぉ?マリア」
「……ッ」
戦いを無事に終え、元の人型に戻った僕は少し離れたところにいたマリアの方に視線を向ける。
「ちゃーんとマリアのことも考えて綺麗に戦いを終えてあげたよ?マリアのおかげで僕はかつての体を手にし、完全にレイに戻れた」
捕食で得た情報を元に、一切狂いもなく前世と同じ姿に変身した僕はマリアに笑いかける。
「ありがと」
「……レイっ」
僕の言葉にマリアは手で口元を覆い、その瞳を潤ませる。
言葉もなかった。
「ふふん……っと。でも、今の僕はスライムなんだし、元の形が良いな」
僕はそんなマリアから視線を外し、上を見上げる。
この場で僕は好き放題に魔法をぶっ放した。その代償が、天井のヒビに現れていた。
「さっ、二人とも。逃げようか!ここ、崩れて来るよ?マリア、案内して」
「……ッ!?」
「おわぁぁぁあああ!?」
最初は小さなヒビだった。
だが、その次の瞬間には大きなヒビへと変わっていった。天井が落ちてくるのも、時間の問題だった。
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